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親指シフト

コンピュータ

親指シフト

おやゆびしふと

1979年ローマ字入力JISかな入力の不満点を解消するために富士通が開発した、キーボードで「ひらがな」を入力する方式の一つ。

ワープロ専用機と紐付けされて利用され、初期には20%を超える普及を見たが、ワープロからパソコンへの移行とともに普及率を下げていった。2012年に至ってもなお根強い支持者がおり、公式・非公式を含めて複数のサポート体制がある。

主だったサポートとしては、Windowsパソコン全盛の21世紀でも変わることなく、富士通による専用キーボード*1・専用IME*2の販売が続いている。

また新たな流れとして、「さまざまな入力法を再現するソフト(=エミュレーター)」のうちいくつかが、日本語入力コンソーシアム基準配列(先頭を採ってNICOLA、ほぼ親指シフトと同じ)をサポートしている。こういったソフトウェアは「NICOLAの再現」ではなく「NICOLAを含めた入力法全体の使いやすさ改善」に対して、それぞれ特色を持っている。中には、富士通自身が規格を実装できていない「一本指入力への対応」*3を先行サポートしたり、親指を離すタイミングの遅れ補正について別の解を実装したり*4JISキーボードで他の入力法を使うユーザーのためにと壁紙にけん盤配列を合成表示したり、あるいは最新OSに対して富士通よりもすばやく対応する例があるなど、それぞれが野心的なチャレンジに取り組んでいる。


なお、携帯電話の「親指入力方式(かなめくり入力・ポケベル入力など)」とは別物である。


概要

コンピュータによる日本語入力法について、機材が高価であった1970年代までは「長期にわたり訓練された専門のタイピストのみが、手書き速度比数倍にもなる超高速で、手書きされた原稿をコピータイピングすることによって、はじめて元が取れるもの」であり、一般には縁遠い存在だった。

しかし富士通は、1980年代のうちに一千万台規模で安価な日本語ワープロが普及し、特に訓練を受けていない一般的なオフィスパーソンまでもが、手書き原稿を書かずに直接創作タイピングするために使うと予測していた。

手書き原稿から脱した次世代の機材に求められる入力法として、富士通は「手書き時代と同等かそれ以上(少なくとも70かな/分程度。これをかな漢字変換すると、手書きでの漢字かな交じり文で30文字/分に相当する速さとなる)*5の入力速度に狙いを定め、文字入力そのものを本業とはしない人でも比較的短期間で習得でき、親しみやすくて手書きよりも労力が少なく、かつ英文タイプライタのように使える」方法が適切であると考えていた。

こうした狙いから、富士通1977年1979年に「日本語電子タイプライタ OASYS」のための日本語入力法、のちに親指シフトと呼ばれたものを設計した。


親指シフトの開発途中には、現在の「スピードワープロ」のような「少ない文字キーを複数同時に押す」方法*6や、数年後に実現された「TRONキーボード」のような「エルゴノミクスキーボード*7なども実際に製作してきた。

しかし一連の実験を通じた結論として、最終的には「英字入力と同等の操作性」を求めて同じ見た目のキーボードを採用し、ひらがな入力についても英字入力と同じ「1文字=1操作」を実現する方法へとたどり着いた。


こうして「創作文章を普通の速度で入力する一般的なユーザーにとって、ちょうど使いやすいこと」を目指して設計されたはずの親指シフトであったが、後の宣伝戦略は親指シフトの特性──創作に必要十分な、速さ・覚えやすさ・使いやすさのバランス感覚──を生かすものではなかった。

ワープロ専用機が普及するにつれて、「辞書チューニングを活用した、親指シフトによる超高速コピータイピング」を編み出したユーザーがワープロコンテストで上位を占めるようになると、「親指シフトだからこそなしえた」という形で宣伝に利用した。これは裏目に出て、「親指シフトは一般的なユーザーにとって無意味な、とても特殊なもの」という、設計意図とは正反対の印象を与えてしまう結果にもつながった。実際には、近年のテレビ字幕入力などにおけるリアルタイム入力の分野で「スピードワープロJISかな・親指シフト」などがそれぞれ利用されているように、入力速度はあまり入力法に依存せず、ほぼ人に依存する問題である。

後にインターネット(特にblogtwitterなどのメッセージツール)が普及し、当時富士通が夢見ていた「一般的なユーザーが、大量の創作タイピングを行う時代」となったが、親指シフトに対する過去のイメージを覆すことは、未だに実現できていない。


なお2011年の時点では、キーボード単独での親指シフト入力を行うためには、PS/2親指シフトキーボードを用いる必要がある。

一方で、後述のソフトウェアを用いる方法であれば、キーボードに縛られず親指シフトが使えるようになる。もともとは一般的なJISキーボードによる親指シフト入力を行うために作られたが、USB親指シフトキーボードでも同じソフトウェアを用いて親指シフト入力を実現している。

*1:時期により種類は変動するが、概ねPS/2接続が1種類と、USB接続が2種類として提供され続けている。高級キーボードNICOLA配列をプリントしたものしか製品化されていないため、安価なNICOLAキーボードは残念ながら存在しない。

*2:Japanist2003。名前に見合わず、アップデートパッチによってWindows7(64bit環境および32bit環境の両方)にも対応している。

*3:2004年に制定された「高齢者障害者等配慮設計指針(JIS X 8341-2)」にて、6.4.7(順次入力機能)として規定されている機能。2006年には実験的な定義が作られ2010年にはエミュレータの機能の一つとしてサポートされた

*4:親指を離すタイミングの遅れ補正について、当初は http://www.ykanda.jp/oasgif/oya-1.jpghttp://www.ykanda.jp/oasgif/oya-2.jpg で示すように「シフトキーは1文字だけを修飾する」よう実装された。ところが後に、個人製作の入力法で「連続的なシフトと、同時押しの両方を必要とする」ものが出現してしまう。これを契機に新たな解──シフト残り対策を施した、同時かつ連続的なシフト──をサポートするエミュレータが複数出現した。

*5http://www.ykanda.jp/oasgif/nin-1.jpg による。

*6:この方法は、当初「1モーラを一操作で入力する」ことを目指して試験された。しかし、同時押しをやりにくいパターンが複数存在することが実験により確かめられたため、本採用は見送られた。このとき「親指キー+他の指のキー」の2キー同時打鍵に限っては上手くいく、ということが判明したため、これを「普通のキーボード」に当てはめ、「1モーラ」よりも単純な「1文字」を単位に入力するよう設計されたものが、後の親指シフトキーボードとなった。

*7:実際に動作するエルゴノミクスキーボードを作ったものの、それをお披露目したときの反応が軒並み「奇異なものを見る目」だったということを理由にして、エルゴノミクスキーボードの採用は見送られた。