この本は明治・大正・昭和にかけて物理学者として活躍した,寺田寅彦のエッセイ集。たまたま手にとって,しおりのページを開くと「藤の実」というタイトルで「昭和7年12月13日の夕方帰宅して・・・」とある。つまり,90年前の今日のことを書いたエッセイだった。 寺田寅彦のエッセイに初めて出会ったのは青空文庫でだった。『団栗』とういうタイトルで若くして亡くなっている1人目の奥さんとの冬の散歩のことを書いていた。理系の作者だけど,景色の切り取り方や言葉の選び方が文学的な人だなと思った。夏目漱石を慕って,俳句の添削をしてもらうため家に通うなどして,親交があったことはずっと後で知った。文学にも造詣が深かったのだ…