木走日記

場末の時事評論

再生エネ法案は巧みに国民を欺くトラップ(罠)法案だ!

 3日付けの読売新聞記事から。

再生エネ法案、自民幹事長が修正条件に賛成表明

 自民党の石原幹事長は3日のNHK番組で、菅首相が退陣の条件としている電力会社に自然エネルギー買い取りを義務づけた再生可能エネルギー特別措置法案について、「電力を集中的に使う業界にどう(配慮)するかがなく、負担が増える(業界もある)。そういう問題をクリアすれば、すぐ通す」と述べ、電力消費型の業界への配慮などを盛り込んだ修正が行われれば、賛成する考えを表明した。

 民主党の岡田幹事長も同じ番組で「電力多消費型産業には配慮しないといけない」と語り、理解を示した。

 ただ、自民党内には同法案について、「審議を尽くすべきで、菅政権で実現する必要はない」(幹部)との声もあり、今国会で成立するかどうかは微妙だ。

(2011年7月3日23時08分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110703-OYT1T00508.htm

 どうせ野党の反対で国会を通すことはできないだろうと高を括っていた、菅総理が辞任の条件のひとつに挙げている再生エネ法案ですが、自民党の石原幹事長が電力消費型の業界への配慮などを盛り込んだ修正が行われれば、賛成する考えを日曜のNHK番組で表明いたしました。

 ちょっと待ってほしいです。

 経産省が旗を振っているこの法案は電力会社の地域独占の現状維持路線を担保する意図がみえみえで問題だらけでとても賛同できません。

 いっけん「脱原発」に向けて再生可能エネルギーによる発電を促す体裁にはなっていますが、中身をよく読むと既存電力会社に対する経産省の配慮がちりばめられており、これでは逆に「電力自由化」に逆行し現状の地域独占体制を将来に渡って担保しかねません。

 再生可能エネルギー法案は、太陽光や風力による電気を固定価格で買い取るよう電力会社に義務づけるもので、同様の法律は世界で40カ国以上が採用しています、この制度は新エネルギーの普及に確かに効果があります。

 しかし物事には順序というものがあります。

 昭和40(1965)年に施行された、電力会社の地域独占体制を認めた電気事業法、まずこの法律の全面的見直しを先にすべきです。

 ここに手を付けず小手先の再生エネ法を施行しても、日本の電力効率化への抜本改革には結びつきません。

 日本の電力料金が高止まりしている最大の要因は地域独占の電力会社間にまったく競争がないからです。

 競争を促すカギは現在地域電力会社10社の所有物である、送配電網を多くの事業者が使いやすくすること、電力会社の発電部門と送配電部門を分ける発送電分離であります。

 発電は切り離して自由化しますが、送電網は逆に統合し公社化、英国など同様、政府の監視を前提に独占的企業とします。

 つまり発電は自由化、送電は公社化することで、電力の健全な自由市場の形成と、電力の公共性・安定性を維持することが可能になります。

 これはイギリスやドイツなどが進めた実績のある電力自由化への常道と申せましょう。

 英国はサッチャー政権が1990年に、国営電力を3つの発電会社と1つの送電会社に分割・民営化し発電を自由化し、小売りでは12の配電局を民営にし新規参入も認めました。

 当時の英国においても国営電力の民営化・電力自由化既得権益擁護グループのものすごい反発を受けていたことが、「サッチャー回顧録」に描かれています、そこには「鉄の女」と呼ばれたがサッチャー氏ならではの迫力で、国営電力を追い詰めていくシーンが描写されています。

 日本でも10年ほど前、発送電分離が国会で議論されましたが、電力会社の猛反対で断念した経緯があります。

 世界の先例を見ても、発送電分離既得権益を有するものが猛反対するのが常ですから、サッチャーのような強烈なリーダーシップを有する政治家でなければなかなか強行できません。

 日本では政治家のリーダーシップを求めても残念ながら期待できませんから、福島原発事故で電力会社の政治力が弱体化している今が法律を改正する数少ない、いやもしかすると最後のチャンスなのだと私は思います。

 電気代の半分を占める発電部門で競争が進めば、コスト削減の効果は極めて大きいです。

 また政府監視の下で送配電網の利用を促し、小売りも完全に自由化して、新規事業者が伸びれば、電気の値上げをさらに抑えやすくなります。

 そして風力・太陽光発電などの再生可能エネルギーも、送配電網を安く使えるようになれば利用しやすくなるのは自明です。

 競争原理の働く市場を作るほうが、はるかに確実に効率化は進むのは当然です。

 ですから、まず昭和40(1965)年に施行された古い法律、電力会社の地域独占体制を認めた電気事業法、この法律の全面的見直し、地域独占の廃止をし、発送電分離をし、発電の自由化と送電の公社化、これを先にすべきです。

 経産省が旗を振っている再生エネ法案は、電力会社の地域独占体制を現状維持することが前提の悪法です、いっけん「脱原発」に向けて再生可能エネルギーを促進する体裁になっているのが逆にたちが悪いです。

 この法案は、国民を欺く経産省と電力会社が仕込んだトラップ(罠)法案です。

 まず電力自由化し電力会社の地域独占体制をなくし効率化をはかることをすべきです。

 市場を健全に自由化した上で、再生エネ法案のような特定のエネルギー源を優遇する法案は慎重に制度設計するべきです。

 手順を踏めば、市場の自由化と再生エネ法案は両立することはドイツやイギリスに先例があります。

 現状の再生エネ法案は、電力会社の地域独占体制を現状維持することがたくみに隠されています。

 今の再生エネ法案は巧みに国民を欺く経産省と電力会社が仕込んだトラップ(罠)法案です。

 自民党は賛成してはなりません。 

 

(木走まさみず)