怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

東京③

恒例、かつやで朝ロースカツ。店員さんは外国人ばかりで、仲がよさそう。
10時前は東横線も空いており、順調にみなとみらいへ到着。いつも通り抜ける商業ビルがオープン前で回り道しなきゃいけないのはどうにかならんのかな。
そういうことで今度こその横浜美術館石内都「肌理と写真」展。意味もなくほっとした。
基本的には年代順に石内都の作品を追っていく構成で、まずはapartmentシリーズなどの初期作品から。対象の選び方にはその後とまるで変わりのない視点があり、横浜の薄汚れたアパートへの対峙は単なるノスタルジーや懐古趣味とは全く異なる。時代をまとったモノたちへの畏れと敬いと、それに向かうべく身につけられた迫力と。若かったからこそのこの写真だろうと思った。そんな感慨をぶちこわすのがガヤガヤうるさいおっさんの集団で、地声どころか声高に話す様子にはさすがにたまりかねて係員に「注意してもいいですか」と言った。注意してくださいをレベルアップしたこの言い回し、なるべくなら二度と使う機会がきませんように。
カラー作品になってからのfavoriteはもちろんフリーダ。フリーダ・カーロの遺品を捉えたこの作品群は以前に資生堂ギャラリーで見て感激したのだが、こうして再会できてうれしい。この作品も一貫して石内都らしい作品なのだが、対象がアーティストであり女性であるためによりパワフルになるのではないだろうか。
ここからコレクション展。今回はシュル・レアリスム特集ということで「全部みせます!シュールな作品 シュルレアリスムの美術と写真」と題されている。初心者にもわかりやすく解説し、マニアも満足の作品構成ということで力は相当入っている。シュル・レアリスムのさまざまな要素ごとに作品をグルーピングしているので、たとえばウジェーヌ・アジェの作品はどのように見ることでシュル・レアリスムとして成立するのかがはっきりとわかる。これ、音楽に例えると、ノイズとかインダストリアルとかスカムの考え方に近いような。なんにせよ、コレクション展のレベルを超えたもので、石内都に興味がなくても来たほうがいいレベル。
最後に石内都絶唱横須賀ストーリー」。このあたりにくると客数が激減しているのはお約束だが、特別展と連動しているだけに今回は特にもったいない。もったいないが僕にとってはありがたい。ゆっくりじっくり堪能。この軽いタイトル、もちろん山口百恵のあの曲から取ったのだろうが、まさか40年後にもこうして展示されるとは思いの外だったのだろう。面白い。
代官山のART FRONT GALLERY「レアンドロ・エルリッヒCosmic & Domestic」展。なかなか代官山のギャラリーに行くことはなかったので、まあ珍しい機会。しかしエルリッヒは完全に家族連れの遊具と化しており、もちろんそうした楽しまれ方も含めてのエルリッヒとはいえ、こちらは遊園地に巻き込まれたような気分になってしまうのも当然で、どうもアートの気分にはならない。割と親切にしてくれたギャラリストに感謝しつつ早々に後にした。
LOKO GALLERYの清水玲は、やりたいことはわかるがどうも馴染めず。代官山のギャラリーで見ると作品が優れて見えないのは、代官山という土地柄なのか。まあ成金の街などと言い出したら身も蓋もないけど。
原美術館に向かう頃にはさすがに空腹を覚えたのだが、大崎でバーガーキングをスルーしてしまい、そうなるともう原美術館を見終わってからしか食べるタイミングがない。やれやれだと思ったが、原美術館コレクション展の前期がまあそれほどのものではない。未見の作品もそこそこあるが、見たことのあるものも多いし、そもそもボリュームのある美術館ではない。ゆっくり見ても1時間。まあいつもそんなもんだけど。奈良美智の部屋を気づかないカップルにそれとなく教えてあげたのでいいことをした気分になり、その勢いでカフェでデザートセットを頼んだりなんかしてしまった。お呼びでない客だというのに。それにしても失敗だったのは、このあとワタリウムにも行くんだったら、ミューぽんを買っておくべきだったという後悔の念。ああいうのは基本的には買わない主義なんだが、今回はそのタイミングだった。
ゆっくりのんびりしてしまったが、最後にショップに行ってみると図録の半額セールをしており、うっかりピピロッティ・リストの「からから缶」を2,468円で購入。荷物増やしてどうする。
ここから品川まで歩いて京急新馬場かなと頭の中に地図を浮かべたところで気づいたけど、ここからならTERRADA-ARTまで普通に歩ける距離。タクシーでもいいけどつかまえるのが厄介だし、坂を降りれば新馬場はすぐそこだ。なるほど、これは良コースなので、今後も使っていきたい。といっても原美術館に行くかどうかがなあ。ここは結局デートコースとかオシャレにカフェとかそういう使い方になるんだよな。
そんなわけで無事京急をくぐりぬけ、しかしこんな中途半端な時間に手っ取り早く何か食べられそうな店はなく、結局TERRADA-ART近くのサンクスでカップ麺を食べる羽目に。いやいやこれは壮絶にダメだぞ。今日のコースは手軽に何か食べられないところを通ってきたとはいえ、これはいけない。いろいろ反省するしかない。
食べたのち、まずURANOで牧野貴「Memento Stella」どういう展示になっているのかと思っていたら、大展示室の方は映像作品で小展示室が銅版画という構成。まさか版画を作っているとは思ってなかった。今までその片鱗も見たことがなく、思い返せば過去作ったというコラージュ作品を見たことがあるくらいなのだが、そこから考えると、映像作品ばかりでないのはむしろ当たり前なのかもしれない。映像作品のほうは見たければ何時間でも見ていられるし1分ではいけないというものでもなく、牧野作品を知らずにふらっと見に来た人にもとっつきやすい・・・のだろうか。どうだろう。そのあたりの感覚がもうわからなくなっている。ただ、そうなると、僕もずっと早く来て延々見るという選択肢もあったわけで、そうかそうすればよかったなと後悔しかない。僕のスケジュールではこの夕方しかもう見る時間はないわけで、取り返しはつかない。限られた時間で見てたって、それがいけないわけではないし、そいう見方だってできるものだけど、でもしくじったなという実感がこのとき身にしみた。
牧野さんのライブパフォーマンスの準備があるので一旦クローズ。本来は17時にはクローズのところ、延々粘って申し訳なかった。
URANOが準備している間他廊を見て回ったのだけど、そういう人はあまり多くなく、牧野ファンが皆美術全般に関心があるわけではないことを改めて実感。もちろんそれはそれでいいんだけど。
KOSAKU KANECHIKAのグループ展では、以前見て僕の好みだった安野谷昌穂があり、Yuka Tsurunoでは上田暁子。これも非常にいい作品が目白押しなんだけど、いいと思ったところで、という。目の毒という言葉もある。
19時前に入場開始。どうやら五十音順での入場になるようで、割と珍しい。そして人が多い。無料とはいえ交通不便なこの場所にわざわざ出かけてくる人がこれだけいるというのは予想してなかった。しかもあとで聞いたところではキャンセルも相当出たのでなんとか入りきれたというくらいで、ちょっと恐ろしいくらいの過熱ぶり。
新作を次々と作り海外でも活躍し、そのあたりの空気感が大阪ではつかめてないが、東京ではそういう状況なのか。
ライブパフォーマンスは映像の盛り上がりを音で裏打ちしていく内容で、そういう意味では非常に正統的で、コラボの意外性とは対照的な部分はある。どちらがいいというわけではないし、だから牧野さんもずっとその両方をやってきているのだろう。たぶんこれからもそうだろう。そうであってほしい。
終演後、たいして飲めもしないワインを飲んだためにつまらないことばかり言ってしまったのはいつも通りの僕。どうしてこうなんだろな。まあ酒のせいでもなんでもなく、緊張するとなんでも口走ってしまう。うれしかったのは、画家であり牧野ファンのひとりでもある蓮輪さんもいらしてたことで、元気そうで、そして活躍しているようでなにより。作品を見る機会がなかなかないのは残念だけど、僕が情報収集を怠らなければまた見れるはずだ。
つい長居してしまったけど、牧野さん葉山さんにお別れして猛ダッシュで下北沢へ。りんかい線というものに馴染みがなかったので、まさか地下とは思ってなかったためしくじったけど、こういうのを準備が足りないというんだろう。
乗ってしまえばすぐに渋谷。しかしこれがJRではないというのも無茶な話で、こういう不合理はなんとかしてほしいよ、ほんと。懐かしき井の頭線に駆け込んで、様変わりした下北沢駅で迷子になり、なんかもう今浦島とはこのこと。
ようやくBasementBarに到着したら、ちょうどSEKAITEKINABANDの演奏が始まったところ。少しガヤガヤしたバーで耳をすますような聞き方がぴったりで、こういうシチュエーションはラッキーだったのかもしれない。
最後にWBSBFK。傾向は似通っているけど意外にもこちらのほうが僕は好きで、どちらがいいとかそういうことではなく、まあ雰囲気がね。小難しいことを言う必要はなく、ただ音にひたるだけでいいしそれがこのバンドの聞かれ方だろうと思う。
しかしなんと9時過ぎにはライブは終わってしまい、だったら開演を30分ほど遅くしてくれたらありがたかったんだけど、そういうわがままは誰かが聞いてくれるわけでもないし。でもこの2バンド、なかなか僕の行きつけのライブハウスでは見かけそうにないけど、でも好きな音なのは間違いないので、今後もちょくちょく気にしていきたい。
寒い下北沢から渋谷経由で宿へ。節分なので恵方巻きの売れ残りを買ったけど、割り引いた値段が本来の値段だと思うわけです。明らかに高めに設定してるよね。
明日は最終日。