超大陸ー100億年の地球史(3)

春分の日に残りの読書。

本書は、未来地球に関わる2つのモード。「太平洋消滅あるいは大西洋消滅?」からはじまる。私も含めて、いままではずっと太平洋消滅と思い込んで来た訳だから、太平洋ではなく大西洋消滅は比較的新しい。
私の講義でも使用しているスコティシュのモデルだ。
しかし、このヒントは過去の超大陸研究からのものだ。
そこに見る現代地質学の科学方法論を整理して、本書から学ぶべき事柄の1つとしてみよう。

パンゲア超大陸より2つ前、10億年前のロディニア大陸からパノニア長大陸の合体過程はextroversion(外返し)であり、パノニア超大陸からパンゲア大陸の合体に至る過程は、
introversion(内返し)だということから来ている。地球未来の超大陸には、この2つのモードがあるというわけ。extroversion(外返し)なら太平洋消滅。introversion (内返し)なら大西洋消滅というわけだ。

これは、何のことか素人には全くわからないだろうな〜、と思いながら読んだが、それはこういうことだ。
生物で言えば、過去のある時に硬い殻を持った昆虫のような生物、たとえば三葉虫のようなものが現れた。それが進化の過程で突然変異し、表と裏がひっくり返り、硬い殻ではなく体の中心に骨を持つものへと進化した。脊椎動物の出現だ。世代交替の中で、昆虫あるいは脊椎動物という同じモードを繰り返すのがintroversion, 昆虫から脊椎動物への飛躍がextroversionというわけだ(この本ではそんなことは書いてはいない。私の勝手な解説である)

それと似た事が超大陸でも起こった。超大陸が形成されるには、個別の大陸の合体が必要。個別の大陸の形成には、それ以前の超大陸の分裂が必要だ。現在の7つの大陸は3億年前の超大陸パンゲアの分裂の結果であり、3億年の未来には再び合体する。その時、外返し?あるいは内返し?というわけだ。

プレートテクトニクスの生みの親、Tuzo Wilsonがはじめて、超大陸は繰り返したといったのが1966年だ。そのWilsonが示したモデルは、実はextroversionであり、例として言及したパンゲア大陸の合体過程は、それとは異なるintroversionであったというわけである。

そして、ロジニアにからパノニアに至ってどちらのモードだったのかという検証過程に、証明仮説と反証仮説を提示し、それをNd-Smの同位体という全く新しい科学的データを使って検証するという証明過程を取った。

この 1)まず、事実の規則性から、ロディニア大陸の分裂と合体過程の順序を古典的地質学に従い帰納する。
   2)帰納された超大陸の分裂から合体過程にいたるモデル(extroversion仮説)から演繹される、これまでに発見されていない事実を仮定する。
   3)帰納過程に用いたのとは全く別の方法(この場合は期待されるSm-Nd年代と反証される年代)と事実の発掘によって、仮説(オプション2つ)を検証する。

これは完全に現在科学の方法である。おまけに3)はマントルの年代を計る事ができるという、これまでにない画期的な方法でもある。
今後、検証されたextroversionを説明できる全マントル対流物理モデルをシミュレーションすればいい。これはまだだが、上の検証過程に比べれば、絵合わせの、事実定着のためのものだ。そのうち、誰かがやるだろう(これも私の勝手な価値判断です)。

昨日の最後に、地質学は科学か?と述べたが、上に述べた論理過程と方法をとる地球の歴史研究は完全に現代科学なのである。とくに最初の現象の整理からの、これまで全く知られていない仮説の発掘は、大きな新発見のための一般的方法だ。先に科学方法論で述べたが、帰納過程の醍醐味である。

実は、ウエゲナーの大陸移動説は、最初、手痛い反撃にあったこと、特に数理物理学者から強い反対があったことは良く知られているが、そのことについても面白い見方が記されているので、それについても次回に記そう。

(つづく)