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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-01-12

プライベートの喫煙を会社が就業規則で禁止できるのか


世間喫煙者への圧力の高まりに伴って、企業における喫煙のルールも厳しくなる一方の昨今ですが、最近その中でも一歩踏み込んだ企業の施策が話題になりました。

SCSK、懇親会も喫煙NG 就業規則に追加
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10246770S6A201C1TI5000/
日本経済新聞

SCSKは社員同士の懇親会などの場で喫煙を禁止する項目を就業規則に追加した。



プライベートもタバコNG 大手IT企業の仰天「就業規則
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/195480
日刊ゲンダイ

就業時間外まで禁煙を強いるのは前代未聞だ。

たとえ社員2、3人で仕事帰りに居酒屋で一杯やる時でも喫煙を禁じるようにしました。社員同士でゴルフに行った時や同期会も禁煙です。




これまで企業の禁煙に関しては、「喫煙者を採用しない」方針星野リゾート、外出先・出張先・移動中を含め「勤務時間内のあらゆる場所での禁煙」を実施したリコーなど、様々な施策がニュースになってきました。

ただし、今回の禁煙施策はそれ以上といえます。最大のポイントは勤務時間外のプライベートともいえる時間まで喫煙を禁止した点にあります。ネット上では、そのような規則は無効とか、行き過ぎだとか、「喫煙は個人の趣味・嗜好の問題」であるとか、多くの批判的な意見がみられますが、以下ポイントを絞って書いてみたいと思います。



単なる服務規律なのか、懲戒事由となる得るのか

大前提として、

就業規則で禁止したと一口に言っても、単に行動規範を示しただけなのか、それとも行為が発覚すれば懲戒処分の対象となるのかによって、社員への影響は全く異なってきます。一般的に禁煙に関する規定は、服務規律として定めただけで罰則なしというケースも少なくありません。(ちなみに今回の件がどちらなのか、前述の記事を読んだだけではよく分かりませんでした。)



勤務時間外の行為を会社が規制すること自体が不可能なわけではない

ご存知の方も多いと思いますが、社員の勤務時間外の行為を規制し懲戒処分の対象とするケースはいくらでもあります。

例えば

勤務時間外の行為だから会社が口を出すのはおかしいというわけではありません。勤務時間内外を問わず、会社の秩序維持等の為に必要であれば、会社は社員の行動に対し一定のルールを課すことができるわけです。



懇親会や飲み会の禁煙ルールには合理的な理由がある

今回の件で会社が禁煙を導入した大きな理由は、懇親会や社員同士の飲み会などの席でタバコを吸わない社員が喫煙者に気を使って何も言えず、受動喫煙を強いられるような状況をなくす為には、社員たちの自主規制だけでは難しいと判断したからだと考えられます。

そもそも上司・部下や先輩・後輩などが混在する懇親会や飲み会は、職場から切り離された完全なプライベート空間とは言い切れません。そのような場で立場的に優位な社員が、非喫煙者である社員の前でタバコを吸う行為は、客観的にみたら嫌がらせ以外の何者でもありません。(例え当人にその自覚がなかったとしても。)

例えば、パワハラの定義の重要な要素には「優位性」というものがありますが、これは被害者が加害者から実質的に「逃げられない」状況であることを指します。

喫煙行為がパワハラに該当するという話ではありませんが、パワハラと同じような視点にたてば、懇親会や飲み会がプライベートの時間といいながらも、人間関係の複雑な会社組織において、タバコの煙の充満した「プライベート空間」から文字通り「逃げられない」社員が一定数存在することを前提に考えるのが当然であり、そのような不本意な受動喫煙を会社が放置することは、突き詰めれば企業の安全配慮義務に反するのではないか、という考え方もできます。(完全に持論ですが。)

今回の施策が行き過ぎた行為として批判する論調もありますが、私は非常によい施策だと考えます。このような踏み込んだ施策を実行する感度の優れた会社が、今後優秀な人材を獲得していくのではないかと思います。



プライベートの禁煙を定めた就業規則は法的に問題ないのか

今回の該当企業はあらかじめ顧問弁護士等に相談をした上で法的に問題ないと判断し、就業規則に規定を追加したのだと予想されます。

就業規則で懇親会等の喫煙を禁止することはもちろん違法ではないと考えられます。仮にもし問題が起こるとすれば、懲戒処分を定めた上で実際にそれを適用する段階です。ルール違反に重い処分を科し、それに社員が不服を感じれば、最終的には裁判所の判断ということになるでしょう。とはいえ、世の中の企業の就業規則には、現実に裁判をしてみなければ有効性の疑わしい懲戒事由はいくらでもあります。今回の件が例外というわけではありません。前例のない新しい規定を追加する時点では誰もその規定の有効性を断定できません。

労働契約法では「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒を行う権利を濫用したものとして判断されます。

  • 露骨に非喫煙者の目の前で吸ったり煙を吐き掛けたりして行為が悪質
  • 注意されても繰り返し違反が続く
  • 懇親会の出席者が多く実質的に強制参加に近い(勤務の延長的な性格が強い)
  • 非喫煙者の不満やクレーム、被害の申告等が確認される

様々な状況が考えられる為、処分の適用も一刀両断ではなく柔軟に考えるべきだと思います。

個人的には、仲のよい喫煙者の同僚2人が会社帰りに居酒屋行ってタバコをぷかぷか吸うのは放っておいて構わないと思いますが、そこに1人でも非喫煙者、特に上司や管理職以外の立場の弱い社員が加わるのであれば、まず細かい状況を確認した上で処分の可能性を検討してもよいのではないかと考えます。もちろん懲戒解雇が認められるような行為ではありませんが。


以上から、今回の懇親会等での喫煙を禁じる規則の導入、やってみる価値はおおいにあると思います。




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2016-02-25

<シャープ買収>40歳以上が拒否される雇用システムを支持してきたのは誰か


シャープが台湾企業ホンハイの傘下に入ることが決まり、ホンハイは買収の条件として「40歳以下の従業員の雇用の維持を約束」していると言われています。

つまり、40歳を超える従業員の雇用は一切保証されないことになりますが、これはホンハイが血も涙もないからではなく、極めて合理的な決断であり、もっと言えば、シャープの40代・50代の従業員を含め、おそらく日本の多くのサラリーマンが望んだ結果であるものと考えられます。

日本の多くの企業ではいまだ、給与が毎年少しずつ昇給する年功序列型の賃金制度が使われており、成果主義を採用しているという企業であっても、業績等によってある程度の差はつくものの、結局は属人的な給与体系であって、年齢や勤続年数が給与に大きく関係するのが実情です。

そして、こうした年功型の人事制度がずっと運用され続けてきたのは、会社側だけでなく従業員側もまた強く望んできた結果だといえます。近年、安定した企業へ就職したいというサラリーマンの安定志向は若者まで浸透していますが、安定した企業とはつまり、仕事によって給与が決まったり成果によって年収が大きく上下しない会社、つまり年功型賃金の企業のことです。

多くのサラリーマンの望む安定した会社、つまり給与が年齢・勤続に応じて少しずつ上がっていくような会社は、20代・30代の若い頃はパフォーマンスに比べて給与が安く、40代・50代になってから昇給カーブに乗ってパフォーマンスを超える割高な給与がもらえるものです。

言い換えれば、若いうちは将来の出世と引き換えに一生懸命働いて会社に一杯貯金をつくり、年配になったら動きは落ちてきちゃったけどその代わり会社にたくさん貯金があるから高い給料をもらって定年まで安泰という感じです。

ところが、この安定には大きな大前提があって、それは企業が変わらずに「存続」しているという点です。

今回のシャープのように、若いうちに割安な給料で残業こなして異動にも応じて会社の為に精一杯尽くしてきたのに、さあこれから年功制のリターン部分を享受するぞ、というまさにその段階で、今回のような買収があれば、若い頃の貯金が全部貸し倒れで消滅してしまうこともあり得るという訳です。みんなが入社したがる安定企業が民間企業である限り、このリスクを内包しているのは当然です。

「40歳以下の雇用が維持され、40歳を超える雇用が保証されない」ことは、紛れもなく安定志向を望む多くのサラリーマンたちが自ら望んだ結果であることは間違いありません。

いずれにしても経営再建の為にリストラが必要不可欠だという状況の中で、いままで年功制の中で割高な給与支給されてきた40歳超の従業員を「要らない」と考えたホンハイの判断は合理的としか言いようがありません。年齢だけを理由に高い給与支給される従業員を雇用し続ける方が余ほど不合理といえます。

シャープがもし仕事と業績によって給与が決まる完全実力主義の会社であったなら、「40歳以下は〜」といったような年齢で一刀両断されることはなかったかもしれません。今回のような取扱いは年齢による差別といえます。しかし、多くのサラリーマンは、この年齢による差別を望んでいる現状があります。競争よりも安定を望んでいるからです。そして、いま見えている安定とは、年齢に応じて給与が上がっていくという年齢による差別ともいえる、いつ消滅するか一切保証のない、まやかしの安定だと思います。

2016-02-18

「定年制の廃止」できる会社とできない会社


ジョイフルが定年制を廃止するというニュースがありました。

ジョイフル:正社員60歳定年制廃止 パートも雇用継続 - 毎日新聞


以前から定年制を廃止する企業のニュースはたまに見かけますが、定年廃止は企業にとって非常に勇気のいる決断です。

定年廃止は、何のトラブルもなく自動的に従業員を退職させるための唯一のシステムがなくなることを意味します。正社員は基本的にみな無期雇用なので、自分から辞めたいと言わない限り何歳まででも企業は雇い続けなければならないということになります。高齢でパフォーマンスが落ちてきたというくらいでは、解雇なんかまずできません。


そんなリスクを負ってまでなぜ定年廃止に踏み切るのか。このままではもう立ち行かないくらい人材が不足しているからです。定年廃止をアピールすることでより優秀な、より多くの人材を獲得したいのです。


とはいえ企業が定年を廃止する為には、どうしても越えなければならない壁があります。「年功序列」の壁です。定年廃止には実力主義が不可欠なのです。

日本の企業の多くは年齢によって給与や昇進が決まります。「最近は成果主義が増えているじゃないか」というかもしれませんが、そんなことはありません。能力主義とか成果主義とうたっているような企業でも、中身を見てみると「年功的な成果主義」だったりします。人事評価によって差はついても、全体的にみると結局年齢や入社年次が大きく影響しているという感じです。

したがって、日本企業給与は上がることはあっても下がることはあまりないのが現実です。下手に給与を下げられないのに加え、上には管理職がいっぱい詰まっているので、最近は特に大企業は30代くらいで早くも頭打ちだったりします。

このような制度のまま定年を廃止したらどうなるでしょうか。あっという間に人件費が肥大化して経営危機に陥ります。会社で最も高給かつパフォーマンスの落ちている層がそのまま退職せずに残るわけですから当然です。

これまでだったら60歳あたりで一回仕切り直して、まず給与を思いっきり下げて、最終的には動きのいい人だけ再雇用で残すというやり方でやって来れたわけです。定年を廃止すればそうした人件費圧縮も選別も一切できなくなります。

ですから定年廃止する企業は給与も昇進も全て実力主義で決定する必要があります。決して60歳間際の社員の給与が高いとは決まっていません。年齢で給与が決まらないのだから、年齢で退職も決まらないということです。年齢による差別を一切やめることこそ定年廃止です。一方、年功序列は年齢による差別の代表格といえます。

また、労働者が何歳まででも会社に残る代わりに、パフォーマンスに応じて給与が柔軟に決定され、場合によっては給与を引き下げることのできる人事・賃金制度が必要になります。透明かつ客観的な基準による制度を適切に運用しなければ、給与の引き下げは法律的なトラブルを引き起こしかねません。年功序列の企業ではまず無理だということです。

今後、労働人口の減少にともなって定年制を廃止する企業は次々と出てくるでしょうが、はたしてこの年功序列の壁を乗り越えることができるのか、そこが大きなポイントだと思います。

2016-02-08

マイナンバーで副業バレたからといって会社はクビにできるのか


マイナンバー制の導入に伴い、副業がバレてみんな大変だという記事をよく見かけますね。マイナンバーが原因ではたして本当に副業がバレるのかに関しては多くの記事で言及されているようなので、ここではあえて触れません。

それより個人的に気になるのは、「多くの企業が副業禁止規定を備えているから、バレたら処分や解雇を免れない」みたいな前提です。

まるで副業禁止規定の有無が鍵みたいな言い方ですが、実のところ副業禁止規定があるからといって簡単に従業員を処分できるわけではありませんし、解雇なんかまず無理です。従業員が副業をするのは勤務時間外なわけですから、プライベートの時間で副業をしようが何しようが本来自由なはずです。憲法で保障された基本的人権です。

したがって、企業は副業を禁止する規定を定めるべきではなく、副業を許可制にして管理し、範囲を限定して禁止する運用にしなければ法的に危ういのです。

禁止する条件は、「副業による疲労で業務に支障をきたす」とか、「会社の信用を傷つける」、「ライバル企業で副業している」とか、限られたケースだけです。しかも会社は争いになった場合、従業員の副業によって被った損害を実際に立証しなくてはなりません。

副業する側だけではなく禁止する側もけっこう神経を使うのだという話です。禁止規定があるからというだけで安易に処罰すると思いもよらないトラブルに遭うかもしれません。

2016-02-07

「代休を繰り越す」「振休がたまる」は法律違反なのか


休日出勤の多い会社からこんな相談を受けます。

「代休がたまってすごい日数になってしまった。今さら買い取るのも難しい。どう消化させたらよいのか。」

こうした質問を受けたとき、まず最初に確認することは、代休がなかなか取れないのはいいとしても、休日に働いた分の給料をいったん支払っているのか、ということです。

支払わずに月をまたいで繰り越しているのであれば、その時点で労働基準法違反になります。

おそらく上記のような会社は、「休日出勤が発生したら後で代休を取らせて賃金を相殺する予定だから、給料日が到来しても別に休日出勤手当は支給しなくてよいだろう」と考えています。

しかし、実はその考え方は大きな間違いであり、社員が代休を取得する権利(もしくは、会社が社員に対して代休取得を命じる権利)は、賃金計算期間を越えて繰り越すことはできたとしても、それによって休日労働の分の賃金の支払いまで猶予することはできないのです。

つまり、代休は半年後に取得しようが、1年後に取得しようが、ある意味会社が自由にルールを決めればいいのですが、代休の分の賃金を差っ引くのはあくまで代休を取得した時でないとダメだということです。まだ、代休を取っていないのに休日労働分を支払わない行為は、「代休がたまっている」のではなく、単に賃金を支払っていない状態」なのであって、賃金未払いにより労働基準法第24条に違反するということです。

法律的に考えて「代休を取得する権利」がたまることはあるかもしれませんが、「賃金支払いを猶予したまま月を越えて代休がたまる」という状況は本来あり得ません。


あと、一般的に「代休」と「振替休日」の違いが正しく認識されているケースは少ないのですが、「振替休日がたまる」という言い方を聞くこともあります。振休はそもそも事前に振り替える勤務日と休日とがそれぞれ特定されていることが前提です。「いつ休むのか決まっていない」振休など本来あり得ません(候補日を複数に絞っておくことはあり得ますが)。したがって、振休がたまるというのは理屈としてかなりおかしい状況です。多分、振休を代休の意味で使われているのだと思います。


以上から、いわゆる「代休がたまっている」会社は、労基署に勧告を受ける前に「休日労働分の賃金をいったん全て支払う」か、もしくは「一刻も早く代休の取得を命じてすべて消化させる」ということ早急に求められます。

2016-02-01

三六協定を結ばない本当のデメリット


最近メディアで名前を見かける「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が今度はドン・キホーテを摘発して労基法違反で書類送検したそうですが、個人的に気になったのは違反の内容です。

http://this.kiji.is/65377333893840902?c=39546741839462401

労使協定で定めた上限を超える長時間労働を従業員にさせたとして、労働基準法違反の疑いで


と記事にあるのですが、こういう書き方ってあまりピンときません。

確かに法定外の残業を1分でもさせる場合は、この労使協定(「三六協定」といいます)の締結と届出が必要で、それを結んでいなかったり、締結はしていても協定した上限時間を超えていれば、それは明確に労基法違反といえます。

しかし、私が知る限り、「三六協定」は実務では全く重要視されていません。

締結していない会社が山ほどあり、協定の存在すら知らない会社も少なくないように思います。その理由は多分、「締結していなくても大した損害がない」からではないでしょうか。

ちなみに労基署が調査に来ると、まず最初に36協定書があるのかどうか確認するんですが、結んでないと分かれば是正勧告書を出してすぐに協定書を作らせて是正完了です。法律上はもちろん違反の場合の罰則も規定されていますが、現実はほぼ適用されません。その場で署名して印鑑押して「はいおしまい」です。そんな感じなので、世の中には36協定を結んでいない会社はごまんとあるのだと思います。(もちろん私の関与先ではきちんと締結してもらっていますが。)


で、今回のニュースですが、「三六協定で定めた上限を超える時間外労働」をさせることがそんなにいけないのかと言えば、労基法違反だからもちろんいけないのですが、ただ今回の事案に関して言えばおそらく「とてつもない長時間労働をさせている」ことが一番いけないのであり、それを牽制するために「かとく」は有名企業であるドン・キホーテを摘発したのだと思われます。

しかしながら、そもそも労基法には労働時間の上限を規制するルールはなく、ある意味「三六協定」さえ結んでおけば青天井にいくらでも労働者に残業をさせられるわけです。三六協定さえきちんと結んでおけばです。

ドン・キホーテ三六協定の上限時間を超えてしまったので、三六協定を締結していないのと同じ状態だったわけで、通常の中小企業だったらその場で協定を結び直しさせられて終わったかもしれません。(断定は一切しませんが。)

ところがニュースでは単なる「長時間労働」ではなく「三六協定で定めた上限を超える」という点が強調されます。「三六協定を遵守しないなんてひどい会社だ」ということになるでしょう。「三六協定」をきちんと締結していないと、会社として大事な信用を失うということを知って欲しいと思います。


ちなみに、いくら労基法では残業時間に上限がないといっても、過労死などが起きたら間違いなく遺族から慰謝料請求されるので本当に上限がないと考えるべきではありません。

2014-02-16

労働審判で会社が覚悟すべき支出額


普段私は、本業である企業の労務管理サポートを行う他に、労働者個人からの労働問題・労働トラブルに関する相談を受け、社会保険労務士として可能な範囲で支援を行うことがあります。

昨年(平成25年)は、年間で約150件程度の労働者からの相談に対応し、そしてその中で労働審判の支援まで行った案件が10件でした。ちなみに10件全て解決金を獲得し本人が納得したかたちで解決しています。



労働審判制度は今や、労働者にとって想像以上にお手軽であり非常に使える制度になっています。

もちろん解雇無効による職場復帰を争ったりするのであれば本訴は避けられないとは思いますが、労働者側に金銭解決の意思があるのであれば、労働審判はうってつけの手段です。


裏を返せば、企業は労働審判に持ち込まれた以上は無傷では済まないということです。一定の出費を覚悟しなければなりません。むしろある程度の金銭を支払ってでも、民事訴訟に移行する前に何としても労働審判で和解に持ち込むのが得策だといえます。

現実に、労働審判に出頭してきた企業の担当者や経営者はみな

「1円も支払う気はない。民事訴訟になっても争う。」

という強気な姿勢なのですが、和解協議が始まると例外なく譲歩してきます。

たいていの場合、本訴に進めば会社にとって不利になるうえ、支払額も多くなりますし、余程でなければ本訴においても労働審判と同じ判決になるであろうことを代理人である弁護士から説明され説得されるのでしょう。

感情的に許せないというケースとか、あるいは労働者側の要求額が無茶な金額でない限り、会社側は労働審判での手打ちにおしなべて前向きです。




さて、実際に企業は労働審判を申し立てられたら、具体的にどのくらいお金がかかるでしょうか。

私の経験のみに限定していえば、解決金額70万円〜150万円くらいになります。

さらに弁護士費用が(労働審判での解決を前提とすれば)おそらく50万円〜100万円くらいになるのではないかと思われます。

合計すると、会社の金銭的な支出額は大体120万円〜250万円くらいになるのでは、と考えられるところです。
(※もちろん紛争に費やす労力や担当者の人件費などは考慮していません。)



労働者側に弁護士が付いているのであれば、その場合の損益分岐点(50万円くらい?)を超えて労働者にメリットのある金額を得られるという見通しを弁護士がつけているはずなので、それなりの出費はまず避けられないと思われます。

弁護士を付けない本人申し立てであれば、労働者側に確かな事件の見通しはありませんので、解決金額を上記よりも抑えられる可能性はあります。

注意すべきは、労働審判訴訟に比べ裁判官が主導してくれる制度なので、労働者が本人申し立てをしてくるケースは少なからずあるのですが、企業側は必ず弁護士をつけなければなりません。訴える側の労働者は最悪でも解決金を取れないだけで済みますが、会社側はヘタをすれば最終的には(つまり労働審判で終わらなければ)数百万円の支払いでは済まない可能性もあり得るからです。

弁護士費用については、もちろん労働者請求額によっては上記とは変わりますし、もっと高い弁護士も当然いると思われますが、極端に弁護費用の安い弁護士には注意した方がよいかもしれません。

また、上記の金額においては、残業代不払い、解雇、雇止め、退職強要、パワハラなど紛争の種類を区分していませんが、これは労働審判という制度が通常の訴訟に比べ証拠調べなどの過程をかなり高速ですっ飛ばして行い、かつ、判例をあまり厳格に考慮せず和解を重視してザックリと解決させる傾向にあることから、あまり細かく区分することに意味がないと考えました。
(※もちろん「ザックリ」とは言っても、解雇事案におけるバックペイなど、各事案における相場金額というものはあります。)



以上から、労働審判は会社にとってやっかいな制度であり、現実に申し立てられた際はそれなりの覚悟が必要であることがご理解頂けるかと思いますが、他方、うまく対応することによって、迅速に被害を最小限に止めることも可能だともいえます。

加えて、労働者があっせんや調停などを申請してきたときには、できる限り低水準での和解の道を探り、労働審判の手前で解決するよう努力することが、結果的には最も支出が少なくなるのではないかと思います。





関連エントリ

2014-02-09

営業職の残業代リスクが上昇<事業場外みなし・阪急トラベルサポート事件最高裁判決>


営業職などの外回り・外勤社員に対して残業代支給しないという会社は少なくないと思われますが、支給しない法的根拠は何でしょうか。

営業手当が出ているから?
成果主義だから?

そんなことが法的根拠にならないことはいうまでもありません。


営業職に対して残業代支給しない根拠として多くの企業で利用されている制度が「事業場外みなし労働時間制です。この制度を運用すれば、実際に何時間働いたとしても所定労働時間働いたものとみなされる為、結果として残業代を支払う必要はなくなります。

ただし、事業場外みなし労働時間制

1.事業場外で業務に従事
2.会社の指揮監督が及ばない
3.労働時間を算定することが難しい


この3つの要件を満たして初めて認められる制度であり、要件が欠けていれば通常通り「働いた実労働時間」によって残業代を計算し支給しなければなりません。



しかしながら、今後多くの企業において、この事業場外みなし労働時間制適用させるのが難しくであろうことを示す最高裁判決が先月1月24日に下されました。

みなし労働時間制:海外旅行添乗員適用は不当 最高裁」(毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20140125k0000m040076000c.html

小法廷は▽日程や業務内容はあらかじめ具体的に確定している▽携帯電話を持たせてツアー中も報告を求め、終了後に業務日報を提出させている−−ことを重視。「労働基準法が規定した『労働時間を算定しがたいとき』には該当しない」と結論づけた。


裁判は旅行会社である阪急トラベルサポートの添乗員に関する事例ですが、制度の要件を満たすかどうかについての考え方は営業職の場合と何ら変わることはありません。

今回の判決によれば

・旅行日程(日時・目的地)が明確に定められており、業務の内容があらかじめ具体的に確定していた

携帯電話を所持させて常時電源を入れさせておき、途中で旅行日程の変更が必要となった場合には会社に報告して個別の指示を受けることとされていた

・ツアー終了後、添乗日報によって業務遂行の状況等を詳細かつ正確に報告させた


といった事項がポイントであり、これらによれば添乗員勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、前述した事業場外みなしの要件である労働時間を算定し難い」には該当しないということです。



つまり、営業職等の外勤社員に対し事業場外みなしを運用している企業にとって、不払い残業リスクが上昇することは間違いありません。これまで通りの運用を続けた場合には今後違法となる企業も少なくないでしょう。

朝礼等によって出発前に事前に細かいスケジュールを決めてスケジュール通りに行動させたり、帰社後に詳細な日報や業務報告書を提出させれば、労働時間を算定し難い状況とはいえません。

また、社員に携帯電話を持たせて常に連絡をとれる状況にさせ、スケジュール変更や訪問先ごとに随時報告をさせて指示を受けさせたり、最近ではGPSによって会社が社員の位置や行動を把握しているケースもありますが、これらの場合には会社の指揮監督が及んでいないとは到底いえないでしょう。

自社の営業職の管理体制を早急に見直し、状況次第では事業場外みなし労働時間制を取り止めて別の制度の運用等を検討すべき時期にあると思います。

2014-02-06

万引き被害額の従業員負担はアリなのか


小売業の業界では自社店舗で万引きが発覚した際に、被害額を当日の従業員の頭数で割るなどして従業員に損害を負担させる会社もあります。不注意に関する連帯責任ということなんでしょうが、そもそもこのような行為は法的に認められるのかどうか疑問に思う方もいるでしょう。

端的にいうと、まず労働基準法には違反しません。その点を規制するような条文自体がありませんので。したがって、そのことで労働者労働基準監督署に相談に言っても特に対応はしてもらえません。

ただし、従業員負担分を給与から天引きしようという場合は、賃金控除について労使協定を事前に締結する必要があるので(労基法第24条)、その点に限って会社は注意すべきということになります。

では万引きの従業員負担は法的に全く問題がないのかといえばそういうことではありません。というより、万引きによる損害は本来会社が負担すべきというのが大原則であって、従業員に故意や重大な過失が認められた場合、損害の一部を従業員にも請求できるのかどうかという民事的な話になってきます。

会社の営業上で何らかの損害が生じた際に、会社が労働者に対してどの程度損害賠償請求できるのかについては以前の記事でも触れました。
会社から労働者に対して損害賠償請求はどの程度可能かを考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

裁判例では、会社が労働者に請求できるのは「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」とされ、結果的に「損害額の4分の1が限度」と判断されています。

今回の話にあてはめれば、無断で職場離脱していた隙に盗まれたとか、居眠りしていて盗まれたとか、万引きに気付いていたが会社への悪意で止めなかったとか、従業員が万引き犯とグルだったなどのように、余ほどの過失あるいは故意を立証できればいいですが、従業員としての注意義務を怠っていたという程度では、裁判になれば会社はなかなか厳しいのではないかとも考えられます。

まあ、少額であればそもそも訴訟にはならないでしょうし、従業員が自身の過失に反省し納得して払っていれば問題はありませんから、会社の方針と運用にもよるとは思いますが。

また、負担させるにしても、損害額のベースは売価ではなく仕入れ値である原価で行うべきであり、そのうちの大部分を会社負担とし、残りを労働者の職責や過失の程度に応じて負担させるくらいに止めるのが無難であると思います。

2014-02-03

インフルエンザと休業手当(休業補償)の支払義務


ここ最近またインフルエンザが流行しています。
インフルエンザ感染して会社を休んだ場合、休業手当の支払い義務の有無が問題になるところです。

インフルエンザで会社を休んだ場合、一般的には年次有給休暇を充てるケースが多く、この場合には休業手当の問題は発生しません。ただし有休は会社側の意思で一方的に取得させられるものではないので、労働者が「有休を使いたくない」と言ってしまえばそれまでです。それ以外にも、入社したばかりで有休をまだ付与されていないケース、有休を持っていたけれども使い切ってしまったので利用できないというケースもあり、このような場合に休業手当の支払い義務の有無が問題となります。


こうした場合には「会社を休むに至った経緯」によって考えていくとわかりやすいです。

インフルエンザによって従業員が発熱して動けないため自主的に休んだ場合
これは風邪を引いて休んだ病欠の場合と何ら変わりませんから、普通に欠勤した分の賃金を控除すればいい話です。

医師の指導に従って休業する場合
これは「使用者の責に帰すべき事由」(労基法第26条)には該当しませんから、休業手当を支払う必要はありません。やはり欠勤控除でよいということになります。



判断が難しいのは、インフルエンザ感染が確認できたにもかかわらず、労働者本人が「働ける」と主張して会社に出勤しようとした場合です。

もちろん発熱がピークの間は労働者自身もあまり動けないので出勤しようとするケースは少ないと思いますが、インフルエンザは基本的に発熱の症状がなくなっても感染力は続く可能性が考えられます。会社としては職場での感染の危険がなくなるまでは休業してほしいところです。
(※目安としては熱が下がってから2日。できれば発症した日の翌日から7日は休ませるべき期間であると、厚労省発表の新型インフルエンザに関する職場のQ&Aで示されています。)

ところがです。

熱が下がった後すぐに出勤しようとした場合、これを会社の判断によって休業させれば休業手当(最低60%)の支払いが必要になるものと考えられます。(※極端な話、発熱中であっても労働者が「働きたい」として出勤しようとした場合、これを会社が無理やり休ませればやはり休業手当が必要になるものと考えられます。)

なお、労働契約の側面から考えると、労働者の体調が完全には回復せず通常通りの労務を提供できないような状況であれば、債務の本旨に従った履行が行えないという理由で会社は労務の受領を拒否しても賃金の支払い義務は生じないと考えられます。しかし、労務の提供が完全に行えないかどうかの判断を会社が独自に行うのはなかなか難しく、やはり医師の判断が必要になるのが現実です。

また、インフルエンザ労働安全衛生法(労働安全衛生規則)が定める就業禁止の対象となる疾病(病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病等)には該当しないため、安衛法を根拠に就業を制限して無給とするわけにもいきません。

そもそも労基法上の休業手当は定め自体が非常に曖昧なものであり、インフルエンザに関する点をはっきり示した通達も見当たりません。休業手当の支払義務に関して裁判になればどういう結果になるのかわかりませんし、労働基準監督官もそれぞれの考え方によって異なる指導を行うかもしれません。



一方、本人が出勤したい意思に反して休ませる場合であっても、感染症(※正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)によって就業制限の対象とされ、同法に基づいて都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請し、または保健所より本人を外出させないよう協力要請があった場合などは、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないため、休業手当は支払う必要がないということになります。

感染症法は数年前にできた法律ですが、現時点では同法による自宅待機や休業等の要請が行われた実績はまだありませんが、この取り扱いは、季節性インフルエンザか、新型インフルエンザかによって異なってきます。(※季節性インフルエンザ感染症法上、5類感染症と指定されており、鳥インフルエンザ(H5N1)は2類感染症、そして新型インフルエンザは1〜5類に属さない「新型インフルエンザ感染症」という独自の分類になっています。現在、就業制限の対象となり得るのは1類〜3類および新型インフルエンザ感染症等に限られるため、5類の季節性インフルエンザは対象にはなりません。)



最後に、濃厚接触者(感染者の近くで仕事をしていた人など)の取り扱いです。

濃厚接触者を会社の判断で休業させる場合には休業手当は必要になります(ただし、保健所からの要請等によって休業させたのであれば不要です)。また、労働者の同居の家族が感染した際に、会社が本人に対して自宅待機を命ずることは予防的措置になりますから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当の支払わなければなりません。



なお、休業手当の支払いが必要なケースであったとして、気になるのが民法危険負担(第536条)の適用の有無、つまり会社は100%の賃金を支払う必要がないのかという点です。

基本的に、インフルエンザ感染した労働者を休業させる行為は、当該労働者および他の労働者への安全配慮義務の履行という観点から正当化されるものであり、会社には原則として故意・過失等はないと考えられますので、休業手当(60%)が必要だとしても100%の支払い義務はないと考えられますが、念の為に就業規則あるいは雇用契約書において危険負担適用の排除を規定しておくのが確実であると思います。

2014-01-30

本社以外の離れている場所では応じないという団交拒否は不当労働行為


不当労働行為に関する今日のニュース。

「ゲオが不当労働行為、府労委認定 労組との団交拒否」
http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014013001001029.html

 命令書によると、組合は昨年1〜2月、大阪市内の店舗で働くアルバイトの勤務時間に関し、大阪市内で団交に応じるよう計3回申し入れたが、会社側が「人事管理を担当する部署が本社にある」として拒んだ。

 府労委は「組合員が過重な負担を伴わないよう、団交に応じるべき」と指摘した。


労働組合法上、会社は「正当な理由」がなければ団体交渉を拒んではならないとされており、これに違反すれば不当労働行為になります。

本件では、「本社が東京にあるのだから、地理的に遠く離れた大阪では交渉はできない」と会社が団体交渉を突っぱねたわけですが、そもそも労働者たちは大阪の店舗で働き大阪に住んでいて労働組合大阪にあるので、大阪で交渉を行いたい組合側は困ってしまうわけです。

この本社のみで対応という団交拒否理由が正当な理由といえるのかが問題になりますが、今回の救済命令でも分かる通り、正当な理由にはならないということです。



冷静に考えれば、会社側は経済的にも人員的にも遠隔地で対応することが不可能とはいえませんし、会社規模によっては大した負担にもなりませんが、労働者にとってみれば(退職せず働いている労働者ならなおさら)仕事のない時間に遠隔地である本社に出向いて交渉するということは金銭、労力、時間の面で非常に大きな負担です。

このような事情から、「会社と組合側は対等ではないよね」「不公平だよね」という観点から、「本社でしか団交に応じない」という会社の言い分は正当な理由として認められないという結論になります。団交の場所というのは本来、労使双方の話し合いによって決めるべき事項ではありますが、基本的にはいま述べた公平性観点からすると、労働者の勤務している地域において行われるものだと考えておいた方がよいでしょう。

2014-01-12

従業員が交通事故を起こした場合の会社の責任とその対応


従業員が交通事故を起こす場面においては、

・社有車 or マイカー
・業務中 or 通勤途中
・物損事故 or 人身事故

等の様々なケースが想定されますが、いずれにしても従業員本人だけではなく会社の責任も発生し得るという点に注意しなければなりません。




会社の責任を考える上で根拠となる法律は、使用者責任民法第715条)と、運行供用者責任自賠法第3条)の2つが考えられます。

使用者責任
使用者責任とは、従業員が交通事故で第三者に損害を与えて不法行為責任を負う場面において、従業員の行為が会社の「事業の執行について」なされた場合には、従業員だけでなく会社も損害賠償責任を負うというものです。

「事業の執行」に当たるかどうかは、判例によれば、広く行為の外形を観察して、あたかも職務の範囲内の行為に属すると認められればそれで足りるとされ、また事業そのものだけでなく密接に関連する行為も含むとされており、事実上広く認められる傾向にあります。


◆運行供用者責任
運行供用者責任については、会社が「自己のために自動車を運行の用に供していた」といえる場合には「運行供用者」に該当し責任を負うものです(※ただし、他人の生命または身体を害したとき、つまり「人身事故」の場合に限られ、「物損事故」は除外されます)。会社が運行供用者ということになれば、使用者責任の有無を問われるまでもなく、損害賠償責任が発生することになります。

運行供用者に当たるかどうかは、判例によれば「運行支配」および「運行利益」が認められるかどうかによって判断されます。


使用者責任・運行供用者責任の免責
使用者責任は、会社が従業員の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは責任を負わないとされ、運行供用者責任については、ー己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、ならびに、自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明したときに責任を免れるとされています。


これらを前提にパターン別に考えていきます。



1.社有車で業務中に事故を起こした場合

当然ながら会社は損害賠償責任を負うことになります。



2.社有車を無断で私用に使っていて事故を起こした場合

このようなケースであれば会社に責任は及ばないと考える人も少なくないでしょう。ところが状況によっては会社が責任を負う可能性があります。具体的には、従業員が社有車を持ち出すに至った経緯、業務との関連性、日常の使用状況などが総合的に勘案されます。

例えば、会社が社有車の就業時間外の使用ルールに関して明確にルール化していなかったり、あるいは社有車の鍵の管理やチェック体制がずさんで、従業員が簡単に社有車を持ち出せる状況であったり、日頃から私用に使っていたなどの事実があれば、会社の責任が認められる可能性は高くなると思われます。



3.マイカーで業務中に事故を起こした場合

会社が業務でのマイカー使用を容認していた場合には、会社はその自動車を利用して業務を行っていたといえますから、実質的に社有車を使っていたのとほとんど変わらない状況である為、会社の使用者責任および運行供用者責任(人身事故のみ)は認められると考えられます。

では容認とは具体的に何であるかといえば、積極的にマイカーの業務使用を認めていた場合のみでなく、会社が認識しながら注意せずに黙認していた場合も該当します。

つまり会社が明示的にマイカー使用を禁止していたにもかかわらず、従業員が無断でこっそりと使っていたという場合にはじめて会社は責任を免れることになります。



4.マイカーで通勤途中に事故を起こした場合

単に会社がマイカー通勤を容認しているというだけでは、原則的には会社に使用者責任や運行供用者責任は認められないものと考えられます。特に会社がマイカー通勤を禁止していたのに従業員が無断で勝手にマイカー通勤をして途中で事故を起こしたような場合には、会社の運行支配、運行利益はまず否定されるでしょう。

しかしながら、そもそも通勤とは業務と密接に関連するものであるため、例えば、会社がマイカーの業務使用を容認していたり、従業員が勤務先まで通勤する為には公共交通機関の利用が困難でマイカー通勤をせざるを得ない場合などは、会社がマイカーを業務のために利用し、もしくはマイカー通勤で利益を受けていると評価できる為、使用者責任や運行供用者責任(人身事故のみ)が認められることになります。

さらに、マイカーを使用して会社指定の集合場所に向かうよう具体的な指示があれば、マイカー通勤と業務との間には強い関連性が認められることになり、場合によっては通勤が業務の一部を構成するものと判断される可能性もありますし、あるいはガソリン代の支給や駐車場の提供などマイカー通勤について積極的に便宜をはかっている場合にも会社に責任が認められるものと考えられます。





以上から、従業員の交通事故に関して会社が責任を完全に免れることは決して容易ではないことが分かります。

ことマイカーの事故については、従業員がマイカーに十分な損害保険任意保険)を付保していれば会社が賠償を行う必要はありませんが、無保険であった場合および保険金額が低かった場合には、現実に会社が賠償を求められる可能性が高くなってきます。


従業員の交通事故に係る対策として会社はあらかじめ以下の対策をとることが重要であると考えられます。

車両管理規程、マイカー通勤規程などの規程を整備し、「私用運転」の禁止、「マイカー業務使用」の禁止、「就業時間外利用」の禁止、「マイカー通勤」の禁止などのルールを明確に定め、周知・指導して徹底をはかる。

社有車のキーや使用状況等を厳重に管理(記録)する。

社有車に十分な損害保険を付保する。

マイカーを業務または通勤に使用することを認める際は、従業員の免許や任意保険の加入について承認時および定期的にチェックを行う。(保険金額は極力、対物・対人ともに無制限が望ましい)



そして何より安全運転を教育し事故を未然に防ぐのが何よりも重要であることはいうまでもありません。

2013-12-05

オフィスの全面禁煙化は不利益変更にあたるか


以前の記事で「喫煙者を採用しない企業」について触れましたが、タバコ関連の話題をもう1つ書きます。


平成15年健康増進法の施行に伴い、企業にも受動喫煙防止の努力義務が課せられ、厚生労働省が発表する「職場における喫煙対策のためのガイドライン」によれば、「全面禁煙か空間分煙が望ましい」とされています。

実際、禁煙分煙の措置を講じていない会社において、従業員がタバコの煙で健康被害を受けたとして企業の安全配慮義務違反を根拠に訴訟を起こすリスクは無視できない状況にあります。

現在多くの企業では喫煙室等の設置による分煙化が進んでいる状況ではありますが、労働者の健康面を考えれば全面禁煙が望ましいことはいうまでもありません。

一方、勤務時間中に喫煙室等に行って喫煙する行為を認めてはいないものの、具体的な注意や処分等は行わずに実質的には大目にみてきたような会社においては、喫煙をしない従業員との公平を図るという意味においても、職場内の全面禁煙化の検討は重要になってくると思われます。



さて、この場合において、オフィスの全面禁煙化に踏み切ることは、これまで喫煙をしてきた労働者にとって労働条件の不利益変更に該当するのではないかという問題が考えられます。


まず喫煙という行為は完全に私的な行為であり、業務の遂行には全く関係のない行為でありますから、この喫煙行為自体が労働条件にはなりません。

通常、労働時間の間に会社の許可もなく喫煙室へ行って業務と直接関係のない喫煙を行うということは、勝手な職場離脱であり職務専念義務に違反し懲戒の対象となり得ますし、労務の提供をしていない訳ですから債務不履行により賃金カットの対象となります。

ただし、就業規則において「勤務時間中は喫煙をしてはならない」と規定され、そして発覚した場合にはその都度注意指導や賃金カットが行われていた場合には何も問題はないのですが、それらが行われず実質的に多くの従業員が勤務時間中にタバコを吸っていたという場合には、それらの時間がどのような取扱いであったのかを考える必要があります。具体的には、例えばそれらが労働者にとって休憩時間という認識であったのか、さらには賃金の支払い対象となる有給の休憩であったのか、そしてそれらが労働慣行として成立していたのか、というような問題がでてきます。

勤務時間中に喫煙に行く時間の取扱いについて、就業規則に定めがあったり、労使慣行によって根拠があるのであれば、それらの時間は労働条件といえますから、それらの取扱いを無視して一方的に全面禁煙とすることは不利益変更に該当する可能性が考えられます。その場合には、喫煙者の個別同意をとるか、あるいは労働契約法第10条の要件を満たすかたちで合理的労働条件の変更が行われる必要があります。

そうした規定や慣行などの根拠もなく喫煙が行われていたのであれば、喫煙の行為や時間は労働条件とはいえず、不利益変更には該当しません。また、受動喫煙による健康被害が明確にされている昨今、健康増進法の趣旨から考えてもオフィスの全面禁煙化は不当な措置とはいえないでしょう。




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2013-11-28

誓約書は退職時ではなく入社時に提出させる


労働者が会社を辞めた後も、守秘義務や競業避止義務を課したい」

そう考えて労働者が退職する際に誓約書を書かせる企業は少なくありません。



しかしです。
労働者が誓約書の署名を「嫌だ」と拒否したら、その会社はどうすればよいのでしょうか。

結論からいうと、「何もできません」ということになります。



業務上の秘密を守るという守秘義務は、労働者の企業に対する誠実義務の1つであり、就業規則雇用契約書などに規定されているかどうかにかかわらず、労働契約に付随して当然に発生する労働者の義務です。さらに労働契約が終了した後も一定期間、労働者守秘義務を当然に負うとされています。

ですから退職時に秘密保持誓約書をとらなくとも、労働者は退職後も引き続き守秘義務を負うわけですが、秘密情報の定義や取扱い等について細かく合意することは確かに重要といえます。


さらに労働者は、会社に在職中は競業避止義務を負いますが、退職後については、就業規則あるいは契約書等によって別途合意を得ない限り、競業避止義務を負わないとされています。



つまり、企業は、守秘義務をより厳格に労働者に課すために、そして退職後の競業避止義務を別途課すために、労働者と合意をしておく必要があります。できれば就業規則による一律の包括的同意というかたちだけではなく、各労働者の職務内容・権限に応じた個別の合意をとっておくのが望ましいといえます。



ですが、前述の通り退職時点では労働者に拒否された場合には何も手だてがありません。退職時点で求める義務は、事前に合意している労働条件とは異なるからです。

従って企業は、守秘義務や競業避止など「退職後も引き続き労働者を拘束する義務」を課したいという時には、入社時に、または重要な秘密を扱う職位・職務への昇格時・配転時に合意をとることが有効といえます。



注意すべきは、労働者が誓約書にサインしないからといって、本来支払うことになっている退職金を減額するなどの措置は許されないということです。あらかじめ労働契約における労働条件として合意している退職金等については、減額・不支給事由に触れない限り会社は支給する義務があります。

ただし、例えば退職金とは別途、契約にはなかった恩恵的な慰労金を支給する等であればそれは労働条件とはいえませんから、支払うかどうかは企業の任意です。秘密保持や競業禁止の代償措置として金銭を支払い、引き替えに誓約書に署名をもらう、署名をしないのであれば支給しない、というかたちであればスムーズに退職時の個別合意を得ることは可能と考えられます。




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2013-10-09

「業績が悪いので退職金払えません」はアリなのか


退職金制度を作ったり見直しを加えたりする際にこう相談されることがあります。

「会社の業績が悪い時は不支給とするルールにできないか」

つまり賞与と同じようにしたいということです。
通常、就業規則の賞与の条文には以下のような記載があるはずです。

「会社業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給しないことがある。」

これを不確定文言といいますが、退職金でも念のためこの不確定文言を入れたいということです。



結論としては、それはちょっと厳しいと思います。
そのような規定は不当と判断される可能性が高いでしょう。



賞与は半年ないし1年間を支給対象期間として不確定的に支給するものです。その直近の半年なり1年間の業績が悪ければその年は支給できないという理屈もよく理解できます。

しかし、退職金とはそもそも法的に賃金後払的な性格を有しているものであり、例えば20年間勤務したケースであれば20年間毎年給料を支払う代わりにいくらかを退職金として積み立ててきたことになるのです。

20年間労働者の本来受け取る給料から退職金引き当て分を差っ引いておきながら、今になってたまたま金庫にお金がないので20年間積み立てた分まで全部払えませんというのは全く筋が通りません。

退職金制度はいったん規定化した以上、会社が恩恵的に与えるものではなく法律上「賃金」となるわけです。「何十年後に会社を辞めるときにこれだけ払いますよ」という条件も含めて労働者を採用しているはずであり、その人材獲得メリットだけ享受しておきながら業績が悪くなったら払えませんという主張は裁判ではまず通らないでしょう。それなら最初から退職金制度をつくるべきでなかったと言われてしまいます。

例えば業績がここ2〜3年で悪化していて、その範囲において不支給とするということであれば合理性が認められる余地もあるでしょう。退職金債務を割と軽く考える方もいますが、毎月の賃金と同じくらい重要であることを忘れてはいけません。

2013-10-06

労働基準監督官の現実<ダンダリンを視聴して>


日本テレビ連続ドラマダンダリン 労働基準監督官」の第1回オンエアを見ました。一般的に馴染みのない労働基準監督官という職業についてそれなりに具体的に表現できていたように思います。

以下、ドラマでやっていた内容について、実際はどうなのか、個人的にどう感じたかを項目別に言及してみようと思います。




労働基準監督官は労働基準法違反があった場合、逮捕できるということが強調される内容だった。

確かに監督官は司法警察員なので一般の警察官のように逮捕状裁判官に請求して逮捕ができますが、このようないわゆる「通常逮捕」ではなく「現行犯逮捕」という形であれば法律的には一般人でも逮捕はできるわけですし、ことさら逮捕を強調するよりも送検権限があるという方が現実的ではあると思います。実際に書類送検はザラにあります。

でもドラマ的には書類送検のシーンを放映しても面白くも何ともないことは確かです。




労働者から口頭でサービス残業常態化していることを聞いただけで、段田凛(労働基準監督官)がすぐに臨検に行くと言い出した。

実際には、労働者からサービス残業の存在を聞いただけでは有り得ない話です。監督官は通常、客観的な証拠等によって違法性をある程度特定した上でなければ臨検は行いません。仮に物的な証拠がほとんどなかったにしても、労働者から細かく聞き取りをして、その内容に違法行為の信憑性が確認できる状況でもなければ職権を発動することはないでしょう。

具体的にはサービス残業の場合は、その会社の労働時間賃金がどう規定されていて、何月何日にそれぞれ何時間何分の残業をして、それに対する給料の支払いはどうなっていて、結果それらが労働基準法第何条に違反するのか、ということを労働者は監督官に申告します。監督官はそれらの申告に基づいて、調査が必要なのか、調査するとすれば担当者を監督署に呼び出すか、それとも臨検するか、といったことを判断します。

これは監督官が労働基準法違反という刑法犯を扱っており慎重を期しているとも考えられますし、監督官の人数が少な過ぎて全てを調査していたら回らないので違法性をある程度特定できた案件のみ動くという面も影響していると考えられます。




「労働基準監督官は全国に3千人もいるのに被疑者逮捕は年平均2件しかない」というセリフ

逮捕の件数の少なさを強調する為のセリフではありますが、これだけ聞くとまるで労働基準監督官が現状十分に足りているように聞こえるかもしれません。

実際のところ、3000人という人数(2千人台後半といわれている)は圧倒的に人手が不足しているといわれています。労基署に行くとたくさん職員がいるので何も知らない一般の人は職員がみな労働基準監督官だと思うかもしれませんが、監督官はごく一部です。

東京で最も企業の集中する中央労基署では、監督官一人に対して3千数百の企業を受け持つ必要があるといわれています。対応する案件が多すぎて、長時間労働を取り締まるべき監督官が一番長時間勤務に陥っているという冗談のような話です。



と何だかんだ書いてますが、総合してかなりリアルに描かれていると思います。求人を「かわいい女の子」に限定する行為(男女雇用機会均等法違反)やパワハラといった案件が、労基署ではなく労働局の管轄である等なども正確ですし、逮捕前に検察に根回しをするあたりも間違いないと思います。





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2013-09-23

「残業代ゼロ」特区という報道の違和感


企業が労働者解雇しやすくして、さらに労働時間規制を緩和し残業代をゼロにすることも認められる特区の法案が秋の臨時国会で提出されるという報道があります。一定の年収以上の労働者、高度で特殊な能力・専門的な技術を持ち法規制にとらわれずに思い切り働きたい労働者を想定しているといいます。

現行法下において企業が労働者に対し時間外割増賃金を支払わなくてもよい場面は主に2つあり、1つは労働者管理監督者に該当するケース(※厳密には労基法第41条該当者)、もう1つはみなし労働時間制裁量労働制適用されているケースですが、みなし労働時間制裁量労働制はあくまで労働時間のカウント方法に関する特例であって、今回の法案は労働時間規制を緩和するといっていますから、労働時間規制を適用させない管理監督者に準じたものであるということになります。以前話題になって見送りとなったホワイトカラーエグゼンプションと似たようなものだと考えていいでしょう。

管理監督者労働基準法労働時間に係る規定が適用されません。経営者と一体的な立場で大きな裁量をもって働く訳ですから、経営者と同じように労働時間の枠に収めることが難しく、むしろその枠を超えて働く必要があり、また、経営者並みの裁量・権限があるので規制をはずしても特に本人の不利益にはならないという考え方です。もちろん相応の収入があることが大前提です。

そして労働時間の規制自体がないので、そもそも法定労働時間がありません(所定労働時間を定めるのはある意味企業の自由だと思いますが)。法定労働時間がないので残業(法定時間外労働)という考え方は当然あてはまりません。残業という概念はないのです。残業がないのだから残業代もありません。残業代ゼロ」なのではなくて、「残業代という項目」が初めからないのです。

考えてみれば、「残業が発生しているのに残業代を支払わなくてもよい」とされる法律は元々ありません。みなし労働時間制裁量労働制にしても、「みなし時間」が法定時間を超えていれば時間外割増賃金の支払いは必要になります。一方、管理監督者は残業自体が発生し得ないのです。

そう考えると、今回の法案に係る報道が「残業代ゼロ」と言われているのもおかしなものだと思います。

今回の法案が通れば、特区内においては労働時間の規制が緩和され、管理監督者と同様にその要件(権限や責任、職務内容、裁量、収入)が定められ、要件に該当する労働者労働時間規制の外で裁量をもって働くことになります。もちろん企業はそれら労働時間規制のはずれた労働者に対しても安全配慮義務を負うわけであり、実質的に労働時間を把握する必要がありますし、長時間労働によって過労死などが発生すれば責任を追及されることになります。また、実態として要件を満たしていなければ通常の労働時間に係る規定が遡って適用され、名ばかり管理職のケースと同じように残業代を遡って請求されるリスクもあるでしょう。

このように企業は労働時間規制を緩和されるとしても、今回の「残業代ゼロ」のような見出しの報道に惑わされて企業側に存在する責任を忘れてはいけません。また、報道する側は「残業代ゼロ」をことさら打ち出すのではなく、労働時間規制を緩和する対象者とその要件は労働政策として適正なのか、そして過労死等の労働災害を予防する為にはどのような規制が別途必要なのかがきちんと議論されるような形で報道するべきだと思います。

2013-09-20

変動の多いパートタイマーの有休(比例付与)の基準


年次有給休暇は、雇い入れから6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対して10日間が付与されますが、所定労働日数や労働時間の少ない労働者(つまりパートタイマー)であっても、その労働日数に応じた日数の年休が付与されることになります。これを比例付与といいます。

具体的には、1週間の所定労働時間が30時間未満であって、かつ、1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められているパート労働者の場合は、1年間の所定労働日数が216日以下)の労働者が比例付与の対象になります。

そして、比例付与の際の付与日数は年休が発生する「基準日」時点における今後1年間に予定される所定労働日数および所定労働時間に基づいて決定されます。その後、年度の途中で仮に所定労働日数が変更になったとしても、付与された日数が変わることはありません。ですから例えば、最初の半年間の所定労働日数が週4日であってとしても、基準日において今後1年間の所定労働日数が週5日という予定であれば、その労働者は比例付与ではなく通常の労働者と同じように10日の有休が付与されることになり、その後の年度中に契約が変わって週4日に戻ったとしても、有休は基準日において発生した日数のままです。

しかしながら、現実にはパートの雇用契約はきちんと締結されていないケースも多いので所定労働時間や日数が曖昧ではっきりせず、あるいは季節によって所定時間・日数が不規則に変わったり、本人や会社の都合によって随時変更になるような運用も少なくないと思います。

所定労働日数が週1日であった労働者が、基準日付近でたまたま週5日の条件で働いていて通常の労働者と同様の10日間の有休を与えられ、その後また週1日勤務の契約に変わってしまったというケースを考えると、とても合理的とは思えません。

こうしたパートタイマーの所定労働日数が大きく変動するようなケースについては、参考となる通達が存在します。

訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(平成16年8月27日基発第0827001)

予定されている所定労働日数が算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出しても差し支えないという内容です。具体的な処理としては、過去1年間の出勤日を月ごとに集計し、合計日数を労働基準法施行規則第24条の3で定める「一年間の所定労働日数」の区分にあてはめることになります。なお、雇入れ後の最初の有休付与に関しては、過去6ヵ月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして判断することになります。





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2013-09-03

解雇の金銭解決ルールは労働者にとってはたして損なのか


解雇金銭解決制度の議論に関するこんなニュースがあります。

解雇補償金制度が導入されると「カネさえ払えばクビ」にできる?(週プレNEWS)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130828-00000427-playboyz-soci

「制度化されれば解雇解決金の水準が示されます。現状では従業員が会社側と最高裁まで争って勝訴すれば、判決確定までの賃金の支払いと将来の賃金相当分の支払いが会社側に命じられ、少なくとも3年分の賃金は確保できる。

しかし、この制度をすでに導入しているスウェーデン(勤続5年未満→月給6ヵ月分など)がそうであるように、制度化されると解決金の水準が低めに設定され、従業員にとっては現状より少ない金額と引き換えに解雇されることになります」(労働問題に詳しいジャーナリストの金子雅臣氏)



現行法の下で労働者最高裁まで争えば少なくとも3年分の賃金を勝ち取れるというのは、全体から見ればあまりにも一握りの結果を一般化しすぎだと思います。

世の中の不当解雇といわれる解雇案件のうち、多くは行政のあっせんや労働審判によって低水準の解決金で解決されており、ごく少数だけが裁判まで進んで徹底抗戦を行い、そして圧倒的大多数の労働者は具体的行動さえ起こさずに泣き寝入りしているのが現状です。

そもそも大企業中小企業では全く状況が異なる現実があります。

大企業であれば解雇以前の退職勧奨の段階で賃金1年分〜2年分などの高い水準の金額が提示されることもよくありますし、従業員もまた金銭的に余裕がある人が比較的多く、本腰を入れて個別労働紛争に乗り出す確率も高いでしょう。労働審判民事訴訟へと進めば2年分、3年分などの解決金額になる可能性も確かにあり得る訳です。

ところが中小企業の場合、解決金が賃金2〜3ヵ月分などというのはよくある話であり、行政のあっせんのレベルでは賃金1ヵ月分の解決金が提示されることも全く珍しくないのです。それ以前にすぐ次の職を見つけないと生活が成り立たず、とても結果の見えない紛争を押っ始めるような余裕はないという労働者が大半であり、「会社側と最高裁まで争って勝訴すれば」という状況がいかに非現実的な夢物語なのかというところです。このような現状を踏まえれば、例えば解決金が賃金6ヵ月分という水準を法制度によって確実に補償されることであれば、一概に労働者にとって損だと一刀両断に言い切れるものでもありません。

結論を言えば、金銭解決ルールの法制化は、大企業労働者にとっては解決金水準が現在よりもおそらく下がることとなり、逆に中小企業労働者にとっては解決金水準が上がるうえ、さらに法制度によって最低限の解決金が担保され泣き寝入りするケースが大幅に減少する可能性が高いのでは?と考えるのであります。

では企業にとってどうなのかといえば、概ね労働者の場合と逆になるということでしょうか。もちろん各企業の方針・考え方によって異なると思いますが。

ただそれにしても、いかに解雇無効の場合は現職復帰が原則とはいえ、現行法下においてはあっせん・労働審判ではほぼ全てが、そして裁判になっても本人が現職復帰を強く望んで判決を取りにいかない限りその多くが事実上和解によって金銭解決しているのが現状であり、そもそもの金銭解決ルールの趣旨と必要性についてもう少しきちんと考えて議論すべきであると思います。

2013-09-02

休職期間を安易に延長すべきではない


休職制度は解雇リスクを避ける意味でも企業にとって大変重要な制度ですが、悩ましいのは休職期間の終了時期が近づいてきた復職間際のところでしょう。

本人の復職の意思を確認し、意思アリであれば職場復帰可能を証明する主治医の診断書を提出してもらい、さらに産業医もOKを出してくれれば申し分ありません。

ところが、休職期間終了ギリギリまで休職していた従業員がそう何の問題もなくスンナリと復職できるとは限りません。本人も復職するのかしないのか要領を得ない態度で、傷病は完治しておらず医師の証明も微妙という状況もあります。このような場面では会社もなかなか判断をしたくありません。会社の就業規則休職規定には大抵、

「会社が必要と認めたときは延長できる。」

という文言が入っています。「とりあえずもう少し延長をして様子を見るか」と結論を先延ばしする会社も少なくないように感じます。

しかし、これはやってはいけないことです。何が問題かというと、「なぜ延長したか明確に説明できない」ということです。延長は特段の事情が存在しない限りするべきではありません。特段の事情とは極めて近い将来傷病が治癒し復職できるという具体的な見込みです。

休職解雇を猶予する制度であり、どの程度まで猶予するのが適切かは企業の事情によって異なりますし、復職可否や延長の判断は企業の裁量によって判断するものであることは確かですが、企業ごとにそれぞれ一貫した判断をしていかなくてはなりません。

「とりあえず延長」を1回やれば、今後、微妙な案件では何度も延長が必要になるかもしれません。従業員側に過去の延長を指摘された時に、延長する・しないの明確な基準をきちんと説明できるでしょうか。ある労働者は延長なしで休職期間満了退職、一方、ある労働者は何度か延長したうえ完治し復職、それを曖昧な基準で判断されたらたまらないということになります。復職可否の判断は労働契約の終了を左右するものであり、一歩間違えればすぐに訴訟沙汰になるということを忘れずに慎重に判断したいところです。