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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2011-11-24

内定と内々定の取り消し


就職氷河期が続く昨今、やっと内定を獲得したのに企業の経営環境悪化で入社日がくる前に内定が取り消されてしまうのではないかと心配する学生も少なくないことと思います。

不況を反映して最近は内定取り消しに係るトラブルが増加しています。

そして今年2月、内々定の取り消しについても全国初の会社に損害賠償を命じる判決がでました。



法的に内定取り消し内々定取り消しは許されるのでしょうか。
そもそも内定内々定の違いとは何でしょうか。
今回は内定内々定の法的性質について書きたいと思います。



新卒採用において一般的には、内定は条件付き採用、内々定は囲い込みと言われます。

企業は採用選考を経て採用したいと決めた応募者に対し、内定日に内定通知書を交付して採用の意思表示を行います。入社を希望する者は内定に付された条件を受け入れることを約する入社誓約書を提出することになります。

ところが経団連が規定する倫理憲章では、「正式な内定日を10月1日以降にすること」、そして「内定日より前に入社誓約書を提出させないこと」について遵守を求めています。そのため企業は内定日がくる前に採用したい学生に対して、まずは内々定というかたちで採用したい意思を伝え、入社承諾書の提出を求めることによって囲い込みを行い、当該学生が他の企業に流れるのを防ごうとするわけです。

一般論で何が内定なのか、どこからが内々定になるのかについては様々な形態がありますからはっきりした線引きはありません。通知方法も口頭で伝えられる場合もあれば文書の場合もあるでしょう。



ポイントになるのは、労働契約がどの時点で成立しているのかということです。


判例により、内定とは、就労開始の始期の定めが付いた解約権が留保された労働契約が成立しているものとされています(「始期付解約権留保付労働契約」)。

労働契約が成立している以上、内定取り消しの考え方は解雇と同様であり、そう簡単には認められません。解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、かつ社会通念上相当として是認できる場合にのみ許されます。
(※ただし、解約権が留保されていることから、通常の解雇の場合に比べ広い範囲の事由が認められるものと考えられます。)

通常は入社誓約書に記載された採用内定取消事由に該当した場合など、採用予定者の都合による事由によって取り消しが認められるのが原則であり、経営状況などの会社の都合による取り消しはよほどのことがない限り解約権の濫用として認められないものと考えたほうがいいでしょう。

近年注目された事件は日本綜合地所による内定取り消しです。新卒者53名全員の内定が取り消されたのは衝撃的なニュースであり、記憶に新しいところです。取り消しの通告を受けた学生の一部がユニオンに相談したことで問題化し、最終的に会社側は解決金として1人につき約100万円を支払ったといわれています。(その後日本綜合地所は会社更生手続を開始したため、経営はかなり厳しかったことがうかがえます。)


次に内々定の法的性質についてですが、今年2月に福岡高裁が下した判決によれば、内々定による労働契約の成立は認められないとされました。

上記事件は、不動産会社が内定通知書交付日の2日前に具体的な説明もなく突然内々定を取り消したとされたものであり、労働契約を締結する過程における信義則に反し、採用予定者の期待権を侵害するものとして不法行為を構成するとし、慰謝料20万円、弁護士費用2万円の支払いを命じられました。

現時点では、内々定の取り消しは労働契約成立前の行為であり、債務不履行は認められませんが、経緯や対応次第では違法となり得ることがこの判決で初めて示されました。(この賠償額が、内々定後数ヵ月間にわたって就職活動の機会を失われたことの対価になるとは思えませんが。)




前述の日本綜合地所は、内定を学生に通知した後「1ヵ月で情勢が激変」し、当初予想できなかったほどの厳しい状況になったといわれます。

一方、史上類を見ない就職難の状況下、新卒学生にとって内定のみならず、内々定の価値が以前より一層強まっていると考えられます。


以上を踏まえ、企業側は次の事項を気をつけるべきだと思います。

  1. 経営状況や経営環境を考慮し、適切な採用人数を慎重に決めること
  2. 内々定を通知する段階では、労働契約は成立はしていないこと、経営環境等により取り消しがあり得ることを十分説明すること
  3. 内定あるいは内々定取り消しをせざるを得ない状況になった場合は、できるだけ早期に十分な説明を行って理解を求めるとともに、誠意をもって補償等その後の対応をとること



ちなみに応募者側が入社誓約書を提出した後に内定を辞退できるかという点ですが、労働基準法第16条では労働契約の不履行について会社が損害賠償額を予定する取り決めをすることが禁止されています。つまり内定辞退について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことはできません。

ただし、内定辞退は契約の解除にあたりますから、債務不履行により現実に発生した損害について会社は一定の賠償を請求することは可能とされています。会社側だけでなく応募者側にも信義則に基づいた誠実な対応が求められるわけです。

内定を辞退する際にはできるだけ早く誠意をもって意思を伝え謝罪することがトラブル防止につながるものと思われます。



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2011-11-14

求人広告と実際の労働条件が違うときのポイント


求人広告を見て応募したが、入社したら求人広告に載っていた募集要項と実際の労働条件が違っていたというのはよくある話です。

特によく聞くのは、「給料が聞いてたものより低かった」、「勤務時間が長い」「完全週休2日と書いてあったが、隔週で土曜出勤だった」、「正社員でなく契約社員にされた」「知らないうちに残業手当が給料に含まれていた」等です。


求人内容と採用後の労働条件が異なるのは違法ではないのかと疑問に思われる方もいらっしゃるでしょうが、端的に言えばこれは違法ではありません。


企業が従業員を募集するためにハローワーク求人票を出したり、新聞折込やインターネットの就職・転職サイト求人広告を載せるのは、法的には「労働契約の申込みの誘引」という性質のものであり、そこで掲げられた労働条件はあくまでも見込みということになります。

ですから求人広告を見て応募したからといって必ずしもその内容で労働契約が成立するわけではありません。

契約の当事者たる会社と労働者との間で特段の合意があれば、求人内容とは異なる労働条件で雇入れることも可能です。

ただし、これはあくまで結果的に条件を変更することで合意したという話であって、最初から違う条件で雇入れることを意図して求人広告を出すのは悪質であり問題がないとはいえません。

※職業安定法は、虚偽の広告、虚偽の条件の提示によって労働者を募集した場合の罰則を設けています(第65条第8号)



合意があったかどうかというのが最大のポイントになるわけですが、トラブルを未然に防止する観点から、会社は次のことを注意すべきです。


労働契約を結ぶ際に会社は労働者に対して労働条件を書面で明示しなければなりません(労働基準法第15条)。この書面を「労働条件通知書」といいますが、雇用契約書を交わす方法でも問題ありません。

以前の記事で書きましたが、労働条件通知書を交付せずに口頭で説明するだけで済ませる会社が現在も少なくありません。

※以前の記事はこちらです。
労働条件通知書 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


求人内容よりも不利な条件で労働者を雇い入れた後、労働条件について言った言わないの争いが生じた場合、最初に労働条件通知書を交付していなければ会社の立場は厳しいものになると考えられます。

労働契約自体は口頭だけでも有効に成立はしますが、求人内容と異なる条件で合意したことについて会社は証明することができません。

会社が募集した際の求人票または求人広告が残っていれば、そこに記載された内容が労働条件になると判断された裁判例があります。


求人内容と異なる労働条件で採用する際には、労働条件通知書の交付はいつにもまして特に重要であるといえるでしょう。




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2011-11-03

就業規則がなぜ雇用契約書よりも重要なのか


最近は労働トラブルの増加が認識されてきたからなのか、従業員を採用する際に雇用契約書(または労働条件通知書・雇入通知書)をきちんと作成する企業が増えてきていると実感します。雇用契約書の確認や添削を依頼されることも少なくありません。

もちろんリスク管理の一環として雇用契約書を整備することは大切な事ですが、意外にそういう会社が就業規則給与規定含む)を全く整備せずにほったらかし状態であったり、就業規則を従業員に全く周知していないと分かって驚くことがあります。


雇用契約書を備えても就業規則が適当では安全とはいえません」と言ってみても、企業の経営者や担当者の方はピンとこないのかもしれません。

また、就業規則を一から作ったり、長年手をつけていない就業規則を改定するのは非常に大変な作業です。それであれば従業員が入社する都度に雇用契約書を吟味して作成する方が手間がかからないと感じるのかもしれません。

世の中の一般的な契約関係は全て契約書によって主張立証を行うものと思われますから、雇用関係についても雇用契約書に細かく規定しておけばとりあえずは安心だと考えるもの無理はありません。




しかしながら、労働契約における使用者と労働者の関係は非常に特殊なものです。

労働トラブルが起きた場合、就業規則の内容は雇用契約書よりも優先されます。いくら雇用契約書に労働条件を細かく定めていても就業規則と矛盾するようでは意味がありません。


実際に見かける雇用契約書と就業規則の内容の矛盾は以下のようなものです。

  • 雇用契約書で「退職金なし」としておきながら、就業規則では全員に支給されるととれるような記載になっている
  • 規定されている労働時間や休憩・休日が全く違う(雇用契約書ではシフト制になっているが、就業規則ではシフト制については一切記載がなく、「9時〜18時・土日休み」のような一般的な規定だけが書いてある)
  • 雇用契約書では休暇は有給休暇のみだが、就業規則では様々な休暇が規定されている
  • 雇用契約書で試用期間が定められているが、就業規則では試用期間の規定自体が載っていない
  • 賃金規程に記載された手当の要件を満たしているのに、雇用契約書には記載されていない
  • 雇用契約書では年俸制となっているが、賃金規程には一切載っていない
  • 「パート雇用契約書」と書かれてあるが、パート就業規則は存在しない


挙げればきりがありませんが、「就業規則がきちんと整備されていなくて一番困ることは何か」と聞かれたときに真っ先に考えるのはやはり次の2つでしょうか。


就業規則に載っていない懲戒処分は行えない」

就業規則に根拠がなければ降格・降給が行えない」



懲戒処分(懲戒解雇含む)が行えないということは、ルールを定めても罰則がなく強制力がないということです。規定なしで懲戒を行えば当然無効ですし、ヘタをすれば損害賠償を求められます。

降格・降給については意外と知られていませんし、現実に記載されていない会社が多数あります。規定なしで降格・降給を行えばやはり無効、損害賠償もあり得ますし、労働基準監督署から賃金不払いで勧告を受けるかもしれません。



上記のほか、雇用契約書に書いてあっても就業規則に記載がなければ効力のない事項は少なくありません。

小売業・サービス業でよく利用される変形労働時間制や、配転・出向などの会社の人事権、振替休日・代休の付与命令権、パソコン使用履歴のチェック、従業員所持品検査などは全て就業規則に規定がなければできません。




雇用形態が多様化し、正社員しかいないという会社は珍しいといえる近年、パートや契約社員などの非正規従業員のことを考え、休職制度や賃金・賞与・退職金制度などを正社員と分ける必要があるでしょう。


会社のリスク管理には秘密保持セクハラパワハラ社用車マイカーに係る規定は欠かせませんし、税務的には出張旅費規程は重要だと思います。




なお、就業規則の内容を変更する際ですが、従業員にとって不利な内容に変更する場合は、従業員の同意なしに行うと後でトラブルが起きたときに無効とされる可能性が高いので、くれぐれもご注意下さい。




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