Listening:<金言>独立機運、底流を知る=西川恵 - 毎日新聞(2014年9月12日)


http://mainichi.jp/journalism/listening/news/20140912org00m010003000c.html
http://megalodon.jp/2014-0918-0950-05/mainichi.jp/journalism/listening/news/20140912org00m010003000c.html

近代の人間や社会に対する新しい認識を切り開いた18世紀の啓蒙(けいもう)思想というとフランスが知られる。しかしフランスほど華々しくないが、同時期、スコットランドでも啓蒙思想が花開き、近代文明に多大な影響を与えた。

国富論」を書いたアダム・スミス、哲学者デービッド・ヒューム、歴史・哲学・経済学者のジェームズ・ミル(政治・社会思想家ジョン・スチュアート・ミルの父)、哲学者トマス・リード、蒸気機関を発明したジェームズ・ワット……。歴史教科書に登場する彼らは18世紀、スコットランドに生まれ、活躍した。

なぜ北の孤立したスコットランドがフランスに勝るとも劣らない知的・精神的拠点となったのか。米国でベストセラーになった「近代を創ったスコットランド人」(アーサー・ハーマン著、篠原久監訳・守田道夫訳、昭和堂)は、カルビン派プロテスタント信仰の下、自由で自立的な「個人」の観念が育っていたことと、ロンドンから遠く離れ、国家組織や貴族サロンに支配されなかった点を挙げる。

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スコットランドによってかき立てられている地方の発言力強化と自立への欲求を、世界の指導者は複雑な思いで注視しているはずだ。欧州、ロシア、中国だけでなく、基地問題で不満が高まる沖縄を抱える日本とても人ごとではない。

参考)
欧州で独立可能性のある地域

A級戦犯 ラジオ番組で語る 57年前の音源発見 「敗戦 我々の責任でない」-高知新聞(2013年8月13日)

http://www.kochinews.co.jp/18janataisho/130813taisho.html
http://megalodon.jp/2014-0918-0958-22/www.kochinews.co.jp/18janataisho/130813taisho.html

A級戦犯は昔のことじゃないかと、受け取る人もいると思います。何で今更、と。だけど、これは靖国(神社合祀)の問題にもつながるし、現在の憲法改正論にもつながっている。A級戦犯の『教育勅語に戻ろう』『昔の(明治)憲法の方がいいんだ』という発言は、現在の政権の動きと相通じるものがあります。A級戦犯の人たちが当時言っていたことが、今は、一般の人たちにも浸透してきたんじゃないか、と」

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《小幡尚・高知大准教授に聞く》 詭弁と欺瞞 被害顧みず

A級戦犯4人の発言を聞くと、彼らの中で戦争の被害がなかったことになっている。終戦からインタビューを受けるまでの間に、原爆投下や東京大空襲、各地の空襲など国民が知らなかった被害状況が明るみに出た。東京裁判では、連合国軍の行為が不問にされるなど評価は分かれるが、満州事変が謀略だったことなど旧日本軍による侵略の実相も分かった。4人は、そうした事実をごまかすどころか、あたかもなかったかのように完全に目をそらし、発言していることが印象に残った。

詭弁(きべん)と欺瞞(ぎまん)と言っていいと思う。

その欺瞞には、自己欺瞞も含まれる。1945年の日本軍の負け方は、ぎりぎりで負けたという状況ではないことは軍人であれば分かっているはず。「日本は負けてない」というのは単なる言い回しにすぎない。

2011年3月の東京電力福島第1原発の事故後、政府も東電も「健康に直ちに影響はない」など他人も自分も欺く話法を使ってきた。そうして危機から目をそらし、さらに危機を増幅させてきた。

東京大学東洋文化研究所の安富歩教授は「東大話法」という表現を用いて、この点を突いている。A級戦犯4人の発言は、「東大話法」にそのまま当てはまると感じた。

番組が放送された1956年の流行語の一つは、政府の経済白書に記載された「もはや戦後ではない」という言葉だった。A級戦犯だけでなく、政府も戦争の総括をしていないことが分かる。

昭和の時代に入ると、陸軍の中で明らかな作戦ミスをした人がその後、出世するということが起き始める。戦前からの軍のそういう無責任な体制が、戦後も続いているのではないか。問題を直視しないのはエリートの特徴と言いたいところだが、原発事故後の社会状況を見る限り、残念ながら、今の日本全体に広がってしまっている。

私自身は、4人の発言から直接には「右傾化」の危機はそこまで感じなかった。日本社会の中にある、問題を直視しないという伏流が強くなったときに、世の中が右傾化したように見えるのではないかと読み取れた。問題を直視しないという伏流は、戦時中からずっとあり、原発事故の危機で流れが大きくなったのではないか。

戦争を総括してこなかったA級戦犯原発事故を直視していない政府。両者には共通項がある。問題をどう総括し、どう出発していくか。日本は今、そこが問われている。