文藝春秋の新刊 2001・7 「床」 ©大高郁子

「京都に住んでいながら、いまだいったことがない…」とホームページで紹介されている「床」。そうなのね、鴨川の納涼床の景色なのですね。もちろんわたしなんぞ、京都でのお食事なんて、修学旅行のときの旅館でしか知らないもんね。

http://www.kyoto-yuka.com/index.html

マイミクのキューさんなら、こういう無駄なお金の使い方(当人は“優雅な”とか“風流な”とかいうだろう)してるかもしれないので、今度訊いてみよう。でも、賑々しく楽しげな風景だな。
こういうね、大高イラストではなかなか群像っていうのか大勢の立ち居振る舞いは貴重なのです。とてもすてきないのだコーヒー店のイラストのリンクを貼ります。どうぞご覧下さい。

http://www.hanakowest.com/exhibition/ohtaka_1.php

文庫チラシコレクション 文春文庫 2007年11月チラシの紹介

文春文庫 2007年11月の新刊

内田康夫 十三の冥府 上・下
内田康夫
十三の冥府 上・下

柴田よしき
好きよ

篠田節子
秋の花火

折原一
愛読者 ファンレター

松本清張
危険な斜面 <新装版>

北原亞以子
妻恋坂

黒川博行
蒼煌

秋山香乃
新選組藤堂平助

乾くるみ
リピート

佐野洋
事件の年輪

日本推理作家協会
鮎川哲也 泡坂妻夫 北村薫
北森鴻 東野圭吾 山口雅也

マイ・ベスト・ミステリー 5

柴田翔
されど われらが日々─ <新装版>

松浦理英子
裏ヴァージョン

阿佐田哲也
麻雀放浪記 3 激闘篇 4 番外篇

東海林さだお
誰だってズルしたい!
高嶋哲夫
ペトロバグ 禁断の石油精製菌

石川忠久
身近な四字熟語辞典

ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子=訳
石の猿 上・下

徹夜必至のミステリー
ミステリー&サスペンスフェア

日本の論点 2008

篠田節子 秋の花火

秋の花火 (文春文庫)

秋の花火 (文春文庫)

傷口が開いたように、甘い痛みが胸を駆け抜けていく。
火はなかなか移らなかった。井筒の体温が皮膚の上に感じられ、駐車場あたりの子供たちの声が遠くなる。
私たちはしゃがみこんだまま、まもなく尽きようとしている溶接の火花にも似たその青白い火をみつめていた。
花火のはじける音の向こうから、青マツムシの甲高い声が一瞬幻のように聞こえてきて、闇に吸い込まれて消えた。
そのとき井筒の花火の先端から、勢いよく花火が噴き出した。日本の花火は離れ、明るさを増した光の中で、井筒がほっとしたようにこちらを向き微笑した。
  <了>

という感じで、これから不倫関係が始まりそうな「秋の花火」の結末数行。─なのか、消えかけそうな花火は、恩師である欲望のままに生きた指揮者の老いて灰色で情けなく排尿続けるペニスを象徴していたのかは分からないけど。
ソリスト」「秋の花火」と、プロの音楽家の生態を描いた作品がふたつ収録されていて、うまく書かれている分、アートに生きる人びとって大変です(大いに変!)ねとため息が出る。エキセントリックでも破綻してても、許されるっていう大前提がなんとも小心者のわたしとしては不可解です。
ソリスト」のほう、種明かしがあんな場所でほんの短い時間で、主人公だって咀嚼できないだろう。もう少し主人公が「ソ連時代」を身体で理解し馴染んでいた(留学していたくせに)ことにしたほうがよかったのではないか。スパイ・密告・政治犯…それらの言葉、旧ソ連とともにちょっと遠ざかり読者としてトラウマとして受容しがたくなってもいそうだ。─新潟市民以外にはどうでもいい小さな瑕疵、信濃川を挟んで芸文(りゅーとぴあ)の向かいに一流ホテルは存在しない。
「観覧車」はまあ、はっとさせてきらっと楽しい篠田流エンタテインメント。とはいえ村上春樹ファンですと深夜に観覧車がストップなんて「スプートニクの恋人」のシェチュエイションを思い出しますよね。自分が凌辱されているシーンを深夜の観覧車からなす術もなく見続けねばならず、ついには一夜で白髪になったミューという、まあなんともあからさまな精神分析的な物語がありましたね。
篠田節全開の「観覧車」のほうはまあ、おかしく楽しく読んでおしまいでいいのだろうが、でももすこし長くてきちんと“教訓”まで用意してくれたならもっとよかったのかと─そう思わすくらいが名短編なのだね、毎度のことですが篠田節子、すてきな読書体験でした。

「観覧車」の初出が「小説推理」誌の1997年8月号であることを考えると…
  「秋の花火」解説 永江朗より

あれあれ!スプートニクの恋人よりこちらのほうが早いんだ。