Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『悪人』

 最近You Tubeで聴いていいなと思い直しました。↓歌ヘタだけど。
H Jungle With t - Friendship 1996


 先週の大雨ぐらいから風邪です。微妙な気怠さ感、微妙な熱が治りきらずに数時間事に寝たり起きたりを日曜日はしてて、中途半端に夢を見てたりした。朝起きたら喉に違和感がある程度だったので映画観に行こうかと思い新宿三丁目バルト9に。


 深津さんが女優賞を取ったりして話題の吉田修一原作『悪人』を。僕としては『告白』を手掛けたまだ32歳ぐらいなのかな、川村元気さんプロデュース作品でもあるので、『告白』そして『悪人』と続けて話題作を凄いなあと思いながら気になっていた。


 渡辺あや脚本NHKドラマ『火の魚』のレヴューを地味にお手伝いをした批評家・宇野常寛さんが作っている『PLANETS』の最新号VOL.7では『【緊急特別対談】川村元気×山本寛 日本的想像力を「撮る」 ――日本映画とアニメーションのターニング・ポイント』という企画もありそれを読んでいたので余計に観たかった。


 『PLANETS』は一部の書店か通販なので興味ある方はこちらへ
 ちなみに『火の魚』は9月20日に再放送します。未見の方はぜひ!


Beck - Sexx Laws

 
 朝の満員電車の中で『タマフル』の「シネマハスラー」先週は堤幸彦監督『BECK』だったのだが、を聴きながら向う。まあ、映像化って発表された時点で行く気がゼロだった原作ファンですが、コユキの歌声はやっぱり無理だからボーカルのラインなしかよ! 千葉君役の桐谷健太は評価してたねえ〜。
 通っていた専門の出世頭が堤さんだったりするのだが、『20世紀少年』シリーズのあまりにも酷かったので嫌な予感はしていたが原作クラッシャーの堤さんさすがだね。
 『ケイゾク2』が始まるけどテレビの演出だと彼が『金田一少年の事件簿』とかでヒットメーカーになったのは役者自体がキャラクターとしてコミケライズされた身体表現とか演出が時代に合って新鮮だったからだと思うのでドラマの方はとりあえず様子見。彼の監督した映画はこの数年はほぼ観終わった後にガックシ感を裏切らないからなあ。


ザ・シネマハスラーBECK』配信限定!放課後DA★話(9/11)映画評論家・町山智浩さんによる『BECK』評


 堤幸彦の天然の不誠実。原作の台詞を借りて言うなら『はっきり言ってこの映画は観客を舐めきってるとしか思えない』らしいです。僕もDVD化したら観ようと思います。


 朝一の9時10分の回だったので客は十数名ぐらいで中年以上の女性が多い感じかなあ。『告白』観た時も、レディースデイだったからほぼ女性客だったなあ。








監督・李 相日
原作・吉田修一
脚本・李相日/吉田修一
出演・妻夫木聡 深津絵里 岡田将生 満島ひかり樹木希林 柄本 明


ストーリー・長崎の外れの小さな漁村に住む祐一(妻夫木)は出会い系サイトを通じて佐賀在住の光代(深津)と出会う。逢瀬を重ねる2人だったが、祐一は世間を騒がせている福岡の女性殺人事件の犯人だった……。


 まあ、祐一は両親ではなく祖父母に育てられていて、樹木希林演じる祖母にとっては息子みたい育てた子。祖父は病気で彼がいないとお風呂に入れるのにも困るし病院に入院したり家に戻ったりしてて彼が車で連れて行かないと無理って環境。で仕事は解体業とかのガテン系


 満島ひかり演じる佳乃は保険とかの営業してて実家ではなく福岡で暮らしている。彼女は岡田将生演じる旅館の息子のボンボンの圭吾に気に入られようとしているが彼には疎ましく思われている。


 祐一と佳乃は出会い系で一度会って関係をしているが佳乃からは金を払えと言われている。祐一は長崎から福岡まで佳乃に会いにくるが目の前で佳乃が圭吾と話していて今日は無理と言われ圭吾の車に乗ってしまう。そしてその車を祐一は追いかけるが。


 みたいな感じで殺人事件までの流れが冒頭で展開される。ここでけっこうきついのは佳乃が祐一と圭吾に対する感じが全然違う所だ。まあ、簡単な言葉で言えば格差だね。佳乃は祐一を見下しているような所があり、最終的にはそれらの態度が彼女を最悪な展開へ導く。


 殺された佳乃の父親は柄本明で、被害者の父親、そして祐一が犯人として指名手配されることで加害者の祖母になった樹木希林にはけっこう感情移入できた。


 圭吾はまあ峠で佳乃を車から蹴りだして放置して逃げてしまうので最初は犯人だと思われるが確保され犯人ではない事がわかる。が父親は彼に会いに行く。加害者の祖母になるとマスコミがずっと家の外で待っている状態になり家からも出づらくなる。


 僕らは加害者にも被害者にもなりえるし、その家族になる可能性もあるので彼らに感情移入した。正直に言うと祐一と光代にはまったく感情移入できなかった。


 祐一は逃げ出しているし、で、光代はずっと同じ国道沿いの学校に通い、今は紳士服の店で働いていてその生活から逃げ出したかった。そこに現れた祐一と何度か寝るうちに芽生えた感情で共に逃避してしまうのだが、まあ『此処ではない何処かへ』行きたいというのはわかるんだけど、いかんせん彼や彼女に感情移入できなかったので僕は後半はわりとしんどかった。

 
 観ていて上手いなあとか思ったのは祖母を騙す詐欺師役の松尾スズキさん。老人を集団で集めて健康の話とかして高額商品買わす詐欺集団のトップの先生みたいな事をしてる役なんだがこういう詐欺師いるんだろうなっていう納得感、たぶんいる。松尾さんも九州の人だから余計に雰囲気がありすぎ。


 この『悪人』に似てるのは今年公開した『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』とか。どちらもロードムービー的だし悲劇的な作品だったりする。『此処ではない何処かへ』行こうとするがやっぱり自分がいる場所が『此処』なのだから『何処』に行こうが変わりはない、逆に悪化する方が多い、この手の映画は。


 やっぱり物語の基本構造的には「行って帰ってくる」ことで主人公が成長するしかないのだけども、どちらも帰るに帰れなくなってしまうので成長しようとしてもそこに待ち受けるのは悲劇だったり絶望だったりする。


 前に小沢健二のライブ『小沢健二『ひふみよ』ツアーファイナル@福岡サンパレス 06/25』で英雄神話を持ち出した事があったんだけども。


<ジョゼフ・キャンベル『千の顔を持つ英雄』で示された英雄神話の基本構造の中で彼は英雄神話を「出立」「イニシエーション」「帰還」の三部構造として把握していて、これはフランスの文化人類学者ジェネップが示した通過儀礼の三段階説の「分離」「移行」「統合」とも一致する>


<英雄はこちら側の世界から「分離」されて向こう側の世界に「出立」し、向こう側での冒険や経験が主人公がそれまでの自分(例えば「子ども」であったり不安定で何かを「欠落」させた状態)から新しい自分に「移行」していく、「イニシエーション」の過程としてあり、そして最後は元居た世界に「帰還」し、その世界に再度「統合」される、という「行って帰る」物語の基本的な枠組みを物語として生きるわけです。>っていうのが英雄神話の基本的な構造。


 だから観てて途中から最後は哀しい予感がしてくる。絶対に元の場所に元の状態には帰れそうにないんだもん。


 『告白』は衝撃的な感じだし、こちらも特に登場人物の誰にも感情移入しなかったが作品としてすげえって思ったので人には勧めたり観た方がいいよって言えたのだが『悪人』はどうかなあ、口コミでヒットしそうな気がしないんだよなあ。
 『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』もそうなんだけどダメな人はダメっていうかみんなに薦める感じの作品ではないような気がする。


 『悪人』の映画は九州舞台で僕の実家は岡山だけど、都会の景色が似てる様に田舎の景色も似ている。まあ、地方なんかどこも似たようなもんだし国道沿いの風景、山や峠を加速して走り抜けて行く改造車。とか地方で生まれ育った人間からするとある種の原風景だよねえ。


 それ故に哀しさが溢れます。救いがないよ〜って。この「地方」感は『ゆれる』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『松ヶ根乱射事件』『サッドヴァケイション 』とかに近い。
 でも、もうちょっと前にやった方がよかったんじゃないかなって思う感じも。なんか「地方」の現実というか雰囲気を描いた良作がゼロ年代に多いかっただけにこれももう数年前に出てても違和感はなかっただろう。


 まあ、観終わった後にモヤモヤ感は残るよね、爽快感とかはない、まるでない。爽快感求めるなら今年ベスト3には余裕で入る『ヒックとドラゴン』がオススメです! シナリオの展開が最高です、いや最強です。3Dがもっとオススメです。


 あと「クッキーシーン」にThe MirrazTOP OF THE FUCK’N WORLD』のレヴュー書きました。


Cee Lo - Fuck You

↑この曲すごい気持ちいい、フラれた彼女を罵ってる歌詞らしいけど、すんごいソウルフルな感じだし。

悪人(上) (朝日文庫)

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悪人(下) (朝日文庫)

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ゆれる [DVD]

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腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)

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松ヶ根乱射事件 [DVD]

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