離散物理としてのペトリネット by アブラムスキー
アブラムスキーの示唆は面白い。
The n-Category Cafe'(http://golem.ph.utexas.edu/category/)の記事 http://golem.ph.utexas.edu/category/2007/03/computer_science_and_physics.html に、次の参照があった。
- What are the fundamental structures of concurrency? We still don't know! (http://web.comlab.ox.ac.uk/oucl/work/samson.abramsky/bertinoro05.pdf)
このなかでアブラムスキーはペトリネットは a kind of discrete physicsと言っている:
- lines are time-like causal flows,
- cuts are space-like regions,
- process unfolding of a marked net are like the solution trajectories of a differential equation.
他に、対話の幾何学(Geometry of Interaction)は証明過程の力学(the dynamics of logical proof)でもある、とも言っている。そして(おそらくは)、結び目やTQFTと絵算の関係も示唆している(ようだ)。
最後に次の言葉を出している。process calculus = the calculus of a fundamental science of information dynamics.
テンパリー/リーブ圏とその周辺
アブラムスキーの"Temperley-Lieb Algebra: From Knot Theory to Logic and Computation via Quantum Mechanics"(http://web.comlab.ox.ac.uk/oucl/work/samson.abramsky/tambook.pdf)をチラチラと眺めて思ったことを記す。
The TL
TLは固有名詞で、the Temperley-Lieb categoryのこと。TLは自然数Nを対象集合とする圏で、pivotal categoryに分類されている。pivotal圏てのは知らないが、コンパクト閉圏や堅いテンソル圏に近いものだ。
TLは非常に具体的で、カウフマン図で射を絵に描ける。対称(置換)の圏や組み紐圏に似ている。対称圏のように、交差=入れ替えを許さないがループ(輪)を持っている。物理的なモデルとしては、衝突すり抜けを許さない粒子の1次元運動の圏で、粒子の対発生と対消滅を許す。時間の向きを上から下(物理の慣例とは逆)とすれば、∩が対発生、∪が対消滅。○がid0とはならないわけだけど、これの物理的意味は僕にはわからない。残念。
たぶん、○≠id0 がテンパリー/リーブ代数のキモなんだろうが、実感がわかない点が僕のダメなところで、スケイン関係式もあいかわらず謎だ。対発生と対消滅により、時空全体(2次元)に領域区分ができるけど、発生消滅の痕跡としての領域が“運動の計算”にどう影響するんだ?
しばらく手計算してみよう。
The oriented TL
点(dots)に向き(orientation)を持たせて有向テンパリー/リーブ圏ができるが、これのほうが僕には扱いやすいかも。有向だとdirectedと勘違いするから、「偏極」または「荷電」がいいな。
スターとダガー
アブラムスキーの記法とは違うけど、fの双対をf*として、2つのダガーf†とf†を導入する(アブラムスキーはf†じゃなくてf*)。すると、f* = (f†)† = (f†)† 。
これは、σとτで生成された群で、σσ = σ、ττ = τ、τσ = στ という関係がある4元群と同じ構造を持つ。4元群は平面のx軸/y軸対称で生成される群であり、スターとダガーを持つ圏Cは、4元群のEnd(C)表現を持つ。つまり、群の線形表現ではなくて、圏(と関手による)表現。群を単一対象の亜群だとみれば、圏表現は“圏の圏”への関手となる。
対称群や組み紐群の圏表現から対称モノイド圏や組み紐(ブレイド)モノイド圏の概念が出てくるのと同じ理屈で、スター圏やダガー圏を考えることができる。ということは、群やモノイドの圏表現(CとEnd(C)に表現する)から、新しい×××圏の概念が作れるってことだな。
geometric simplification!
幾何的単純化 -- この概念はいいね。キャッチフレーズは、Yanking Lines Straight!
タイトニング、ヤンキング、ストレッチングなどを含む概念。ラムダ式などの項の還元/簡約(reduction)、証明の正規化(mormalization)も幾何学的単純化に含まれる。証明に関してはカット消去も単純化と解釈できる。ジラールの実行公式(execution formula)ってのもそうかな? -- よくわからん。
まっすぐに伸ばす、最短経路を取るってことから、変分法、モース理論、測地線、最小作用の原理とかを連想する。計算や証明が離散物理なのだとすれば、なにかしら変分的概念が出てこないとおかしいわけだから、幾何的単純化はとても重要な気がする(山勘)。