イキウメ『プランクトンの踊り場』
《演劇》イキウメ 新作公演
タイトル: 『プランクトンの踊り場』
作・演出: 前川知大
■■出演
伊勢佳世 安井順平
浜田信也 岩本幸子
盛 隆二 窪田道聡
緒方健児 森下創
加茂杏子 大窪人衛
■■スタッフ
美術:土岐研一 照明:松本大介
音楽:安東克人 音響:鏑木知宏
衣裳:今村あずさ 演出助手:石内ケイコ
舞台監督:棚瀬巧 谷澤拓巳
制作:中島隆裕 吉田直美
演出部:渡邊亜沙子 照明操作:吉村愛子
ヘアメイク:前原大祐
衣裳部:山本満穂 橋本加奈子
大道具製作:C-COM舞台装置
小道具:高津装飾美術
運搬:(株)マイド
宣伝美術:図工ファイブ 宣伝写真:TALBOT.
宣伝写真ヘアメイク:高橋真弓(PRELL)
舞台写真:田中亜紀
■■日程・場所
[東京公演]
2010年5月8日(土)〜5月23日(日)@赤坂RED/THEATER
[大阪公演]
2010年5月26日(水)〜5月30日(日)@HEP HALL
■■チケット購入
とにかく劇場の雰囲気がすっごく良くて、お客さんが舞台を温かく包み込んでいるっていうのが、観ているひとりとしても感じられた。老若男女様々な人びとが、1つの作品を観ながら、笑うところで笑って、泣くところで泣いて、謎が解けていくプロセスをじっと目を凝らしながら追いかけている。これはちょっとした奇蹟じゃないかって思ったし、このような劇場の一体感を生みだしたということで、今回の『プランクトンの踊り場』はひとまず成功と言っていいのではないか。
というのは、このような劇場の一体感が生まれたことは、一つ一つの演技を、また一つ一つのシーンをきっちり作り上げていくというイキウメスタイルが、作品のみならず、また演じる俳優のみならず、ちゃんと観客に伝わったという証だからだ。「今日の演技良かったですよ」と観客が俳優に言うと同時に「今日の観劇良かったですよ」と俳優も観客に言えるような関係。観客もイキウメの立派な一員なのだ!
今回の俳優陣では、やっぱり安井順平さんかな(笑)。安井さんが出てくると思わず笑ってしまうというか、安井さんに身を任せてすごくリラックスして観劇できる。これはすごく大切なことで「あの俳優さん大丈夫かな?」とか「あの演技どうもしっくりこない」と思ってしまうと見るべきものが見えなくなってしまうというか、そういうことがたまにあるのだけど、イキウメを観劇するときはもう俳優にすべてを任せて、こちらは観ることだけに集中できる。
あ、あと、大窪人衛くん? 「くん」でいいよね? 「ちゃん」じゃないよね? イキウメSF劇にまた新たな切り札が,,,,,,(汗。。。 ま、いちど観てやってください。。。
《作品について》
今回の『プランクトンの踊り場』は、これまでのイキウメ作品と同様、切れ味鋭いSF劇となっている。一見今までのスタイルを踏襲しているようだが、しかし、作者の前川知大さんの書き方に注目すると、そこには大胆な変化が見られた。
まずモチーフは《ドッペルゲンガー》で、これはSFではしばしば題材とされる。イキウメでも『表と裏と、その向こう』はその1つとしてあげられる。ただ、今回の『プランクトンの踊り場』の書き方の特徴は、「ドッペルゲンガー」だということを序盤にはっきりと明示するという点。そして謎の決め手がそのまま「ドッペルゲンガー」ではなく、「ドッペルゲンガー」に前川さんが独自の解釈を加えた「プランクトン型ドッペルゲンガー?」だということ。
このあたりは一見、地味な変化のようだけど、前川さんにとっては大きな変化だと思う。というのは、前川さんのアイデアがふんだんに盛り込まれているのは確かだが、ただそれだけではないということ。前川さんは実は理論がしっかりしている人なのだ。
SFと言えば、描いている世界は現代かあるいは近未来がほとんどであり、前川SF劇もその例外ではない。今回の『プランクトンの踊り場』でも「引きこもり」が出てきたり「ネット通販」がクローズアップされている。しかし、それだけではない。前川SF劇はなんと古典劇でもあるのだ。しかもSFの古典というのではない。正統な古典。
前川さんが最初に出会った戯曲は何だったのですか?
たぶん一番最初に出会ったのは
戯曲と呼べるかどうかわからないですけども18,19歳ぐらいのときに読んだプラトンの対話篇。中高とあまり本を読んでなくて、それこそ映画と漫画が大好きみたいな世代で、東京に出てきたときに、ああ俺ちょっとバカだなと思って(笑)。兄がすごい本の虫で、兄のところに転がり込んだら、やっぱり俺も本を読まなきゃなと思った。で、何にもわかんないから、とりあえず岩波文庫をごっそり買ってきたんですよ。棚のここからここまでとか言って。その中からバーッと読んでいった。それまで読書経験がなかったので、入り込めない本も結構あって、その中でも対話篇が読みやすかったんですね。まあ、ちょっと古い翻訳ではあったんですけど、台詞が論理を積み重ねていくということが、そのとき非常に明快にわかった。その影響もあって、大学は哲学科に行きました。
(『SPT05』pp.150-151.)
「プランクトン」って「プラトン」も入ってる! というのはこじつけだが、観ていて本当に、プラトンを感じるのだ。このあたりがやっぱり何度も見たくなるポイント。老若男女誰でも楽しめるし、私のようなマニアも楽しめるのだ(笑)。
ちょっと4月,5月と個人的に仕事を抱え過ぎてパンクした。それでイキウメ観た時に改めて思ったのだけど、今年はやっぱり観劇数を減らして1つの作品をじっくり観ることにする。イキウメを観る場合は、プラトンを読んだりしながら楽しもうと思う。
「プラトンなんか興味ない!」という人も楽しめるので、ぜひぜひ!23日までやっってますよ!!!
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