音楽と社会フォーラムのブログ

政治経済学・経済史学会の常設専門部会「音楽と社会フォーラム」の公式ブログです。

第9回研究会が開催されました!

朝晩はすっかり涼しくなりました今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。音楽と社会フォーラム事務局です。

 
 今回は、9月23日に開催された、本フォーラムの第9回研究会の参加記を掲載させていただきます。今回の参加記は、左近幸村さん(日本学術振興会)が執筆してくださいました。簡潔かつ読み応え充分な内容となっております。左近さん、ありがとうございました。また参加者のみなさま、お疲れ様でした。

 

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                 第9回研究会の開催

 2013年9月23日、京都大学稲盛財団記念会館において合同ワークショップ「中央ヨーロッパ音楽の比較研究に向けて―集合的記憶としての国民音楽―」が開催されました。出席者は29名でした。本ワークショップは、音楽と社会フォーラム初の関西における研究会であると当時に、京都大学地域研究統合情報センターの共同研究・共同利用プロジェクト複合ユニット「非文字資料の共有化と研究利用」および同個別ユニット「集合的記憶と中東欧地域の音楽:比較研究に向けてのデータベース構築」の中間報告の場でもありました。そのため、ユニット「集合的記憶と中東欧地域の音楽」のメンバーである報告者5名には、同ユニットの目標である音楽のデータベース構築に向けての見通しを述べることも求められました(地域研究統合情報センターが構築しているデータベース群については、次のサイトをご覧くださいhttp://www.cias.kyoto-u.ac.jp/database/)。
 まずユニット代表の福田宏氏(京都大学)より、いわゆる「国民楽派」が強いとされる中東欧地域に着目することにより、ナショナリズムと音楽が密接に結びつく過程を批判的に検討すること、そのため「国民楽派」というイデオロギー色のついた言葉ではなく、「国民音楽」という言葉を用い「国民歌」に着目するといった、プロジェクトの狙いが説明されました。次に比較のために用いることが可能なデータベース(http://songle.jp/http://prague.cardiff.ac.uk/)が紹介され、最後は福田氏の専門である19世紀チェコにおける国民音楽の展開過程が述べられました。
 2番目の報告者池田あいの氏(京都大学)の報告は、カフカを音楽と関連から論じたユニークな自著『カフカと<民族>音楽』(水声社、2012年)でも大きく取り上げたカフカの友人マックス・ブロートに着目し、彼が1939年のイスラエル移住後、チェコ音楽をモデルとしつつイスラエルの国民音楽を創造しようとした過程を詳しく紹介しました。
 3番目の神竹喜重子氏(一橋大学大学院)は、建国後20年間は「過去のもの」として国歌を持とうとしなかったソ連が、独ソ戦の最中に方針を転換し、1944年1月1日に国歌を発表する過程を報告しました。報告では、ソ連国歌(曲自体は現在も使用)の一部がプッチーニの「蝶々夫人」や「トゥーランドット」に似ているという指摘もなされ、聞き比べも行われました。
 休息の後、4番目の報告者岡本佳子氏(東京大学大学院)は、1911年のバルトークに着目し、まず同年の雑誌での活動から、バルトークが、ハンガリー音楽はこれまで存在したことがなく創造されなければならないと認識していたことを指摘し、続いて同じ年に書かれた彼の唯一のオペラ「青ひげ公の城」において、リズムとアクセントがどのように結びついているかが分析されました。
最後の報告者中村真氏(大阪大学)が着目したのは、チェコの作曲家ヴィーチェスラフ・ノヴァーク(1870-1949年)です。ノヴァークによる民謡の歌詞を用いた作品と民謡編曲が検討の俎上に載せられ、19世紀後半の「国民音楽」の方法と、第一次世界大戦後の前衛的な音楽を結ぶ「ミッシング・リング」としてのノヴァークの意義が強調されました。

 その後、2名の討論者がコメントを述べました。まず左近幸村氏(日本学術振興会)が、中東欧各国で進むデータベース構築自体が一種の国家プロジェクトではないか、比較を行う際、国を跨いで存在するユダヤ・ファクターをどう位置づけるのか、歌に着目する場合オペラの地位をどのように考えるのか、といった問題を提起しました。続いて小野塚知二氏(東京大学)が、改めて「国民音楽」の定義を問うた上で、社会主義のインターナショナルの活動を例に、音楽の国民化と国際化の語法が実は同じではないかということを指摘し、楽譜の分析から似ている/似ていないを判定できるデータベースが必要とされているのではないか、ということを述べられました。

 報告内容が盛り沢山だったこともあり、その後の討論もデータベースの可能性や個々の報告内容をめぐって大きな盛り上がりを見せました。今回の前半の3報告は、2013年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会(下関市立大学、10月19日)のパネル・ディスカッション①として再度報告されます。今回の議論を踏まえさらに刺激的な報告がなされることでしょう(大会のプログラム:http://seikeisi.ssoj.info/Annual_Meeting13_program.pdf)。

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