激指5の評価

多種のコンテンツがある将棋タウンの中でも、将棋ソフトレビューは特に評価の高いページの一つです。最近は古書販売サイト開設などもあって多忙のため更新が少なくなっていましたが、そんな中でも激指5の検証、それにBonanzaとの比較をされています。

これからのソフトで強さを評価するときに難しくなるのが、従来のアマ○段という基準での評価ができなくなってくることが挙げられます。そのソフトを上回る実力がないと強さを客観的に見られないでしょうから、ソフト同士を対戦させて比較するという手法は今後ますます重要になってくるかもしれません。

強さとは別に、激指5で注目されるのが「ストーリーモード」。「物語の主人公になって、対局していくモードです。登場人物と対局して勝利する、もしくは詰将棋次の一手を解くことによって、話しが進みます」というものです。

現在の主な将棋ソフトは強さという点ではすでにほとんどの人にとって十分な水準に達しており、他の製品との差別化のためには今後将棋の実力以外の要素が求められることになると思われます。激指は将棋以外のゲームという要素を取り入れてきたわけですね。今回は成功とまでは言えないとしても、将棋でない普通のゲームソフトを開発した経験のある人が参加してうまくコラボレートできれば、全く新しいコンセプトの将棋ソフトになるのではないかと期待できそうです。これからは、将棋ソフトの強さだけではない、ゲーム制作会社という組織としての実力が問われるようになると思います。

余談ですが、ゲーム画面の背景が実際の将棋道場の写真を加工したものになっていますけど、前景の絵が若い女性なのに背景にいる人が明らかに年のいった男性ばかりというのが、物語世界と現実との相違を示しているようでもの悲しいですね。

山崎隆之六段の連勝がストップ

21日に行われた王位戦予選決勝の山崎隆之六段対藤原直哉六段の対局は藤原六段の勝ちでした。これで山崎六段の連勝は15でストップとなりました。これで今年度の連勝記録は山崎六段と村田智弘四段が並びました。現在これを追うのは羽生善治四冠の10連勝ですが、これから佐藤康光棋聖との王将戦七番勝負があるのでそこでずっと連勝を継続するのは難しいでしょう。

それよりも、現在8連勝中で「連勝賞が二人というのは変なので、僕が抜いちゃおうと思います」という宣言が飛び出した渡辺明竜王が期待できそうです。棋士別成績一覧渡辺明竜王のページによると、最近25戦の成績が23勝2敗となっています。

棋士のイメージ

阿部隆強気応援サイト質問色々 奥様編が面白かったです。本人公認の応援サイトでインタビューを載せるのはよく行われていますが、家族にもインタビューする企画は珍しいです。

Q4 八段と会うまでに「将棋」を知ってましたか?
はい。知ってました。父と兄がよく指していましたから。
 Q5 八段と会うまでに「プロ棋士」の存在を知ってましたか?
はい。羽生さんが公文式のCMをされていましたから。
 Q6 将棋が新聞に載っているのを知っていましたか?
いいえ。知りませんでした。(笑)
 Q7 八段がプロ棋士と聞いたときはどう思いました?
紹介された時に聞いていましたが、プロ棋士のイメージは何だか「オタク」っぽかったのですが、主人は元気で明るかったです。(笑)

こういう認識の人は多いでしょう(もっとも、将棋欄を読まないのではなく存在自体を知らないというのは単に新聞をあまり読んでいないだけかもしれませんが、新聞業界への依存度の高い将棋界という意味で別の問題になりそうです)。明るい性格の棋士も多いですけど、対局のときに将棋盤の前で躍動感を演出するのも無理でしょうから、そういうイメージになりがちなんでしょうね。

振り込まない通知

日本将棋連盟経理部から藤田麻衣子女流1級に届いた12月20日付の「手当・対局料振込み御通知」の写真。笑うところではないのですが、思わず笑ってしまいました。

羽生善治四冠の本を読んで精神鍛錬

ヤクルトスワローズ藤井秀悟投手が羽生善治四冠などの本を読んで精神面の強化を図っているそうです。

課題とされるメンタル面強化に積極的に取り入れているのが読書だ。これまでは「断然コミック党」(藤井)だったが、将棋の羽生善治四冠の著書に挑戦。強じんな精神力が求められる世界の第一線に身を置く羽生氏から精神論を学んでいる。「いろんな人の経験を吸収して大事な試合で生かしてみせる」と意欲的だった。

本を読んだだけでは限度があるでしょうけども、本を読んだことのない人にとっては目新しくて役に立ちそうなことがいろいろ書いてあると思います。

将棋の古典を扱うブログ

古典将棋について詳しい方のようです。こういう情報を扱うウェブログはあまり見かけないので貴重な存在だと思います。

Yahoo!ブログはなぜか検索にかかりにくく、また大したことを書いていないページが多いイメージがあったのであまり調べていなかったのですが、ユーザ数は多いためこういう良質なブログもあるのですね。

軍人将棋の千日手

もう一つYahoo!ブログから。

軍人将棋は詳しくありませんが、千日手について書かれていることはおおむね同感です。

瀬川ブームの終焉

盛り上がっているときに「○○の終焉」とか「○○は終わった」とかいうタイトルで何かを書くと、通っぽく見えるというメソッド(笑)を使ってみました。まあ、すでに話題のピークを過ぎていることは誰の目にも明らかなので、断言のインパクトという意味ではすでに遅きに失していると言うべきかもしれません。

こんなことを書いてみたくなったのは僕は僕なりのの次のような感想を見たからです。

いい加減,瀬川さんばかりの露出は飽きてきました.

私も瀬川晶司四段の記事を追いかけてきたので、奨励会を退会して一度将棋はやめたけど……とか、将棋の楽しさを思い出して強気な手を指せるように……とかいう話はもう聞き飽きたという気持ちはあります。ただ、将棋関係以外のメディアが注目したのは、瀬川四段のチャレンジ精神であって将棋ではなかったと思います。つまり瀬川ブームであっても将棋ブームではなかったということです。そう考えると、瀬川四段の出番は他の棋士では替わりが勤まらないのでしょう。

とはいえ、瀬川四段がプロ初勝利を挙げ、そろそろブームは収まる頃合いになってきています。正直なところ、瀬川四段の本が日本将棋連盟から発売される1月中旬という時期ですら、遅いのではないかという気がしています。

ブームといえば、神崎健二七段も言及していました。

このコラムは週刊将棋12月21日号に掲載されたもので、「ブームは危険 にがい歴史を思い出し地に足着いた施策を」という見出しが付いています。「にがい歴史」というのは1996年の羽生七冠独占の際の次のようなこと。

こんな光景、96年にも経験した。羽生善治七冠フィーバーだ。あの時もひどかった。「ハニュウ・ゼンジって強いよな」。知り合いの話に「はっ?」。以来、その人とは将棋の話はしていない。あるテレビ局のワイドショーでは棋士を「ギシ」、将棋を指すを「打つ」とゲストが言い続けても訂正もなかった。

羽生さんがその年の夏に棋聖戦の防衛に失敗して七冠の座を明け渡すと、波が引くようにフィーバーは去った。

七冠の時期は将棋雑誌を買ったりしていなかったのでその頃の状況はよく知りませんが、持続したらそれはフィーバーではないわけです。波が引くことよりも、波が引いた後に何が残ったのか(それとも何も残らなかったのか)を知りたかったところです。

今回の瀬川ブームでは、知名度の高い棋士が一人誕生したという成果があります。それ以外には、将棋世界を読む人が増えたり、3500円の入場料を取って公開対局をしても人を集められることがわかったりということもありました。

瀬川四段を通じて多少なりとも将棋に興味を持った人をさらに将棋に引き込んで将棋人口を増やすなど、それ以上の成果を求めるなら、見出しで言うところの「地に足着いた施策」が必要になるということでしょう。その中身は今回のコラムには書かれていなかったので、次回待ちというところです。誰でもはじめは将棋に関する知識はありませんから、外から来た人を鷹揚に迎え入れる土壌がないとなかなか将棋を指す人は増えないでしょうね。

瀬川四段が特別扱いをされているとしたら、それは瀬川四段が将棋界にとって特別な人だからでしょう。そうでなくなれば自然と普通の扱いになるはずです。月並みですがそんなことを思いました。

もっとも、「ファンの喜ぶ顔がみたい」という発想を元に考えると、署名入りの扇子はほしい人がいるなら下位の棋士でもどんどん作ったらいいと思います。直筆サイン色紙みたいなものは下位の棋士でも書きますし、著書のサイン本もそうですので、扇子だけはファンがほしがっても書かないというのは変な話かと。

最後になりましたが、20日発売のサンデー毎日2006年1月1日号のグラビアページに「白星デビュー−将棋プロ編入の瀬川四段」という記事が掲載されています。

千日手規定見直しの提案への意見

週刊将棋12月14日付の「今、将棋界に必要なもの」のコラムで千日手規定見直しの提案が行われています。

はじめに以前からの私の考えを述べておくと、私は加藤一二三九段の意見に賛成の立場で、千日手は将棋の本質に関わると思っています。ですから、ルールの小手先の変更で千日手を取り除くのは困難と考えますし、対局の結果が千日手だったからといって直ちにその棋譜の価値が損なわれるとは思いません。そういう立場からの意見であることを前提にお読み下さい。

提案の中身に入る前に一つ気になったのですが、

かつては先手が手を変えなくてはいけない、とされていたとも聞き及ぶ。

というのは本当の話でしょうか。私の聞いた話では「攻めている方が手を変えなくてはいけない」だったと思うのですが、それとは別のルールで指されていた時期があったのでしょうか。

さて、このコラムでの提案は2つあるようです。一つは千日手になったときに「先後は変えないで指し直すべきだと思う。そうすれば千日手を狙って次は先手で勝負しようというケースは減るはずである」という提案。現在は千日手になるとそれまで後手で指していた棋士が先手番を持てることになるので、千日手は後手の成功とされています。これを変更して手番を変えないことにすれば、後手が積極的に千日手を狙うことは減ることになります。ただ、そのかわりに先手が千日手を避けることも不要になるので、全体として千日手が増えるか減るかはわかりません。個人的には変わらないと予想します。ただ、それ以外の部分でどんな影響が出るかは考えてみる価値はあるような気がします。

コラムには「(手番を)なぜ変えるのだろうか。浅学非才で知らない。」と書いているのですが、一般には手番を変えることにより後手の不利を和らげる役割を持たせたと理解されているような気がします。しかしこれが歴史的に正しいのかどうかは、私にとっては興味深いのですが残念ながら知りません。記者として関係者に質問したり様々な資料に触れたりできるのですから、調べて書いてくれたらよかったのにと思いました。

もう一つの提案は次のようなものです。

囲碁界には「コウ」というルールがある。同形反復の禁止である。ならば将棋界も、たとえば4度繰り返すと成立する千日手の、まさに成立直前の一手は手を変えなければ負け、くらいにルール改正をすべきだと思うがどうだろう。

「コウ」は囲碁の同形反復の中で最も単純な形で、2手一組で元の局面に復帰します*1。それが続くと困るので、囲碁ではコウの形になったときにその直後の手で取り返すことが禁手とされています。コウになったらその直後の手で取り返すことのないように、他の部分で相手が手抜きできない手(コウダテ)を打ってから取り返すことになります。これを将棋に適用しようというのが上記提案です。

私はこの提案に明確に反対です。このようなルールでは千日手判定が煩雑になるだけでなく、玉を詰ますという争いとは別の次元の争いを生み出すためです。

囲碁の同形反復のほとんどはコウで、それよりも複雑な繰り返し手順(三コウ、長生など)は実戦ではめったに出現しません*2。これに対し、将棋の千日手では最短の繰り返し手順でも4手一組。それに多くの場合は可能な繰り返しは1通りではありません。それだけ同一局面が出てきたかどうかをとっさに判断することが困難になります。囲碁で思わずコウを取り返してしまって反則負けする棋士はときどき見られますので、将棋では同じことがさらに高い頻度で起こることになるだろうと思います。

もう一つの問題は、「コウダテ」を打っていくのに類似した争いが、将棋で玉に迫るという概念とはだいぶ毛色が異なっているということがあります。できるだけ話を単純化するために部分図を作ってみました。

後手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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・ と と と ・ ・ ・ ・ ・
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歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 金v圭v歩 ・ ・ ・ ・ ・
玉 桂v金 ・ ・ ・ ・ ・ ・
                                                        • +
先手の持駒:金  手数=1 △7八桂成 まで 先手番

今、後手が△7八桂成 と桂を成ったところです。この手は△8八成桂 以下の詰めろですから受ける必要がありますが、この局面で先手の受けは▲7八同金 しかありません。

後手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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・ と と と ・ ・ ・ ・ ・
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歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 ・ 金v歩 ・ ・ ・ ・ ・
玉 桂v金 ・ ・ ・ ・ ・ ・
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先手の持駒:金 桂  手数=2 ▲7八同金 まで 後手番

後手玉は受けのない2手すきなので、後手は先手玉に詰めろの連続で迫らなければなりません。そう考えると先手も後手も指せる手は限られており、普通のルールであれば以下のように進展し、上記の局面が4度登場することになります。

△同 金   ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 △同 金   ▲8八金
△7九金打 ▲7八金 △同 金   ▲8八金 △7九金打 ▲7八金
まで14手で千日手

これで千日手になるのが現在のルールでの結論です。ところが、提案にあるルールではこれでは先手負けですので、先手は手を変えなくてはなりません。そこで、▲8八金 と受けるところで、一度▲8三桂 と王手をしてみます。これに対して後手は△8一玉と逃げるしかありません。

後手の持駒:金 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
・v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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・ 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ と と と ・ ・ ・ ・ ・
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歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 ・v金v歩 ・ ・ ・ ・ ・
玉 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
                                                        • +
先手の持駒:金  手数=5 △8一玉 まで 先手番

ここから先ほどと同じように進めると、今度はこの局面が最初に4度目となる同一局面になります。

▲8八金 △7九金打 ▲7八金 △同 金   ▲8八金 △7九金打
▲7八金 △同 金   ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 △同 金
まで17手で千日手

提案のルールでは、今度は後手の負けとなっています。しかし、後手は手を変える余地がありませんので、結局先手の勝ちとなります。つまり、桂による王手が「コウダテ」の役割を果たしたことになります。

これは非常に単純な例でした。このルールが導入されると、この程度の図は見た瞬間に先手勝ちと判断できなければならないわけです。駒数が増えてもっと複雑な局面になれば、「コウダテ」がどちらに多いかを判断する必要がありますし、どの局面で同一局面になるかも一瞬で判断できる必要があります。例えば、相手の馬で自分の飛を追いかける展開になったときに、このルールの下ではどこに逃げるべきかを決めるのは容易ではありません。パズルとしては面白いのですが、これは果たして将棋でしょうか。私は違うと思います。

最後に上の例で使った部分図の棋譜の全体を付けておきます。

後手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ と と と ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
歩 ・ ・v桂 ・ ・ ・ ・ ・
香 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・
香 金 ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・
玉 桂v金 ・ ・ ・ ・ ・ ・
                                                        • +
先手の持駒:金  後手番 △7八桂成 ▲同 金 △同 金 ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 *2度目の同一局面。 △同 金 ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 *3度目。 △同 金 ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 まで14手で千日手 変化:4手 ▲8三桂 △8一玉 ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 △同 金 *今度はこれが2度目の同一局面。 ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 △同 金 *3度目。 ▲8八金 △7九金打 ▲7八金 △同 金 まで17手で千日手

*1:ご存じない方はコウ - Wikipediaをどうぞ。

*2:具体的な数字は知りませんが、プロの対局の0.1%未満のはずです。