ヴァン・ダインの児童書


 ヴァン・ダインの児童書について、調べると、以下のようになった。

  1. 巨竜プールの怪事件 朝島靖之助=訳/小松崎茂=絵 講談社/少年少女世界探偵小説全集6(1957-09)
  2. 名犬テリヤの秘密 朝島靖之助=訳/中島靖侃=絵 講談社/少年少女世界探偵小説全集21 1958-09
  3. エジプト王ののろい・スコッチ・テリアのなぞ 伊藤富造=訳/黒田征太郎 あかね書房/少年少女世界推理文学全集13(1964-12)
  4. 呪われた家の秘密 榎林哲=訳/山本耀也=絵 偕成社/世界科学・探偵小説全集23(1966-06)
  5. 姿なき殺人鬼 中尾明=訳/岩淵慶造=絵 集英社/ジュニア版世界の推理14(1972-02)
  6. グリーン家殺人事件 中島河太郎=訳/斎藤寿夫=絵 秋田書店/世界の名作推理全集(1973-12)
  7. 恐竜殺人事件 氷川瓏=訳/柳瀬茂=絵 ポプラ社/世界名探偵シリーズ(1973-12)
  8. ドラゴンプールの怪事件 白木茂=訳/横山まさみち=絵 あかね書房/推理・探偵傑作シリ−ズ14(1974-03)
  9. かぶと虫事件の怪 中尾明=訳/楢喜八=絵 岩崎書店/世界の名探偵物語19(1976-04)
  10. グリーン家殺人事件 佐藤佐智子=訳 春陽堂書店春陽堂少年少女文庫/推理名作シリ−ズ(1979-12)
  11. グリーン家殺人事件 中島河太郎=訳/ 秋田書店/ジュニア版世界の名作推理全集8(1983-01-15)
  12. かぶと虫事件の怪 中尾明=訳/楢喜八=絵 岩崎書店/名探偵・なぞをとく19(1985-01-20)
  13. 殺人は歌ではじまる 浜野サトル=文/品川るみ=絵 ポプラ社ポプラ社文庫 怪奇・推理シリ−ズ(1986-08)
  14. グリーン家連続殺人事件 榎林哲=文/小倉正子=絵 ポプラ社ポプラ社文庫 怪奇・推理シリ−ズ(1987-07)


 上記のうち、11は6の、12は9の改訂版であり、内容は同一と思われる。

 ほとんどが探偵小説の大系的叢書に収録されたものだ。1980年代までは、このようなミステリの歴史的名作が読める大系全集が、児童書でもたびたび企画されていた。いわゆる「世界名作全集」のミステリ版である。しかし、1980年代以降、一般向けの大系全集がなくなったのと同じに、児童書の分野でも、こうした全集は見られなくなってしまった。同一作家のシリーズ企画は、ドイル、ルブラン、クリスティー以外はむずかしく、単発のものでもヴァン・ダインまではなかなか顧みられないようだ。その中では、1980年代のポプラ社《怪奇・推理シリ−ズ》が健闘しているといえるかもしれない。

 ところで、こうして並べてみると、やはり『グリーン家』が最も人気があると、あらためて感じさせる。『グリーン家』に基づいた4・5も含め、内容が同一の改訂版を整理しても、計5回もリライトされている。対して、『僧正』は、「殺人は歌ではじまる」という題名の一冊きり。これは、殺人犯のキャラクターが、子供には理解しがたいと思われたのだろうか。逆に、設定が派手な『ドラゴン』は3回と案外人気がある。『ケンネル』と『甲虫』はどちらも2回のお目見えだ。その他の作品は、児童向けでは一回も出ていない。

 さて、近くの図書館に、岩崎書店の《名探偵・なぞをとく』シリーズの『かぶと虫事件の怪』があったので、借りてきて読んだ。表紙の画像はこの通り。楢喜八のファイロ・ヴァンス(作中では「ファイロ・バンス」と表記)は、好青年に描かれている。後ろに見えているのは、マーカム検事とヒース部長だ。この二人も味がある。

 目次のページがこれ。

 謎解き三人組対容疑者グループで対峙しているレイアウトがうれしい。

 目次構成を見て、創元推理文庫版の章立てと比べてみれば分かるだろうが、ほぼ原作どおりにきちんと再現されている。書き出しはこうなっている。

 まず、わたしのあいさつから、はじめよう。わたしは弁護士のバン・ダインだ。アメリカの大都会ニューヨークにすみ、親友のファイロ・バンスの法律顧問をつとめている。

 バンスは、親の遺産をたっぷりうけつぎ、ぶらぶらとあそんでくらせる、けっこうな身分だった。美術と文学にくわしく、また名探偵としても、よく知られている。これまでに、ニューヨーク市マーカム地方検事や、ニューヨーク市警察のヒース巡査部長に協力し、かずかずの、むずかしい殺人事件を、かいけつしてきた。

 短い文章で、的確に「わたし」とバンス、それにマーカムやヒースを紹介している。中尾明は、いい仕事をしている。