河合隼雄
『産経抄』より。
→ http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/sankeisho/070721/sks070721000.htm
亡くなった河合隼雄さんは60歳を過ぎてから「源氏物語」を通読している。若い時にも一度挑戦しながらよく理解できず挫折した。しかし大学の客員研究員として米国に2カ月滞在したのを機に再挑戦、一気にこの長編を読み切ったそうだ。
▼河合さんは言うまでもなく、臨床心理学の第一人者だった。だが、専門外のことでも博覧強記で知られていた。特に「源氏物語」をはじめ「とりかへばや物語」「落窪物語」「浜松中納言物語」など日本の物語への造詣は深かった。晩年は「物語博士」の趣さえあった。
▼なぜ物語なのかは著書『物語を生きる』(小学館)で述べている。河合さんらの心理療法は、対象者に症状を自分の物語に組み込み、語ってもらわねばならない。それぞれの物語を後押しすることが大切だ。それにはこちらも、さまざまな物語を知っている必要があるという。
▼そのうえで、「源氏物語」を「紫マンダラ」と分析している。この物語、実は作者の紫式部自身を描いたものだと。母、娘、妻とすべての体験をもったであろう彼女が光源氏という男性像を中心に据え、それとの関連で自らの「世界」を提示した物語だというのだ。
▼ちょうど、密教で宇宙の真理を描くマンダラの絵のようだというわけである。ここでは光源氏は現実味の薄い「最高の便利屋」みたいな存在である。「源氏」を理想的なプレイボーイの小説と読んできた者には、実に新鮮で「目からウロコ」の思いがした。
▼あたかも来年は「源氏物語千年紀」である。国際的なシンポジウムが予定され、通読しようという人も増えているという。俗に言えば「源氏ブーム」である。そんな意味でも、河合さんを失ったことは、痛恨のきわみとしか言いようがない。
「元文化庁長官の河合隼雄さん死去」(朝日新聞)
→ http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200707190396.html
「臨床心理学の第一人者、元文化庁長官の河合隼雄さんが死去」(読売新聞)
→ http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070719i311.htm
「河合隼雄さん、日本文化に心血 あふれるユーモア、庶民派」(産経新聞)
→ http://www.sankei.co.jp/culture/bunka/070720/bnk070720001.htm
『河合隼雄 - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E5%90%88%E9%9A%BC%E9%9B%84
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