最近また活発に更新されるようになってきてうれしい限りのトラカレ…じゃなかった、名前変わったんですよね。で、そのトラカレに、じゃなかった…いやもうトラカレでいいや。とにかくこんなことが書いてありました。
最初、メディア論バトンだと見間違えて、「○○的転回という言葉を作りたがる人をどう思うか」「メディアは××である、をもじって意味深な感じにボケろ」とか答えさせるのかと思った。(強調引用者)
メディア・バトンをいただいた。 - 荻上式BLOG
これを読んでいて○○的転回という言葉が妙に気になったんです。
ここで質問です。○○的転回という言葉で何が浮かびますか?
私が最初に思い浮かべるのはコペルニクス的転回です。大体の人はそうじゃないでしょうか。あと言語論的転回(linguistic turn)なんかも一部業界では有名かもしれません。
とりあえず有名どころはこの二つでしょうけど、アマゾンで「的転回」で検索すると、いろんなものが転回しているのが分かります。
うーん、確かに○○的転回という言葉は氾濫しているようです。だからこそchikiさんは「○○的転回という言葉を作りたがる人をどう思うか」なんて聞かれるかもしれないと思ったわけで。
そもそも○○的転回の根っこにあると思われるコペルニクス的転回という言葉からして、日本語では多用される傾向にあるようです。
たとえば、コペルニクス的転回でグーグル検索をかけると5万件以上ヒットします。本家本元のドイツ(後述)にも負けないくらいの数です。
また、コペルニクス的転回は新聞の社説にも現れます。1989年5月13日付けの朝日新聞社説には次のようにあります。
リクルート事件で退陣する竹下首相の後継として自民党総裁に就任するよう要請されていた伊東総務会長が、最終的に断った。
(中略)
そして〔伊東氏は〕(1)党幹部、内閣への思い切った若手の登用(2)派閥の解消(3)リクルート事件に関与した党幹部らの議員辞職などによる総退陣、の実行を求めた。
(中略)
自民党が伊東氏の3項目をのめなかった事情ははっきりしている。派閥体質が骨の髄まで染み込んだ現在の自民党にとって、これは男に「女になれ」というに等しい。コペルニクス的転回に当たるからだ。(強調引用者)
…。いや、と、とにかくコペルニクス転回という言葉が使われていることだけは確かです。
というわけでコペルニクス的転回、相当広範囲に使われているみたいなのです。
で、ここで問題です。このコペルニクス的転回って言葉、そもそも誰が最初に使いはじめたのですか?
まずは定番のWikipediaから。
コペルニクス的転回(-てきてんかい Kopernikanische Wende)とは、哲学者のイマヌエル・カントが自らの哲学を評した言葉。
人間の認識は外部にある対象を受け入れるものだという従来の哲学の常識に対し、カントは人間は物自体を認識することはできず、人間の認識が現象を構成するのだと説いた。人間の認識自体を問う近代的な認識論が成立した。
比喩的に、物事の見方が180度変わってしまうような場合にも使われる。(パラダイム転換と同じような意味)
コペルニクス的転回 - Wikipedia
この項目の執筆者はカントが「コペルニクス的転回」という言葉を用いたと考えているようです。
ええ、確かにドイツ語のKopernikanische Wendeで検索するとたくさん出てきます。
Kopernikanische Wende | 82,500件 |
---|---|
(参考)コペルニクス的転回 | 51,400件 |
でもカントの『純粋理性批判』にはコペルニクス的転回なんて言葉は出てきません。同書でコペルニクスは都合3回登場しますけど、そのどこにもコペルニクス的転回という言葉はありません。
で、同じWikipediaでもドイツ語版は正確な記述をしています。
Seit der Antike diskutieren Philosophen das Verhältnis von Gegenstand und Erkenntnis. Doch ihre Antworten mündeten stets in Aporien […]. Kant nimmt sich der Frage erneut an und kommt zu einer Antwort, die oft als „kopernikanische Wende“ bezeichnet wird.
Kritik der reinen Vernunft – Wikipedia
〔古代以来哲学者たちは対象と認識の関係について議論してきた。しかし彼らの答えはいつもアポリアに陥った(中略)。カントはこの問題を再度取り上げ、一つの答えに到達した。この答えはしばしば「コペルニクス的転回」と言われる。〕
要するに、カント自身はコペルニクス的転回という言葉は使っていないわけです。
え、じゃあ誰がコペルニクス的転回って言いはじめたの?
うーん。これが分かりません。カント以後の誰かが『純粋理性批判』を解説するために使いはじめたのだとは思います。でも誰が最初かというとさっぱりです。もっと詳しく調べれば分かるのかもしれませんけど、今の私の調査力ではここで打ち止めです。
というわけなので、これから○○的転回という言葉を作るときには、その根っこにあるコペルニクス的転回の起源を確かめてからにしてください。
いや、それは冗談にしても、ほんとこの言葉どこから来たんでしょうね?知っている人がいたらよろしくなのです。
謝辞
本記事執筆に際してはid:kamo_negitoroさんに協力してもらいました。感謝感謝です