アルックス・ロス『20世紀を語る音楽」(1)

アレックス・ロス『20世紀を語る音楽』(Ⅰ)

音楽の20世紀史だが、政治・社会のかかわりも書かれ面白い。ロスは調性音楽と非調性音楽を縦軸に、前衛音楽と大衆音楽を横軸にし、ヨーロッパからアメリカ、ロシアの広い地域まで描き、さらに20世紀の特徴であるラジオ、電気録音、レコード、マイクロフォンなども視野に入れている。(Ⅰ)では1900年から1945年まで扱っている。20世紀の音楽はシュトラウスマーラーから始まっている。シュトラウスサロメ」とマーラー「第六交響楽交響曲」の対比からこの本は始まる。第二章のトーマス・マンファウスト博士』に則ってロスはシェーンベルグとドビュシーをロスは描き、無調音楽がいかに生まれたかを説明している。ワグナーもシュトラウスマーラーもドビュシーも不協和音と協和音は共存してきたが、なぜシェーンベルグで「調性は死んだ」のかが、その弟子ウェーベルンベルグの「無」への欲望とともに語られている。
ストラビンスキーの不安とジャズの関係とともに、「多調性」「多旋律性」の民俗音楽採取のバルトーク、ヤーチェク、ラヴェルが一緒に、スタイルの政治学として論じられるのも興味深い。ロスの本の特徴はアイビスやエリントンさらにガーシュインコープランドアメリカ作曲家と作品に重きを置き論じていることだ。「ショーボート」から「ボギーとベス」「アパラチアの春」はオペラ並みに分析される。また第五章「森から現れる霊」でシベリウスの孤独が、第六章で1920年代ワイマールのベルリンのクルト・ヴァイス「三文オペラ」、ベルグヴォツェック」「ルル」が語られる。
私が興味をもつたのは、30年代スターリン時代の「恐怖の芸術」の章でショスタコビッチとプロコイエフを対比的に論じた点である。20世紀音楽は、戦争と全体主義など政治と切り離されないことがよくわかる。(みすず書房柿沼敏江訳)