DER SPIEGEL 1979年1月29日号

 
出版物ネタですが、こんどは読めもしないドイツ語です。デア・シュピーゲルといえば、米国のタイムやライフにも匹敵するメジャーな雑誌。これの1979年第5号(1月29日付)の表紙はごらんの通り、親衛隊の制服を着たマイケル・モリアーティの大写しです。

http://www.spiegel.de/spiegel/print/index-1979-5.html

キャプションには“ユダヤ人殺害に揺れるドイツ”とあります。前年にアメリカで大反響を呼んだドラマ『ホロコースト』が1月にドイツでも放映され、国内でさまざまな反応があったことを描いた特集なのです。

このドラマの主役はフリッツ・ウィーバー演じるユダヤ人のワイス医師のはずですが、後ろに小さく映っているだけ。この差が興味深いです。ドイツ人にとっての主な関心はやはりエリック・ドルフに代表される自国政府であったことがうかがえます。戦後34年、今の半分しか経っていない時代に、この表紙は今見るよりずっとインパクトがあったのではないかと思います。


私はドイツ語読めないので、シュピーゲルのこの号のことも実は知りませんでした。先週あたりのこと、モリアーティ氏の投稿に画像が貼ってあったことが発端です。投稿内容は例によってウクライナでのユダヤ人攻撃からオバマプーチン第三帝国がなんたらでしたが、画像はシュピーゲルの表紙だとわかったので公式サイトへ探しに行って見つけたものです。

ライフと同じくバックナンバーを手に入れようかとも思ったのですが、読めなきゃ持っててもしょうがないし(笑) そのかわり記事が全文オンライン化されてるので自動翻訳で英語にして読んでみました。

それによるとやはり放送時にはドイツ(西ドイツ)全体が大騒ぎだったようです。国を二分する政治問題となり、放送を決めたWDR(西ドイツ放送局)は賛否両論にさらされ、テロリストによる爆破予告を受け、実際に被害にあった局もあった。

放送当日にはたとえば労働組合の会合のような行事はキャンセルされ(どうせ誰もいなくなるから)、一人で観る勇気のない独身者たちのために、グループで視聴する場が大学のキャンパスなどに設けられた。放送後、視聴者からかかった電話の数は3万件、米国NBCによる初放送時の4倍という数字もあります。

このような社会的反響は以前に「視聴率と反響」の項で調べたのとそれほど変わりませんが、ほかにこの重い物語がキャストに与えた影響を描写した部分があって興味を引きました。

悪の主役エリック・ドルフを演じたマイケル・モリアーティは、家族の場面で「聖しこの夜」を歌わなければならなかったとき、非常に辛い思いをしたという。「どうやったらそんなことができるんだ!」と。

イギリス人俳優シリル・シャップス(カール・ワイスと収容所で知り合うワインバーグ役)は、「これ以上続けられない」とマウトハウゼン収容所の撮影現場を去った。*1

ワイス医師役のフリッツ・ウィーバーカトリックとして育ったが、この映画の後は「自分が生まれ変わって、ユダヤ人になったかのように感じる」という。

モリアーティの談話は、「1941年のクリスマス」の場面を指していると思います。ブログで紹介したIMDbのレビューには、彼が「泣いてしまった」となっていました。シュピーゲルの原文は klappte zusammen で、直訳するとどうも意味が通らないのですが、zusammenklappen という動詞に「ぐったりする、衰弱する、卒倒する」という訳があるので上のように解釈しています(ドイツ語が分かる方がいらしたらご教示ください・・・)。

あの場面でのモリアーティのカメラ目線は、やはり「どうやったらそんなことが」という問いかけだったのかと思いました。


と、ここまで先週下書きを書いておりましたら、偶然でしょうが今週になって関連記事が2つ出てきました。ひとつは5月7日付ニューヨーク・タイムズ。ドイツでここ3年、絶滅収容所のもと看守にたいする訴追が相次いでいるが、本人たちはもう80代を超え、時間との戦いになっている、という内容。

(L&O にも似た話、14-18 Evil Breeds「悪の種族」がありました。アウシュビッツの衛星収容所の看守だった男が、ネオナチと協力して証言者の女性を殺害したというもの。ただし私にとっては、あの回はブランチもマッコイも何も考えてないように見える(3-13「夜と霧」で悩むストーンと違って)。そのせいでドラマとしての詰めが甘いと感じられ、苛立たしいエピソードに分類されてます。そのわりには気になって何度も見返すのですが。アダム・シフならばあんな裁判は許さなかったはず・・・・・)

もうひとつがSalonというオンライン雑誌の5月10日付記事で「メリル・ストリープがナチハンターに貢献した理由」というタイトルです*2。NYTの記事に触発され(あるいはモリアーティの記事だったりして)、上記のシュピーゲルをかなりの部分引用してドラマ『ホロコースト』がおよぼした社会的反響について書いています。いやむしろ、シュピーゲルの英訳として読むことができる・・・先週末を自動翻訳の解釈についやした苦労はなんだったのか(笑)
 
 

*1:ポーランドで撮影許可が下りなかったため、アウシュビッツの場面はオーストリアのマウトハウゼンで撮影されたのです

*2:http://www.salon.com/2014/05/09/how_meryl_streep_helped_the_nazi_hunters/