75歳以上の高齢者を対象とした公的医療保険後期高齢者医療制度」が1日から始まる。約1300万人の高齢者が新しい保険に移る大規模な改変となる
保険料は介護保険と同様に個人単位で徴収し、原則、年金から天引きする。厚生労働省によると、全国平均の保険料は1人年約7万2000円。保険料は都道府県単位で高齢者の総医療費などを基に算定され、医療費が高い地域は保険料が高くなる傾向がある。これまでは会社員の子供らが扶養していた約200万人の高齢者は新たに保険料負担が生じるが、半年間の保険料免除など軽減措置がある。新制度について、厚労省は3月に入って、政府広報などで周知した程度で、積極的に広報を展開してこなかった。このため、保険証が届いて初めて制度開始を知る高齢者が多く、市町村などに問い合わせが殺到しているという。同制度は、都道府県ごとの広域連合が運営し、75歳以上の高齢者は、国民健康保険や企業の組合健康保険などから抜けて移行する。新制度に合わせ、慢性疾患の高齢者らが、担当医を決めて継続的に診療を受ける取り組みも始まる。

新年度を迎え今年度から新たに導入される制度や仕組みの一つが,同記事にある後期高齢者医療制度である.恥ずかしながら,公開すると,修士課程の終わりにまとめた小論では,介護保険制度の創設をテーマにしたこともあり,自治行政の観察に大幅にシフトしている現在でも,社会保険制度には,少なからず(自治行政の観点から)関心を持って観察している.
社会保険制度とは,リスクを共同管理するものと定義すれば,「広域化」は近年の(医療)制度再編における一つの潮流といえる.潮流という生やさしいものではなく,(社会保険財政の)リスク管理という観点からは,むしろ「広域化」という制度再編の動向は,いかなる社会保険においても不可逆的な動向と考えられる.後期高齢者医療制度は,高齢者が直面する「保険リスクを広域単位でできる限りすべきである」*1との考え方に基づき,広域化により,特に財政面でのリスクを共同管理する制度として導入された.ただ,保険料のみを見てみると,最も高い県が神奈川県の年額92,750円,最低額が青森県で46,374円となっており,保険料は,所得水準,老人医療費等の高齢者医療リスクに左右されるため,地域間の格差が生じており,財政安定化に結ぶつくのか不安もある.確かに,社会保険制度である以上,保険者「内」での平準化は求められるが,保険者「間」(地域「間」)での平準化は必ずしも予期されるものではない.ただ,保険者「内」の平準化とはいえ,保険財政の安定の面からは,現行の「都道府県単位」を前提とした保険者であることが現実的なものであるかは,疑問もなくはない.ひとえに,保険財政リスクの安定化のためであれば,より広域化をはかる保険者論が理解を得やすいものと考えられる.
例えば,地域ブロック単位への一元化や「国単位」での一元化等はその一つともいえる.これに対して厚生労働省では,社会保険制度では受益と負担の関係が明確であることが重要であり,国に一本化することで受益と負担の関係が見えにくくなることや,国が行うことで医療費適正化や効率的な保険運営に結びつくのかと考えに基づき,「都道府県単位」による保険者を採用した経緯がある*2.また,先の道州制ビジョン懇談会においても,「生活保護、年金、医療保険等のナショナルミニマムならびに警察治安・広域犯罪対策については、十分な議論を行い、基礎自治体と道州が果たすべき役割と、国が責任をもつべき部分を検討する」(17頁)*3との文言に止まり,医療保険に対しては,慎重な姿勢に止まっている.しかし,今後の道州制論議がより具体的なレベルでの審議に進展した場合,現行の「都道府県単位」という区域観(単位観)が,今後も有効な保険者単位であり続けることが確実なものとはならない可能性もないではない.保険者と行政の2つの顔をもつヤーヌスとしての高齢者医療制度については要観察.

*1:社会保障審議会医療保険部会『医療保険制度改革について(意見書)』(平成17年11月30日)5頁。

*2:第24回地方分権改革推進委員会(平成19年10月23日開催)議事要旨、3頁

*3:道州制ビジョン懇談会中間報告』(平成20年3月24日)