選撮見録その18〜大阪地裁判決評釈<暫定版3・完>

大阪地判平成17年10月24日平成17年(ワ)第488号 著作権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/bb65331fa6fb8960492570a50003ebec?OpenDocument

選撮見録裁判判決文の掲載
平成17年(ヨ)第20004号 著作権侵害差止仮処分申立事件
http://www.cyz.co.jp/pdf/2005_20004.pdf[pdfファイル]約17.3 MB
平成17年(ワ)第488号 著作権侵害差止等請求事件
http://www.cyz.co.jp/pdf/2005_488.pdf[pdfファイル]約7.0 MB
http://www.cyz.co.jp/news/2005/20051026_01.html

選撮見録その17〜大阪地裁判決評釈<暫定版2> - 言いたい放題のつづき>

 7 争点(8)(私的使用のための複製の抗弁及び公衆用自動複製機器の再抗弁)について
(1) 前記5の認定に照らせば、被告商品の使用時において、放送に係る音及び影像を複製する主体は、被告商品の設置者であるというべきである。
 これに対し、複製された放送に係る音及び影像の使用者は、ビューワーが設置された居室に居住する集合住宅の入居者であるから、複製の主体とその使用者が異なることになる。
 したがって、著作権法102条1項により準用される同法30条1項本文の、私的使用のための複製の抗弁は、理由がない。
(2) また、その点にかかわらず、被告商品は、複製の機能が自動化されている機器であるから、著作権法30条1項1号にいう自動複製機器であるということができる。そして、前記4(3)のとおり、被告商品の1サーバー当たりの利用者数(これは必ずしもビューワー数と一致しないことは前述のとおりである。)は、同号にいうところの「公衆」にもあたるということができる程度に多数であるというべきである。
 したがって、被告商品の使用時における、放送に係る音及び影像の複製については、著作権法102条1項が準用する同法30条1項1号(公衆用自動複製機器の使用)に該当する。
(3) 以上のとおりであるから、いずれにしても、被告商品の使用時における放送に係る音及び影像の複製は、著作権法102条1項が準用する同法30条1項により、適法となるものではない。

私的複製の抗弁であるが、利用主体性を転換した以上、このような結論になろう。
また仮にそうでなくても、自動複製機器であるから違法ということのようである。
この点についての私見は過去に述べたので、興味のある方は過去の記事を参照していただきたい。
→その2、その4あたり。

 8 原告らが放送事業者の著作隣接権に基づき被告商品の販売差止めを求めることができる地理的範囲と廃棄請求の可否について
(1) 以上の次第で、原告らの請求は、放送事業者としての著作隣接権に基づいて、被告商品の販売の差止めを求める限度で理由がある(廃棄請求については後述する。)。
 ところで、上記のとおり認められる原告らの請求の根拠は、放送事業者としての著作隣接権であるから、被告商品の販売行為を差し止めることができる地理的範囲も、原告らによるテレビ放送が行われている地域、すなわち、原告らが行うテレビ放送を受信することができる地域に限られる。
(2) そこで、原告らの請求が認められる地理的範囲について検討する。
 放送普及基本計画においては、一般放送事業者の地上波テレビ放送の放送系の数は、近畿放送圏(滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県)を放送対象地域とした広域放送系については4と、大阪府を放送対象地域とした県域放送系については1と、それぞれ定められている。そして、甲第2号証の1・3・5及び弁論の全趣旨によれば、原告株式会社毎日放送、原告関西テレビ放送株式会社、原告朝日放送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社は、放送普及基本計画にいう近畿放送圏を放送対象地域とした広域放送系の放送局の設置者、原告テレビ大阪株式会社は、大阪府を放送対象地域とする県域放送系の放送局の設置者であると認められる。
 甲第2号証の1・3によれば、原告株式会社毎日放送及び原告関西テレビ放送株式会社の行う地上波テレビ放送は、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県の全域及び徳島県の東側の一部地域等で受信することができるものと認められる。また、原告朝日放送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社は、原告株式会社毎日放送及び原告関西テレビ放送株式会社と同じく、放送普及基本計画にいう近畿放送圏を放送対象地域とした広域放送系の放送局の設置者であるから、原告朝日放送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社の地上波テレビ放送についても、これと同じ地域で受信することができるものと推認することができる。
 もっとも、上記地域のうち、徳島県の東側の一部地域等の、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県以外の地域については、元来上記原告らの放送対象地域ではなく、証拠上も、その放送を受信することのできる地域は具体的に特定することができない。
 したがって、上記原告ら4社については、その請求を認めることができる地域としては、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県を限度として認めるのが相当である。
(3) これに対し、原告テレビ大阪株式会社については、甲第2号証の5によれば、そのテレビ放送は、大阪府の全域及び兵庫県の東側の一部地域等で受信することができるものと認められる。
 もっとも、上記地域のうち、兵庫県の東側の一部地域等の、大阪府以外の地域については、元来、大阪府を放送対象地域とする県域放送系である上記原告による放送の放送対象地域ではなく、証拠上も、その放送を受信することのできる地域は具体的に特定することができない。
 したがって、上記原告については、その請求を認めることができる地域としては、大阪府を限度として認めるのが相当である。
(4) 以上のとおりであるから、被告に対し、被告商品の販売差止めを請求することのできる地理的範囲は、原告株式会社毎日放送、原告朝日放送株式会社、原告関西テレビ放送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社については、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県の各府県内に、原告テレビ大阪株式会社については、大阪府内に、それぞれ限られるものというべきである。

放送地域ということでいいでしょう。
仮に著作権侵害を主張できていればどうなったのかのは興味深いところで、
もしかしたらこの点に実益があったのかもしれません。

(5) 廃棄請求については、著作隣接権に基づく差止め請求は、上記地域内での被告商品の販売差止めを求める限度で認められ、原告らは、これ以外の地域における被告商品の販売差止めは認められないのであるから、著作権法112条2項に基づき被告物件の廃棄を求める請求は、著作隣接権の侵害の停止又は予防に必要な措置として認められる範囲を越えるものであるから、廃棄請求はこの点においても理由がない。

上記の点はこの点にも多少は影響しているのだろうか。

 9 結論
 以上のとおりであるから、原告らの請求のうち、著作権に基づく請求はいずれも理由がなく、著作隣接権に基づく請求は、主文掲記の各原告の放送地域の範囲内での被告商品の販売差止めを求める限度で理由がある。
 なお、仮執行の宣言は、相当でないからこれを付さない。
 よって、主文のとおり判決する。


      大阪地方裁判所第26民事部

           裁判長裁判官     山  田  知  司

              裁判官     高  松  宏  之

              裁判官     守  山  修  生


(別紙) 物件目録

 1.商品の名称  選撮見録
 2.商品の種類  集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム
                                     以 上

これが判決の結論である。
仮執行の宣言(民事訴訟法259条)は付されていないが、
同時になされた仮処分申請で1000万円の供託を条件に保全執行(民事執行法43条)が認められている。
両者の相違は、仮執行の宣言の付された判決は債務名義となり強制執行民事執行法22条2号)であるのに対し、
保全執行は、保全命令の正本に基づいてなされる債務保全手続きであるということか。

 9 争点(10)(保全の必要性)について
 <証拠>によれば、債務者(=被告)が、前記8(4)の地域内の集合住宅向けに、債務者商品の販売の申し出をしていることが一応認められる。
 そして、既に検討したとおり、上記地域内の集合住宅に、債務者商品が設置されれば、その使用によって債権者(=原告)らの著作隣接権の侵害が生じることはほぼ必然であることが一応認められ、これにより、債権者等らが著しい損害を受けるおそれがあることも一応認められる。
 したがって、債権者らについて、保全の必要性があることも認めることができる。

 10 結論
 以上のとおりであるから、債権者らの申立てのうち、著作権に基づく申立てはいずれも理由がなく、著作隣接権に基づく申立ては、主文掲記の各債権者の放送地域の範囲内での債務者商品の販売差止めの仮処分を求める限度で理由がある。
 そして、担保については、本件に現れた諸般の事情に鑑み、本決定が債権者ら全員に送達された日から7日以内に、債権者らが共同して、債務者のため、1000万円を供託する方法により担保を立てることを保全執行実施の条件とすることとする。
 よって、主文のとおり決定する。

5社で1000万、一社当たり200万円。ちなみに、録画ネット事件の対NHKの担保額も200万である。


本判決は、まず設置者に利用主体性を認めた点はあてはめが大雑把であったような気がしてならない。
クロムサイズ社に利用主体性を認めるということはしなかったが、結果として(類推で)差止を認めており、
この点の妥当性を一応検討すべきように思う。
また、このシステムが「公衆送信」システムであるという点もあまりに形式的判断のような気がしてならない。
科学の進歩を考慮しない判決のように思われる。
せめて法が権利者と利用者の調和を図ろうとしていることに配慮して理由付けるべきだったように思う。
テレビは著作権が複雑であるというのが、テレビ局自体が昨今主張しているところである。
そうだとすれば、メディアシフトシステムをこのような形式的解釈によって制限してしまったいいのか、
(被告の主張とも関係しようが)知財部判決としては少し物足りない判決のように思う。


ところで、本判決を受けて、被告の訴訟代理人である小倉弁護士がブログで、

アンシャンレジームの擁護者
http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2005/10/post_6fde.html

という記事を書いていますので紹介しておきます。
筆者とは少し考え方・捉え方が違うところもあるように思いますが、たいへん興味深いです。

<暫定版 おわり>

○共用録画でも見れるのは自分の設定した分だけでしょ?
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050122/p1
○(株)クロムサイズ「選撮見録」事件
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050125/p1
○選撮見録その3-実際の説明
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050127/p5
○選撮見録その4〜重大な視点の見落とし
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130/p1
○選撮見録その5〜訴状の内容を推察してみる。
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130/p3
○選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203/1107399229
○選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050209/1107879578
○選撮見録その8〜裁判どうなってる?/itmediaの記事について
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050301/1109611056
○選撮見録その9〜被告訴訟代理人弁護士小倉秀夫氏のblog(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050303/1109785908
○選撮見録番外編1〜アンケートに御協力ください〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050316/1110910154
 →http://page.freett.com/okeydokey/yoridorimidori.html
○選撮見録その10〜選撮見録と公衆送信(雑)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050401/1112285786
○選撮見録番外編2〜選撮見録の商標
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050409/1112981682
○選撮見録番外編3〜公判期日について(4/22現在)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050422/1114161312
○選撮見録番外編4〜弁論期日について(5/25現在)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050526/1117036969
○選撮見録その11〜録画ネット異議審決定(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050604/1117817520
○選撮見録その12〜録画ネット異議審決定(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050606/1117985564
○選撮見録その13〜弁論終結
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050730/1122660948
○選撮見録その14〜裁判資料公開/録画ネット事件(8)〜抗告審資料/本案訴状
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050908/1126173890
○選撮見録その15〜大阪地裁判決<速報>
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051024/1130146791
○選撮見録その16〜大阪地裁判決評釈<暫定版1>
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051026/p1
○選撮見録その17〜大阪地裁判決評釈<暫定版2>
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051027/p1