選撮見録その17〜大阪地裁判決評釈<暫定版2>

大阪地判平成17年10月24日平成17年(ワ)第488号 著作権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/bb65331fa6fb8960492570a50003ebec?OpenDocument

選撮見録裁判判決文の掲載
平成17年(ヨ)第20004号 著作権侵害差止仮処分申立事件
http://www.cyz.co.jp/pdf/2005_20004.pdf[pdfファイル]約17.3 MB
平成17年(ワ)第488号 著作権侵害差止等請求事件
http://www.cyz.co.jp/pdf/2005_488.pdf[pdfファイル]約7.0 MB
http://www.cyz.co.jp/news/2005/20051026_01.html

選撮見録その16〜大阪地裁判決評釈<暫定版1> - 言いたい放題のつづき>

 5 争点(6)(被告は、複製行為ないし送信可能化行為の主体か)
(1) 複製及び送信可能化の主体
 一般に、放送に係る音及び影像を複製し、あるいは放送を送信可能化する主体とは、実際に複製行為をし、あるいは実際に送信可能化行為をする者である。
 そして、被告は、被告商品を販売するとしても、直接には、複製行為や送信可能化行為をするわけではない。
 しかしながら、直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるということができると解するのが相当である。
(2) まず、被告商品の設置者(集合住宅が賃貸住宅である場合には集合住宅全体の所有者、集合住宅が区分所有に係るものである場合には、管理組合ないし管理組合法人)の立場について検討すると、以下の点からみて、設置者は、本件商品による複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けているということができる。
 ア 上記設置者は、その出捐において被告商品を集合住宅に導入し、又は導入した建築業者等から買い取って所有権を取得している。したがって、被告商品導入による負担や損失は設置者に帰属する。
 イ 乙第12、第14号証(枝番のあるものは特に摘示しない限り枝番も含む。以下同じ。)によれば、被告商品導入後は、被告による保守業務がされることが予定されているが、その保守業務を被告に委託するのは、設置者であることが認められる。
 ウ 乙第12、第14号証によれば、被告商品は、サーバーにおいて複製ないし送信可能化が行われ、そのサーバーは集合住宅中の共用部分に設置され、被告との保守業務委託契約では、その個所は施錠され、各居室の入居者は排除されている。なお、同契約では、鍵の管理は被告が受託するが、設置者が合鍵を持てない趣旨とは認められないから、設置者が当該箇所から排除されているとは認められない。
 エ 被告商品が受信するテレビ放送のチャンネルは、設置者が決定する。
 オ 設置者にとって、集合住宅が賃貸住宅である場合には、被告商品を導入し、各居室の入居者に録画させることは、テレビ番組の視聴を好む者にとっての住宅の魅力を高め、賃借人の募集が容易になることになるから、これより利益を受けることになる。集合住宅が区分所有に係るものである場合には、管理組合の構成員である各居室の所有者が、自ら居室に居住していれば直接に、他人に賃貸等している場合は賃借人の募集が容易になることによる利益を受け、結局組合全体として利益を受けることになる。
 カ 被告商品においては、ビューワーから録画指示がされると、放送番組がサーバーのハードディスクに録画され、その結果、放送に係る音及び影像が複製され、放送が送信可能化される。ビューワーからの録画指示モードには、「個別予約モード」と「全局予約モード」があるが、これらを比較したとき、「個別予約モード」を選択することには何の利点も存在せず、被告商品の導入を予定していた集合住宅3か所の広告においても、いずれも、「全局予約モード」を選択した場合を前提として被告商品の利点を述べていることからみて、被告商品の利用者(各居室の入居者)は、通常、常時「全局予約モード」を選択して使用するもの、逆にいえば、各居室の入居者は、どの番組を録画するかということを逐一選択しないものと認められる。したがって、各居室の入居者からの、各録画に対する関与は乏しい。
 キ 乙第7号証によれば、各居室の入居者向けの被告商品の取扱説明書には、複製ないし送信可能化が行われているサーバーの仕組みについての説明が乏しいことが認められる。したがって、各居室の入居者は、被告商品の使用と放送の著作隣接権の関係を十分理解しないで使用することになる可能性が高い。

主体性の転換自体はよく用いられる理論構成である。筆者のこの理論自体は否定しない。
しかし、その要素については裁判例は(過去にもふれたように)あまりにも大雑把なような気がしてならない。
選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈 - 言いたい放題
「複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ」というのであれば、
複製機器・送信可能化機器ではなく、著作物の利用についての管理支配・経済的利益享受が必要なのである。
だとすれば、当該機器について誰が所有者であるかということは本質的な問題ではないはずなのである。
(ただし、裁判所は本判決や録画ネット決定は考慮している。甚だ疑問である。)
ここでいえば、要素たりうるのは、エ、オ、カ、キである。
もっとも、エは実際上意味をなさない。地上波テレビ受信に選択は受信できるものは受信するというのが通常のように思うからである。
また、キも意味がよく理解できない。システムを現実の利用者が権利関係を知っていないといければ転換されるというのは妥当か?
さらに、オについても微妙で、録画機器について何らかの経済的利益があるのは通常で、ビデオデッキとの差異はないはずである。
あくまで一要素ということだろうが、このような経済的利益を考慮するのはどうかと思う。
とすれば、残るのはカであり、ここは筆者も以前から危惧していたことである。
(ただし設置者との関係で「全局予約モード」がどれだけ主体性に影響するかは悩ましい。)
しかし、転換肯定の考慮事項となるのはこれだけであって、総合的に考えて転換すべきという結論は難しいと思うのである。
どうしても、裁判所は結論ありきではないか、と思ってしまうのである。
いずれにせよ、ここで設置者に利用主体性が認められたことで、複製についても私的複製とはいえず違法ということになる。

(3) もっとも、設置者が複製行為ないし送信可能化行為の主体であるとしても、他に同行為の主体が存在し得ないというものではなく、被告も共同で、又は重畳的に同行為の主体となっている可能性もあるので、この点について検討する。
 ア 原告らは、[1]被告は被告商品を開発、販売から販売後のサービス・サポートまで一貫して行なっている、[2]被告は、被告商品販売後も、24時間体制でサポート業務を行ない、月々の使用料も徴収している、[3]被告は、保守業務委託契約において、固定グローバルIPアドレスが割当てられること、及び、設置場所へ施錠が可能であること、また、施錠鍵の管理を被告が受託できること、との条件を付し、被告商品サーバーを常時、遠隔操作によってリモートコントロールし、それによって被告商品の運用保守を行っている、[4]被告は、保守業務委託契約において、被告の確認なしの設置、移設、増設、撤去等を行った場合の契約解消を規定し、被告が被告商品の所有者に対して被告商品サーバーをブラックボックス化しているとして、被告が被告商品やこれによる管理支配行為を行っていると主張するので、検討する。
 イ(ア) 前記2(1)[1]ないし[5]のとおり認められる事情のほか、甲第38、第42、第46、第64号証、乙第12、第13、第21号証によれば、過去に被告が販売しようとした「選撮見録」については、[1]その設置者と被告との間で、保守業務委託契約が締結されることが想定されていたこと、[2]従来、保守業務の対価は、導入先によって異なるが、月額で、1戸当たり1200円ないし1600円程度、1サーバー当たりにすると3万円ないし4万円程度(いずれも消費税別)とされていたこと、[3]保守業務にあたっては、固定グローバルIPアドレスを取得して被告商品のサーバーをインターネットに接続し、被告において、インターネットを介してリモートコントロールで作業することもあるとされていたこと、[4]保守業務委託契約では、サーバーの設置場所を施錠すること及びその鍵の管理を被告が受託することとしていたこと、[5]保守業務委託契約では、被告商品の設置者が、被告の確認なく被告商品の移設や改造を行ったときには、契約が解消されるとされていたこと、が認められる。
  (イ) 甲第37ないし第39号証によれば、[6]マンション「グレンパーク初台」には、被告が開発して販売した商品が設置され、被告においてその保守業務をしているところ、同商品は、当初は画面上「ウィークリーネビオ」と表示されていたが、被告がサーバーないし部品を変更したことによって「選撮見録」との画面表示がされるようになっていること、[7]被告従業員は、上記マンションの入居者から強く要求された際に過去の番組を録画したVHSビデオテープを提供したことがあること、[8]グレンパーク初台の賃貸人であるエイブル保証株式会社(以下「エイブル保証」という。)は、「選撮見録」が同マンションの管理人室に設置されており、選撮見録サーバーを管理しているのは被告であって、エイブル保証は入居者からのメンテナンス及び故障等の問い合わせは被告と入居者との間で行われており、エイブル保証は、毎月のランニング費用を入居者から集金して被告に送金していると認識していることが認められる。
 ウ 前記イ(ア)、(イ)の事実を全体としてみれば、被告は、被告商品を設置者等に販売するとともに、保守契約を締結し、自らが各居室の入居者に対する窓口となって、インターネットを介するリモートコントロールとサーバーの保管場所の鍵の管理によって、被告商品を管理して運営の円滑化に努め、これによって被告商品の販売代金と毎月必要な維持管理をする費用(ランニング費用)を得ているという、録画代行サービスの一種を被告商品の設置者と共同で行っているように見えないこともない。
  しかし、乙第21号証には、前記イ(ア)[2]及び(イ)[8]に関し、設置者やマンション販売業者がどういう名目で各居室の入居者から金員を徴収しているかは知らないし、「選撮見録使用料」名目で徴収しようとしていた場合には抗議して変更させた、また、被告は保守によって利益を上げるつもりはない旨、(ア)[3]に関し、現在の被告商品の仕様(第三次仕様)ではリモート保守を行わないことにしている旨、(イ)[6]に関し、「グレンパーク初台」に設置されているのは被告商品ではなく、その前身となった仕様の実験機であり、「選撮見録」と表示されるようになったのは誤表示であって、その後「HVR」と表示されるように修正した、したがって、同マンションの状況は被告商品に当てはまらない旨、同?に関し、グレンパーク初台入居者に過去の番組を録画したVHSビデオテープを提供したのは従業員の個人的行為であって、被告は、同マンションに設置された商品に録画されたデータを取得できない立場にある旨の記載があり、これに反する証拠はない。
  そして、現在の被告商品ではリモート保守を不採用にしたとしている旨を始めとする同号証の記載からみると、「グレンパーク初台」に設置された「ウィークリーネビオ」やその後被告が販売しようとした「選撮見録」は、開発間もなく動作が不安定なためにリモート保守等による被告の濃密な維持管理が必要であったが、被告商品は、本来は自動的に運用可能な商品であって、現在では不具合発生の際(リモート保守をしなくとも、その都度被告従業員が現場に行けば足りる程度の頻度)に被告が修補すれば足りる性質のものではないかとの疑問が払拭できない。
 エ このように、被告商品が、本来は自動的に運用可能なものであるとの前提に立ってみれば、前記イ(ア)[1](保守契約の締結)、[2](保守業務の対価)が通常の電気機器の保守を超えているものとも直ちにはいいがたく、同?(移設や改造による無保証)についても、電気機器である被告商品を、他者が不必要に操作したり、改造したりするようでは、被告として十分な動作保証を行うことはできないことから定められたもののようにも思われ、同[4](施錠と鍵の保管)は、これに加え、夜間や休日等に、設置者側の立ち会いがなくとも、被告が保守作業を行うことを可能にするという意味とも解され、同(イ)[8]は、被告商品ではないうえ、設置者ではなく賃貸人にすぎないエイブル保証の誤解と理解できないこともなく、これをもって、被告が被告商品について、電気機器に通常みられる保守を超えた運用管理を行っている証左とまですることはできない。
 オ また、被告は、被告商品の導入時に、購入者の指示に応じて受信すべきテレビ放送のチャンネルを設定することがあることは認められる。しかし、このチャンネル選択は購入側に決定権があること、設置後に、購入者(被告商品の設置者)において、チャンネル設定を変更することができることに照らせば、これをもって、被告が導入後の被告商品を管理・支配しているとはいえない。
 カ 被告は、被告商品を販売することにより、利益を受けることとなる。しかし、本来は自動的に運用可能な商品であるとすれば、被告としては、被告商品が販売された後、実際に使用されようとされまいと、利益状況には変わりがないことになるから、被告商品の販売により被告が受ける利益は、被告商品によって録画行為が行われることにより被告が受ける利益ということはできない。
  また、原告らは、被告商品の利用頻度によって機器の劣化も進むから、録画数に応じて被告の利益が増加する関係にもあると主張する。しかし、利用によって機器の劣化が進み、次の部品等購入時期が若干早まるとしても、その程度のことをもって、被告について、被告商品によって録画行為を行う主体という根拠とすることはできない。
 キ 以上の事実からすれば、被告の、被告商品による録画行為に対する管理・支配の程度が強いということはできず、その受けている利益(保守業務の対価)も高いかどうか明確なものでもないため、全体としてみて、被告は、設置者が被告商品によって録画する行為を幇助しているということはできても、録画の主体として被告商品により録画しているというためには、これを認めるに足りる証拠がないというべきである。
(4) 原告らは、被告商品が採用されたマンション住戸を購入した者は、否が応でも被告商品を取得することになり、そのマンション入居者が被告商品を利用する場合には、必ず著作隣接権侵害となるから、被告は「被告商品の利用者を自己の手足として著作隣接権侵害行為を行わせる」ということができると主張する。
 なるほど、前記(2)カ、キのとおり、各居室の入居者の、各録画に対する関与も乏しく、被告商品の使用と放送の著作隣接権の関係を十分理解しないで使用する可能性が高いということはできる。しかし、マンションに被告商品を採用するのは、被告商品の設置者(集合住宅全体の所有者や管理組合・管理組合法人等)であって、設置者には、被告商品を採用(購入)するかしないかの自由があるから、設置者によって採用された後の被告商品の利用者である各居室の入居者を被告の手足と評価することはできない。
(5) なお、原告らは、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるか否かを決するにあたっては、複製行為ないし送信可能化行為の管理・支配を中心に観察して評価を行うべきであると主張する。
 しかし、仮に、原告らの主張に従うとしても、上記のとおり、証拠上は、被告による複製行為ないし送信可能化行為の管理・支配の程度を前示の程度以上には認定できないから、いずれにしても、この点についての原告らの主張は理由がない。
(6) 以上のとおり、被告商品による放送に係る音及び影像の複製ないし放送の送信可能化の主体を、被告と認定することはできない。したがって、被告が集合住宅向けに販売した被告商品による複製行為ないし送信可能化行為に関して、「被告が被告商品を使用している」とか、「被告が集合住宅の所有者をして被告商品を集合住宅の入居者に使用させている」とか、と認めることもできない。

以上のように、本判決はクロムサイズに利用主体性を認めていない。この点は妥当な判断と思う。
(なぜこのような厳格な判断を設置者との関係でしなかったのか?)
ただし、利用主体である設置者の複製・公衆送信に対する幇助という余地は残している。
ところで、本論とは関係ないが、「弁護士P1他1名作成の2004年7月15日付被告宛書面」とする一方で、
http://www.cyz.co.jp/html/pre001.html参照。弁護士は本件被告訴訟代理人でもある)
「グレンパーク初台」「エイブル保証株式会社」がそのままなのはなぜ?単なるミスか?
では、利用主体性の認められない被告に対して、販売差し止めできるのか?

 6 争点(7)(被告が複製ないし送信可能化の主体ではない場合における被告商品の販売差止め等の可否)
(1) 事実認定
 ア 被告商品が使用された場合の結果については、以下の事実を認めることができる。
   [1] ビューワーから録画指示がされると、放送番組がサーバーのハードディスクに録画され、その結果、放送に係る音及び影像が複製され、放送が送信可能化される(前記2(1)[3][4]、前記4)。
   [2] ビューワーからの録画指示モードには、「個別予約モード」と「全局予約モード」があるが、これらを比較したとき、「個別予約モード」を選択することには何の利点も存在せず(前記2(1)[4][5])、被告商品の導入を予定していた集合住宅3か所の広告においても、いずれも、「全局予約モード」を選択した場合を前提として被告商品の利点を述べていることに照らせば、「全局予約モード」を選択して被告商品を使用することが合理的であり、利用者としても、そのような選択をすることが当然に予測される。
   [3] 放送普及基本計画(昭和63年郵政省告示第660号)によれば、原告らの放送が行われている滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県においては(これらの地域についてのみ検討することについては後記8(2)、(3)で述べる。)、地上波テレビ放送の放送系は、一般放送事業者である原告らの他、県域放送系として、日本放送協会が各府県にそれぞれ総合及び教育の2放送系ずつ、一般放送事業者の放送系が各府県にそれぞれ1放送系ずつ存在するのみである(ただし、大阪府を放送対象地域とする県域放送系の放送局は後記8(3)のとおり原告テレビ大阪株式会社が設置するものである。)から、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県においては、受信することができる地上波テレビ放送は、7放送系、放送対象地域外で受信できる放送系を考慮しても8放送系程度にとどまる(なお、被告は、放送大学の地上波テレビ放送も受信することができると主張するが、これが上記地域で受信することができないことは、甲第12、第13号証及び放送普及基本計画において放送大学の地上波テレビ放送の放送対象地域が関東放送圏とされていることに照らして明らかである。)。
    したがって、最大5局まで同時に受信・録画対象とすることができる被告商品を使用する際には、その対象局を5局より少なくする理由も利点も見当たらない以上、少なくとも、原告らが行う放送のうち2放送系以上を対象として使用することとなるのが自然である。
   [4] 原告らが、被告商品の設置者に対し、原告らの行う放送に係る音及び影像の複製並びに放送の送信可能化の許諾をすることが論理的にあり得ないということまではできないとしても、証拠により認められる本件訴訟に至るまでの経過並びに本件訴訟の提起及び本件訴訟における原告らの主張態度に照らせば、本件の口頭弁論終結時において、原告らが、被告商品を設置しようとする者に対し、被告商品の使用により、上記複製及び送信可能化を許諾する意思がなく、当面その見込みもないことは明らかである。
   [5] 本件の審理の過程で、平成17年5月24日に行われた第2回弁論準備手続期日において、受命裁判官は、被告に対し、原告らの権利を侵害することなく、被告商品を使用する現実的な方法があるか、釈明を求めた。
    これに対し、被告は、その役員であるP3の陳述書において、大邸宅の個人向け機器としての使用法と、選撮見録サーバーを集合住宅向け監視カメラシステムの中央装置として利用する方法がある旨を示した。
    しかしながら、前者は、そもそも集合住宅向けに販売されるものではないから、本訴における販売差止めの対象となっているものではない。
    また、後者は、上記陳述書に記載されているとおり、被告商品のサーバーを応用的に使用するものであって、被告商品そのものではない。
    そして、他に、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県において、原告らの著作隣接権を侵害することなく、被告商品を使用する現実的な方法は示されず、証拠上も窺うことができない。
 イ 上記アの各事実によれば、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県の地域内で(ただし、原告テレビ大阪株式会社については、このうち大阪府内で)被告商品を使用すれば、必然的に、原告らの放送事業者としての複製権及び送信可能化権が侵害される(被告の抗弁によって複製行為が適法となるものでないことは後記7で判断するとおりである。)こととなり、被告商品の設置者に対する裁判による被告商品の使用差止めを別にすれば、その回避は社会通念上不可能であるということができる。
   そして、被告が被告商品を集合住宅向けに販売した場合、すなわち、被告商品の設置者が被告商品を購入した場合、被告商品が設置された集合住宅において、被告商品を使用しないことは社会通念上あり得ないというべきであるから、上記地域の集合住宅への被告商品の販売によって、上記結果が生じることは、これもまた必然である。
   ところが、上記地域は相当な面積があり、集合住宅が非常に多数存在することは明らかであるから、被告が被告商品を販売した場合には、原告らが、被告商品の設置者を相手として、放送事業者の複製権及び送信可能化権侵害行為を差し止めようとしても、設置後(侵害行為開始後)であってさえ、どの集合住宅に被告商品が設置されているのか(誰がどこで侵害行為を行っているのか)を知ることは非常に難しく、まして、これを事前に知って予防することは、更に一層困難であって、結局、原告らの権利保護に欠けることになる。他方、被告が被告商品の集合住宅向けの販売を止めることは、被告の販売利益が失われる点を除けば容易であって、これにより、被告商品による原告らの放送事業者の複製権及び送信可能化権侵害行為は行われなくなる。
(2) 著作権法112条1項の適用による差止めについて
 著作権法112条1項は、著作隣接権者は、著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を定める。
 一般には、ここでいう、「侵害」とは、直接に著作隣接権を侵害する行為を意味し、「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」とは、著作隣接権を侵害する行為(本件では複製ないし送信可能化する行為)の主体となる者を意味するものと解される。
 ア 原告らは、直接的物理的には著作隣接権を侵害する行為(直接行為)をしておらず、間接的な行為(間接行為)をしている場合であっても、その間接行為が、直接行為と異ならない権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であれば、これを直接行為と同視することができ、そのような間接行為自体が、著作隣接権の侵害行為そのものであると主張する。
   そして、被告による被告商品の販売行為は、被告商品がもっぱら原告らの著作隣接権の侵害にのみ用いられるものであるから、上記の理由で、被告商品の販売行為それ自体が、原告らの著作隣接権の侵害にあたると主張する。
 イ なるほど、もっぱら権利侵害にのみ用いられるような器具の販売といった、権利侵害に至る高度の現実的・具体的蓋然性を有する間接的行為が行われた場合には、その後、権利侵害が行われる蓋然性は極めて高いものということができる。
   しかし、そのような販売行為が行われたその時点においては、具体的には何らの法的利益も害されていないこともまた事実である。
   また、著作隣接権の侵害行為は、著作権法119条により犯罪とされている。ところが、原告らの主張に従えば、上記のような間接的行為は、それが間接正犯(複製ないし送信可能化の主体)とはいえない場合にも、それ自体が著作隣接権の侵害行為であるということになってしまい、現実の具体的な権利侵害行為が行われていないにもかかわらず、それが犯罪行為にも該当するという結論に至るものといわざるを得ない。
   のみならず、例えば、特許法においては、物の発明の特許について、業として、その物の生産にのみ用いる物を製造販売する行為や、方法の発明の特許について、業として、その方法にのみ用いる物を製造販売する行為は、特許権を侵害するものとみなす旨の規定(101条。いわゆる間接侵害の規定)が置かれている。ここで、この特許法の規定においては、そのような間接行為は、侵害行為と「みなす」ものとされているのであり、本来は侵害行為とはいえない行為を、権利侵害に結びつく蓋然性の高さから、侵害行為として法律上擬制しているものである。しかるに、著作権法においては、そのような趣旨の規定は存在しない。なお、著作権法においても、一定の行為については、これらを著作権著作隣接権等を侵害するものとみなす旨の規定を置いているが(113条)、上記のような間接行為はそこに掲げられていない。
   したがって、間接行為が、たとい直接行為と異ならない程度に権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であったとしても、直ちにこれを、著作隣接権の侵害行為そのものであるということはできないから、被告商品の販売行為そのものを原告らの著作隣接権を侵害する行為とすることはできない。
(3) 著作権法112条1項の類推による差止めについて
 ア 本件においては、[1]被告商品の販売は、これが行われることによって、その後、ほぼ必然的に原告らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することが、裁判等によりその侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であり、[2]裁判等によりその侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しく、[3]他方、被告において被告商品の販売を止めることは、実現が容易であり、[4]差止めによる不利益は、被告が被告商品の販売利益を失うことに止まるが、被告商品の使用は原告らの放送事業者の複製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は保護すべき利益に乏しい。
  このような場合には、侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」と同視することができるから、著作権法112条1項を類推して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。
 イ すなわち、著作隣接権は、創作活動に準じる活動をする者や、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者に、法律が規定する範囲で独占的・排他的な支配権を与えるものであり、その享受のために、権利者に、妨害の排除や予防を直接請求する権利を与えたものである。ここで、その行為が行われることによって、その後、ほぼ必然的に権利侵害の結果が生じ、その回避が非常に困難である行為は、権利を直接侵害する行為ではないものの、結果としてほぼ確実に権利侵害の結果を惹起するものであるから、その結果発生まで一定の時間や他者の関与が必要になる場合があるとしても、権利侵害の発生という結果から見れば、直接の権利侵害行為と同視することができるものである。
  ところで、物権的請求権においては、その行使の具体的方法が物権侵害の種類・態様に応じて多様であって、例えば、妨害排除請求権及び妨害予防請求権の行使として具体的行為の差止めを求め得る相手方は、必ずしも妨害行為を主体的に行った者に限定されるものではない。このこととの対比において、上記著作隣接権の性質を考慮すれば、上記のような行為については、その侵害態様に鑑み、差止めの請求を認めることが合理的である。
  また、著作権法は、他の法益との衝突の可能性を考慮して、著作隣接権侵害を発生させる行為について、差止めの対象を一定の範囲に限定し、それ以外のものは、行為者の故意過失等を要件として不法行為として損害賠償の対象とするに止めているものと解される。しかし、本件においては、前示のとおり、差し止められるべき行為は、保護すべき利益に乏しく、かつ、その行為を被告が止めることも容易であるから、差止めによって損なわれる法益があるものとは認めがたい。したがって、本件においては、著作権法において差止めの対象が限定されている趣旨にも反せず、著作権法112条1項の規定を類推するに適合したものということができる。
 ウ なお、特許法等と異なり、著作権法においては、上記のような行為は、権利侵害行為とみなす旨の、いわゆる間接侵害の規定は存在しない。
  しかしながら、間接侵害の規定は、そのような行為を、単に差止めの対象行為とするだけではなく、権利侵害行為として法律上擬制し、直接の権利侵害行為と同一の規律に服せしめるものである。
  したがって、間接侵害の規定がないことは、このような行為が差止めの対象行為となると解することの妨げとはならない。
 エ 以上の次第で、原告らは、原告らの放送事業者としての著作隣接権である複製権及び送信可能化権に基づいて、被告に対し、上記権利の侵害の予防のために、被告商品の販売行為の差止めを請求することができるものというべきである。
(4) 被告は、原告らが放送事業者としての著作隣接権に基づいて請求するならば、少なくとも周波数、地上・衛星放送の別、チャンネルなどによって「放送」を特定すべきであると主張する。
 しかしながら、放送事業者としての著作隣接権に基づく請求の原因としては、最低限、請求者が放送事業者であり、放送を行っていること(本件に即していえば、被告商品がテレビ放送を対象とするものであるから、テレビ放送を行っていること)で足りるものと解すべきである。
 そして、原告らは、この事実を請求原因として主張しているのであるから、請求原因の主張は十分であって、被告の上記主張は採用することができない。
(5) また、被告は、被告商品の使用によって、原告らに損害が生じないと主張する。
 しかしながら、放送事業者の著作隣接権としての複製権ないし送信可能化権は、放送事業者に、その放送に係る音及び影像の複製や、その放送の送信可能化をコントロールし、もって、自らの放送の経済的価値を維持する手段や、あるいは、他者に複製や送信可能化を許諾する際に、使用料等の経済的対価を得る機会を確保するものであると解される。
 したがって、原告らが主張するような損害が発生するか否かはともかくとして、権利者の許諾を受けないで行われる複製や送信可能化は、権利者に、少なくとも、使用料相当額の損害を生じさせるものであることは明らかである。
 よって、被告の主張は、採用することができない。

差止という訴訟法的場面においては、類推適用をして、被告を制限する一方で、
権利侵害という実体的場面では、形式解釈をしたようである。
もちろん必ずしも両場面で同じように解する必要はないのだが、少しバランスが悪いように思うのである。
権利侵害でもう少し実質的違法性を論じて欲しかったと思うのである。
さて、本判決は、112条類推という形での差止を認めた。
この点、幇助的態様について、112条を適用した裁判例もあるようである。

大阪地判平成15年2月13日平成14年(ワ)第9435号(通信カラオケ装置リース事件)
 著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解される。しかし、侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、[1]幇助者による幇助行為の内容・性質、[2]現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、[3]幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接な関わりを有し、当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、同法112条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるものと解するのが相当である。
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/BBDCE32FE9DD587949256D39000E302A/?OpenDocument

東京高判平成17年3月3日平成16年(ネ)第2067号(2ちゃんねる事件)
 以上のとおりであるから,被控訴人は,著作権法112条にいう「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当し,著作権者である控訴人らが被った損害を賠償する不法行為責任があるものというべきである。
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/15b36c2ad02d109349256795007f9d09/1645ea3eb994363849256fba0037e2fb?OpenDocument
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050310/1110391639も参照。

間接的な侵害と著作権法112条、特許法101条との関係についても興味深いところである。
本判決は適用を否定し類推適用とした点は、112条の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は広げずに、
例外的場合であることを強調したのであろうか?
結論として差止を認めたので、実際上の相違はないが、この点についてはあらためて考えてみたい。

選撮見録その18〜大阪地裁判決評釈<暫定版3・完> - 言いたい放題へつづく>