2016年5月に観た舞台

モダンスイマーズ『嗚呼いま、だから愛。』観劇。最近社会問題ともなっている、夫婦のセックスレスの話。セックスレスで悩む女性が、美人の姉や、妊娠した友人などの周囲の女性と自分の境遇を比べ、どんどん自己卑下していく。その様は痛々しくて切ないのだが、同時にすごいうざくて、見ていてイライラしてくる。自分のコンプレックスを曝け出し、感情を爆発させる女主人公を演じた川上友里がすごすぎる。まさに怪演。不器用でたどたどしくも見える演技が、この女主人公の不器用さ、無様さと重なり、見ていてどんどん苦しくなる。セックスレスになると、相手に対する不満が募り、些細なことでイライラしたりしてしまうものだ。女としての自信が低下することにより、周りの女たちと自分を比較するようになり、どんどん「自分はダメだ」という思いにとらわれていく。この作品は、そういう女性の心理を巧みに描いていて、もうなんか女性の、あの「ウワーーーッ!」といきなり叫びだしたくなるようなモヤモヤ感がビンビン伝わってきた。女性って、こう「ウワーーーッ!」となることがあるんですよね。男性は引いてしまうのだけど。女性の心理を描くと同時に男性の心理も巧みに描いている。セックスをしない夫が悪いわけではなく、夫も夫でいろいろ我慢しているのだ。それなのに、一方的に女性に「ウワーーーッ!」という感情をぶつけられる男性も気の毒だ。この夫婦みたいに、セックスレスであっても冷え切った関係ではなく「同志」のような関係だと、余計にセックスの話を切り出しにくいし、やっかいだ。一度セックスレスになってしまうと、照れもあって、自然に相手を誘う、ということができなくなる。しかも自分はしたいのに相手がそうでもないという状態だと不公平感があり、なんか腹が立ったりする。自分から誘うことで相手に「そんなにしたいの?」と思われてしまうのも癪だ。夫にセックスをしてもらえない、女性として見てもらえない、という辛さもあるけれど、なにより女性側からセックスをしてほしいと示さなきゃいけない、とうのはかなり女性としてのプライドを傷つけられる。だからあからさまに誘ったりはせず、それとなく態度で示したりするんだけど、それを男性にスル―されると、怒りが湧きあがり、キーッ!となって、怒りをぶつけてしまう。その場合必然的に「なんでしないの!?」みたいな言い方になってしまい、そんなことを口走る自分が惨めで嫌になる。そんな惨め思いをさせる男性に対して余計にムカつく。だから、男性が自分の話を聞いてセックスをしようとしてくれても、自分からお願いしてしてもらうのも癪にさわり、「もういい!」とか言ってひねくれ、面倒くさい女になってしまう。……というようなことをこの芝居では描いていて、観ていて非常に共感した。結局やっぱり男女って分かり合えなくて、それなのに一緒にいるということの意味とは……などいろいろ考えさせられた。ただ、女主人公が「ブス」であることを様々な問題の原因であるかのように描いているのは、どうなのだろう。「ブスだからいじめられる」はあるが、「ブスだからセックスレス」というわけではないはずだ。もちろん作品のなかでそう結論づけているわけではないのだけど、気になった。

Wけんじ企画『ザ・レジスタンス、抵抗』観劇。EDに悩む中年男性が主人公。風采のあがらない男だがなぜか女性にもて、複数の女性と不倫している。前半はエロいシーンが多く引きつけられた。特に、主人公の不倫相手である鄭亜美がエロかった。あのおっぱいはかなりの破壊力がある。後半になるとエピソードが拡散していき、ストーリーのオチもなく、飽きてしまった。もっと振り切ってほしい気がした。この内容を延々2時間20分もやる意味が正直わからなかった。ストーリーを見せるというよりも会話の妙や雰囲気を楽しむ芝居なのだから、1時間半程度で終わらせたほうがよかったのでは。特に最後の30分が辛かった。主人公と女医とのやりとりはいくらなんでも長すぎる。山内ケンジの作品は、初期の頃はもっとシュールでグロテスクな作風だった気がするが、最近は会話の妙で見せる感じになってきて、私の苦手な岩松了作品っぽくなってきた。本作はEDとか不倫とか、題材は面白かったし、役者もどの人もよかっただけに、自分にとっては残念だった。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出『8月の家族たち』観劇。素晴らしかった。映画版とは全然違い、コメディになっていて、笑った笑った。笑った後に、あまりの残酷な物語に胸が締め付けられる。麻実れいが凄い。ラリってるところはまさにハマってるし、コメディセンスも十分。ラスト、凄まじい。

彩の国シェイクスピア・シリーズ第32弾『尺には尺を』観劇。蜷川幸雄追悼公演。素晴らしかった。後半ですべてが回収されていく様が爽快で、引き込まれた。修道士の姿に変装した公爵が、水戸黄門のような役割を果たすのだけど、勧善懲悪というわけではなく、公爵もまた欲望を持っているというのが面白い。登場人物皆がなんらかの思惑や欲望を持っており、時にはあからさまにそれを表現する。この物語のなかでは一番純粋な役どころであるイザベラも、一見被害者であるかに思われるマリアナもそうで、結構したたかな女として描かれている。悪役であるアンジェロは、藤木直人が演じているせいかあまり悪い男には見えず、人間らしさが伝わってきた。性欲を封印していたはずなのに、イザベラに出会って惹かれてしまい、激しく動揺するアンジェロ。人を求めてしまう気持ちは、自分でも抑えられないものだよね……。役者のなかではイザベラを演じた多部未華子が素晴らしかった。イザベラの処女性と、女性のしたたかさの表現がうまい。凛とした立ち姿と、一言一言はっきりと語る言葉、真剣な表情から、イザベラの真っ直ぐさが伝わってくる。ラストは複数のカップルの結婚式で、祝祭的な感じで終わる……と思いきや、最後の最後でどんでん返しがあり、「おいおい!」って椅子からズリ落ちそうになった。脱力してしまう。それも含め面白い作品で、カーテンコールではすごく充実した気持ちで拍手を送った。ダブルコールがかかり幕が再度上がると、なんとそこに故・蜷川幸雄の巨大な遺影のパネルがおりてきた。これは泣くでしょ!観客はスタオベで熱い拍手を送り、泣いている人もちらほら。故人への愛と尊敬に溢れた、素晴らしい追悼公演だった。

5月の観劇本数は4本。
ベストワンは彩の国シェイクスピア・シリーズ第32弾『尺には尺を』。