アホヲタ元法学部生の日常

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環境法ガール2 ほむら先生のコメントボックス〜平成24年第1問設問2、3

環境法 第3版

環境法 第3版


注:本作品は、環境法司法試験過去問を小説方式で解説するプロジェクトです。本作品に登場する人物は、実在の人物と全く関係ありません。


1.環境法ゼミの「放課後ティータイム


 「「こんにちは」」


 僕たちは、元気よく、ほむら先生の研究室にお邪魔する。ほむら先生は、学生とティータイムを楽しむのが趣味だ。研究室には、紅茶を常備して、学生の訪問を歓迎してくれる。


「いらっしゃい。今日はアッサムにしましょうか。こくがある味で、甘い香りと濃厚な渋みが特徴ね。ミルクティーにするのがおすすめよ。」


 テキパキと茶葉から入れるほむら先生の手先に見とれていると、「ほむら先生を見つめすぎよ」と、隣に座るかなめさんから注意される。


 「蒸らし」が終わると、あっという間に湯気を浮かべた深紅の液体がカップに注がれる。ちょうど三人分になるよう水の量を調整したらしく、カップに最後の一滴を注ぎ終わると、大きなミルクジャーに入ったミルクと一緒にテーブルの上に並べられる。


「今日のお茶菓子はクッキーにしましょうか。」と、棚からクッキーの箱を取り出してテーブルに置いてくれる。


「いつもこんなに歓待していただき、ありがとうございます」と、丁重にお礼を言うかなめさん。


「いいのよ。『お礼』はこれからしてもらうから。」といって微笑むほむら先生。また環境法か何かの問題かな。


 ほむら先生は、箱の中から裏紙を取り出しパラパラとめくる。「あった、あった」と小声でつぶやくと、僕たちに見せてくれる。

 行政罰には命令前置制と直罰制の2種類があると習ったのですが、その2つが具体的にどう違うのかが分かりません。また、「どうして、この法律のこの条文では命令前置制が選択されているのか」という辺りになると全く分からないです。


 几帳面な女の子を思わせる字で書かれたメモ。


「先生、これは何ですか。」と思わず聞いてしまう。


「コメントペーパーよ。教員の先輩に、学生の意見を聞くには最適と教えてもらったから、学部の行政法と環境法の授業では裏紙を配って、何でもいいから書いてこの箱に入れてもらっているの。将来の授業の改善に役立てる場合もあれば、個別に質問に回答する場合もあるし、授業の中で質問に答える場合もあるわ。」


「要するに、この質問に対する回答を次の授業でするから、その内容を一緒に考えて欲しい、そういうことですね。」鋭いかなめさん。


「そのとおりよ。基本的な問題だから、環境法ゼミのあなたがたには、丁度いい放課後ティータイムの話題ではないかしら。ちょうど、司法試験でも問われているのよ。」こう言って、ほむら先生は、司法試験平成24年第1問を僕たちに見せてくれた。

〔設問2〕
大気汚染防止法は,昭和43年(1968年)に制定されたが,同法の昭和45年(1970 年)の改正は,排出基準の違反について第33条の2を導入し,新たな法政策を採用した。【資 料1】及び【資料2】を踏まえてその趣旨を述べよ。

【資料1】昭和43年(1968年)の大気汚染防止法制定の際の関連規定
(排出基準の遵守義務)
第5条 指定地域におけるばい煙発生施設において発生するばい煙を排出する者(以下「ばい煙排 出者」という。)は,当該ばい煙発生施設に係る排出基準を遵守しなければならない。
(ばい煙量等の測定)
第15条 ばい煙排出者は,厚生省令,通商産業省令で定めるところにより,当該ばい煙発生施設 に係るばい煙量又はばい煙濃度を測定し,その結果を記録しておかなければならない。
第33条 第10条又は第14条第1項若しくは第2項の規定による命令に違反した者は,1年以 下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
第34条 第7条第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者は,5万円以下の罰金 に処する。
第35条 次の各号の一に該当する者は,3万円以下の罰金に処する。

一 第8条第1項又は第9条第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者

二 第11条第1項の規定に違反した者

三 第15条の規定による記録をせず,又は虚偽の記録をした者

四 第26条第1項の規定による報告をせず,若しくは虚偽の報告をし,又は同項の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者
【資料2】昭和45年(1970年)の大気汚染防止法改正の際の関連規定 (ばい煙の排出の制限)
第13条 ばい煙発生施設において発生するばい煙を大気中に排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は,そのばい煙量又はばい煙濃度が当該ばい煙発生施設の排出口において排出基準に適合しないばい煙を排出してはならない。
2 (略)
(ばい煙量等の測定)
第16条 ばい煙排出者は,厚生省令,通商産業省令で定めるところにより,当該ばい煙発生施設 に係るばい煙量又はばい煙濃度を測定し,その結果を記録しておかなければならない。
第33条 第9条又は第14条第1項の規定による命令に違反した者は,1年以下の懲役又は20 万円以下の罰金に処する。
第33条の2 次の各号の一に該当する者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
一 第13条第1項の規定に違反した者
二 第17条第2項,第18条の4又は第23条第4項の規定による命令に違反した者
2 過失により,前項第1号の罪を犯した者は,3月以下の禁錮又は5万円以下の罰金に処する。
第34条 次の各号の一に該当する者は,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
一 第6条第1項又は第8条第1項の規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者
二 第15条第2項の規定による命令に違反した者
第35条 次の各号の一に該当する者は,5万円以下の罰金に処する。
一 第7条第1項,第18条第1項若しくは第3項又は第18条の2第1項の規定による届出を せず,又は虚偽の届出をした者
二 第10条第1項の規定に違反した者
三 第26条第1項の規定による報告をせず,若しくは虚偽の報告をし,又は同項の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者


〔設問3〕
C社は,B町に対して,大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準値は遵守していたと主 張したが,A県が立入検査をして質問などをしたところ,少なくとも平成19年(2007年) 4月から平成24年(2012年)3月までの過去5年間にわたり,同法施行規則に基づく頻度 で実施する排出基準の測定に当たって,度々同基準値を超過した排出をしていたにもかかわらず, それが基準値内にあるように測定値を改ざんして記録していたことが判明した。この場合につい て【資料1】ないし【資料3】を踏まえて次の(1)及び(2)に答えよ。
(1) このような事案に対し,設問2に挙げた規定の導入と一体として行われた昭和45年(19 70年)の大気汚染防止法改正の一部(【資料2】参照)には,「十分認識されていなかった問 題点」があったことが明らかになり,平成22年(2010年)に同法改正がなされた(平成 23年(2011年)4月1日施行)。この問題点は,我が国の環境法令の多くに前提となっている認識と関連しており,我が国の環境法令の特徴ともいえるが,それは何か。
(2) C社はどのような刑事責任を負うか。なお,罪数については答えなくてよい。

【資料3】中央環境審議会「今後の効果的な公害防止の取組促進方策の在り方について(答申)」(平 成22年1月29日)(抜粋)
「近年においては,環境問題の対象が地球温暖化や廃棄物・リサイクル等にも多様化し,事業者 や地方自治体においてもこのような課題への対応に重点が置かれるようになり,公害防止の取組に 対する社会的な注目度は相対的に低下し,現場における担当者の公害問題に対する危機意識も希薄 となりがちな傾向にある。それらを背景として,公害防止法令に基づく環境管理業務に充てられる 人的・予算的な資源に制約が生じ,その適確な遂行が困難になりつつあり,さらに,これまで公害 防止対策を担ってきた経験豊富な事業者や地方自治体の職員も退職期を迎えている。また,企業に おけるコンプライアンスの確保が課題となっている。このような中で,ここ数年,大企業も含めた 一部の事業者において,『大気汚染防止法』や『水質汚濁防止法』の排出基準の超過及び工場の従 業員による測定データの改ざん等の法令違反事案が相次いで明らかとなり,事業者の公害防止管理 体制に綻びが生じている事例が見られている。」
「現行の『大気汚染防止法』及び『水質汚濁防止法』においては,(中略)ばい煙量等又は排出 水の汚染状態の測定・記録(中略)により得られる排出測定データは,事業者が排出基準を超過し ないよう自主的管理のために用いられるとともに(中略)地方自治体による報告徴収や立入検査, 改善命令等の法に基づく措置を行う際に過去の排出の状況を明らかにする重要な資料となってき た。」


2.命令前置の大きな問題
「この問題は簡単だわよ、ねえ。」と、かなめさんは、同意を求めてくる。


「えっと、33条の2が新たに追加されたんだよね?」突然のことに動揺しながら、紅茶をすすって気持ちを落ち着ける。


「そうね。33条の2の追加の意味は、命令前置制から直罰制への変更ということよ。」助け舟を出してくれるほむら先生。


「直罰制は1970年の公害国会の際に大気汚染防止法水質汚濁防止法に導入された画期的な規定よ*1。」


「1968年段階で制定された命令前置制については、平成24年の過去問では、必要な条文が欠けているので、『平成22年改正前』の14条をお二人に見せてあげるわ。私が法科大学院生の時に使っていたものだから、大分色々な色がついているけどね。」ほむら先生が、カラフルな線が引かれた古い六法を引っ張りだす。こういう時のために古い六法を用意しておくのが良いのか。

大気汚染防止法14条 都道府県知事は、ばい煙排出者が、そのばい煙量又はばい煙濃度が排出口において排出基準に適合しないばい煙を継続して排出するおそれがある場合において、その継続的な排出により人の健康又は生活環境に係る被害を生ずると認めるときは、その者に対し、期限を定めて当該ばい煙発生施設の構造若しくは使用の方法若しくは当該ばい煙発生施設に係るばい煙の処理の方法の改善を命じ、又は当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。

「要するに、第5条で排出基準の遵守義務を定めた上で、第14条で排出基準違反に対する改善命令・一時停止命令を定め、その違反に対し、第33条で刑罰を科すという仕組みですね!」かなめさんが仕組みを整理する*2


「そう、環境法を含む行政法は、それぞれの条文が独立して規定されているのではなく、それぞれが連関して『仕組み』を形成しているから、その『仕組み』を理解するのが大事ね。じゃあ、これと1970年改正で導入された直罰制はどう違うのかしら?」僕の方をみつめながら、少し首を傾げるほむら先生。


「1970年改正法は、第13条で排出基準への違反を禁止し、第33条の2第1項1号で第13条違反に直接行政罰を科しています。」なんとか、仕組みを説明する。


「そうね。命令前置制はどういう場合に用いられるのかしら。」


「経済界との妥協とか、そういう政治的話を除くと、直罰制にして罰則で直接担保される規定をする以上は、構成要件明確性の原則から明確な要件を規定する必要があり、また、罪刑均衡の観点から、その違反が、きちんとその罰則を科すに足るだけの環境等への悪影響の危険がある場合でないといけないですよね。法技術的な問題や、その当時の科学的知見の問題等があって、それが実現できなければ、行政が講ずべき義務を個別具体的事情に応じて個別具体的命令によって明らかにし、それに違反した場合に刑罰を科すという命令前置制にするしかない、そういうことでしょうか*3。」長く話したので、ついつい紅茶に手が伸びる。咽を潤す、こくと芳醇な香り。


「そうね。じゃあ、その命令前置制が直罰制に変わった理由は何かしら。」


「命令前置制に多くの問題があり、実効性の確保が難しかったからです。『行政従属性』*4という表現も使われていますが、要するに、行政の、『命令を出す』という判断がまずあって、その上でその命令への違反があってはじめて刑罰を科すことができる訳です。そこで、(1)違反への対応が遅れる、(2)政治的圧力介入の余地が生じる、(3)行政リソースの制約により十分な対応ができなくなることがある等と指摘されています*5。」すらすらと話すかなめさん、きっとその頭の中には環境法に関する情報が整理されて入っているのだろう。


「直罰制になれば、不利益処分の発出等行政の介入の如何を問わず、警察が違反者を直接検挙でき、また、法律による義務違反がそのまま刑罰につながることから、事業者にとっては相当のプレッシャーになるといわれています*6。」これが直罰制のメリットのはずだ。


「二人とも、よくできているわね。この罰則は、両罰規定*7になっているし、第33条の2第2項で過失も処罰している。要するに、『わざとじゃなかったんです』という場合でも、結局処罰されし、処罰されるときは行為者と法人等を一緒に処罰できるということね。」ミルクティーを上品に飲むほむら先生の唇の紅が、白いカップに映える。


3.直罰制で解決できない問題
「そうすると、1970年改正で直罰制になり、命令前置制の問題が解決されて、めでたしめでたし、こういうことでいいのかしら?」ほむら先生のこの微笑みは、多分違うってことだろう。


「そうとは限らない、ってことだと思うんですが。。。」と自信なさげに答える。


「まあ、先にC社に対する罰則について確認しましょう。」


「2011年4月以降については記録義務違反(16条)により、両罰規定として30万円以下の罰金が科せられます(35条3号、36条)。2007年4月以降2012年3月までの排出基準遵守義務違反(13条)に対して、両罰規定として50万円以下の罰金が科されます(33条の2第1項1号、36条)。)

「かなめさんらしいシンプルな答えね。実は罪数は難しい*8んだけど、平成24年過去問では、罪数を聞いていないから、大丈夫ね。」

「問題は、『十分認識されていなかった問題点』、は何かということですけど。かなめさんが指摘したとおり、2010年改正以前については、記録義務違反を問うことができない、つまり、それまでは、記録義務違反がなかった、というところですかね。」

「そうね。現在の大気汚染防止法35条3号は『第十六条の規定に違反して、記録をせず、虚偽の記録をし、又は記録を保存しなかつた者』を処罰しているわ。でも、1970年改正では、16条違反が処罰対象に挙げられていないのよ。1968年の段階では、35条3号に『第15条の規定による記録をせず,又は虚偽の記録をした者』とあったのにね。」

「それは、いったいどうしてですか?1970年国会は公害国会といわれて、環境保護の観点から大分押し進めた改正がされたと言われているのですが、この部分の1970年改正はその趨勢と逆行しているように思えます。」ちょっと訳がわからない。


「いわば事業者性善説とでもいえる、『直罰制度が導入されたから基準を遵守するため、事業者は当然に適正に記録をするだろう』と、企業の自主管理に対する全幅の信頼を置いてしまったのね*9。ところが、実際には未記録、改ざんが発生してしまっても、それを処罰する術がない。まさに、事業者の自主的対応に盲目的信頼を置いてはならないといういい例ね*10。」かなめさんは鋭い。


「その観点は1つの重要な観点だけど、もう1つ、規制の手法という見地からの検討も必要よね。大体、規制には、(1)一定の行為の実施(許可申請、構造基準に適合した装置の設置)、(2)一定の状態の実現(排水濃度、高さ等の実現)、そして(3)一定の手続の履践(計画の策定提出、有資格者配置)の3種類があるけど、このうち(1)(2)を実体規制(ゴールの規制)、最後の(3)を手続規制(ルートの規制)と呼ぶわ*11。これまでは、実体規制ということで、環境基準を守るように規制していたけど、これ、特に大気汚染の場合には、直罰での実現がかなり難しいってのは分かるかしら。」


「『直罰制だから違反すれば有罪だ』といったところで、実際には、執行が十分にできないということでしょうか。*12」分からないながらに言ってみる。


「一般論としては、それもあるわね。要するに誰が実際に執行できるかという問題で、ポイ捨て条例の直罰制なんて『張り子の虎』なんて言われちゃってるわね*13。ただ、もう少し本件に即していうと、水質汚濁はまだしも、大気については、排出口において違反状態の確認を行うことの技術的困難さから、直罰は極めて適用しにくいのよ*14。だからこそ、事業者にきちんと記録をさせるという手続規制によって、事業者に排出基準遵守を徹底させ、また、違反の記録・証拠収集に役立たせることができるのよ*15。」


「なるほど、命令前置制に限界があるだけではなく、直罰制も限界があるんですね。環境法のエンフォースメント(執行)の難しさが少し分かったような気がします。」納得の表情を浮かべるかなめさん。


大気汚染防止法の命令前置制でいうと、その限界のもう1つは、その14条で『その継続的な排出により人の健康又は生活環境に係る被害を生ずると認めるとき』という、いわゆる実害要件が規定されていた点よね*16。実は、資質汚濁防止法案の実害要件は、1970年の公害国会の議員修正で削除されていたから、ずっと平仄(ひょうそく)があっていなかった訳だけど、実害要件を要求すれば、アプローチは事後対応的アプローチになり、結局、後手後手になるという指摘ができるわね。平成22年の改正では、未然防止的アプローチの重要性に鑑みこれを削除したのよ*17。」

平成22年改正前14条1項 大気汚染防止法14条 都道府県知事は、ばい煙排出者が、そのばい煙量又はばい煙濃度が排出口において排出基準に適合しないばい煙を継続して排出するおそれがある場合において、その継続的な排出により人の健康又は生活環境に係る被害を生ずると認めるときは、その者に対し、期限を定めて当該ばい煙発生施設の構造若しくは使用の方法若しくは当該ばい煙発生施設に係るばい煙の処理の方法の改善を命じ、又は当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。


平成22年改正後14条1項 都道府県知事は、ばい煙排出者が、そのばい煙量又はばい煙濃度が排出口において排出基準に適合しないばい煙を継続して排出するおそれがあると認めるときは、その者に対し、期限を定めて当該ばい煙発生施設の構造若しくは使用の方法若しくは当該ばい煙発生施設に係るばい煙の処理の方法の改善を命じ、又は当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。 


「つまり、命令前置制と一口に言うだけではなく、その具体的内容によって、使えなくもなり、実効的にもなる、こういうことですね。」目を輝かせるかなめさん。


「また、非犯罪化というのもいわれているわ。行政刑罰が過剰で、執行されない違反が放置され、逆に行政刑罰の威嚇力が低下しているという問題ね。それだったら、刑罰を科すのは本当に悪質なものに限定し、その代わりに、刑罰として残した規定については厳格に執行していく、こういう方向性も提案されているわ*18執行罰(砂防法36条参照)の活用が提唱されているところにも注目ね*19。」


「環境法がいくら『こうしなさい』と書いていても、それが実現されなければただの画餅ですよね。環境法の規定をいかに実効化するかが問われているんですね。」うなずきながら最後の紅茶を飲み干す。


「そうそう、そういう重要な問題に触れることのできる結構本質的で面白いコメントペーパーだったでしょ。お二人には色々と説明のヒントをもらったわ、ありがとう。来週の授業が楽しみだわ。あら?」僕たちのコップをみつめるほむら先生。


「二人とも、カップが空じゃない。もう一杯入れるから、飲んで行かない?」


僕たちは、もちろん、その申し出を喜んで受けたのだった。

まとめ
 ということで、第2回の前に特別編を入れてしまったのですが、第2回、なんとかかんとかできました。
 なお、「法がいくら『こうしなさい』と書いていても、それが実現されなければただの画餅」ということで、民法に書いている義務を履行しない場合に、それを実現させる民事訴訟法について説明した同人誌『デビルほむほむ劇場版法学特別講義〜宇宙人をどう追い出すか〜』冬コミ日曜(29日)東ピ49−bの「QB被害者対策弁護団」のコーナーで頒布いたしますので、どうぞよろしくお願い致します。

*1:BASIC環境法135頁参照

*2:命令前置制の仕組みと、直罰制の仕組みを比較するものとして北村環境法177頁〜178頁参照。なお、同367頁。

*3:北村178,179頁

*4:Basic環境法440頁以下、大塚環境法720頁以下参照

*5:北村環境法177頁

*6:北村環境法177頁

*7:大気汚染防止法36条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前四条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。」

*8:水質汚濁防止法だが、同一日に同一排水口から数個の排水基準に適合しない排出水を排出した行為は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合に当たり、同一の特定施設からの排出水を異なる数個の排出口から排出した場合、および同一の排出口から日を異にして排出水を排水した場合は、排出口ごとおよび日ごとに併合罪となるとした鹿児島地判昭和50年7月9日刑月7巻7・8号797頁参照

*9:Basic環境法156頁

*10:Basic環境法156頁

*11:北村144頁

*12:Basic440頁

*13:北村「自治体環境行政法」279頁、なお、Basic440頁

*14:Basic135頁

*15:資料3「自主的管理のために用いられるとともに(中略)地方自治体による報告徴収や立入検査, 改善命令等の法に基づく措置を行う際に過去の排出の状況を明らかにする重要な資料となってきた。」

*16:1968年の段階では実害要件は規定されておらず、1970年に指定地域制を廃止するにあたり、バランスとして規定された。

*17:北村401頁

*18:北村180頁

*19:北村180頁