第21回立山登山マラニック

8/25(土)AM4:00、浜黒崎キャンプ場に集う250名の変態たち(笑)。海抜0mから3,003mを目指す65kmにおよぶクレイジーなレース。

スタートラインに立つにあたり、実は不安のほうが大きかった。この1年、10km、ハーフ、フルと3種目で自己ベストを更新してはいたけれど、本当に満足のいくレースは出来ていなかった。特に今年に入ってから、能登和倉(42.195km)での脱水による失速、南砺ウルトラ(100km)での75km地点リタイヤと、完全に失敗と総括せざるをえないレースが続いていた。トレーニングはうまくいっていたように感じているのに、結果が伴わない焦り。
それでも、スタート前には、もやもやは消えていた。このレースに参加するクラブのメンバーとは、この夏、一緒に長い坂道をひたすら登り、勾配2ケタ%の急坂を息も絶え絶えになりながら登り、山道を立ちはだかる壁にしがみつきながら登り、空気の薄い標高2000mのロードを喘ぎながら走り、トレイルを何時間も走り込んだりしてきた。個人競技ではあるのだけれど、そんな時間から生まれた同じ目標に向かう連帯感。そしてそのなかでいちばん長い時間をともに過ごしてきたUさんが大会前日にコンディション不良のため棄権の決断をした。この大会のスタートラインに立つことの意味を深く理解しているからこその勇気ある決断だったと思う。いま自分は、夏が来る前には持っていなかったものをたくさん手にしている。早朝から現地に駆けつけてくれたレースに出ないクラブのメンバーに応援されながら、一緒に練習してきた仲間とゴールを目指すこんなステキすぎる時間を前にして、何て小さいことを気にしていたのだろう。完走できるかどうかとか、制限時間がどうだとか、天候がどうだとか余計なことは考えるな。スタートラインに立てたことに感謝して、ここ数か月、積み重ねてきたものを全て出し切れればそれでいい。

・スタート〜大日橋(11km)
海面にタッチしてからスタートする儀式をすっ飛ばしてしまった。いつになったらやるのかな〜、なんてのん気に構えていたらスタート1分前に。「海面にタッチする儀式って」「あ、いま行ってきましたよ。あれは、それぞれ自分でやるんですよ」ええ〜。そして、スタートの合図・・・。

初めての参加で勝手がわからず、スタート時にかなり前方に位置してしまったため、1kmも行かないうちに100人くらい(数えていないけど)に抜かれる。ヘッドランプの灯りを頼りに走るあまり経験したことのない感覚にペースがつかめない。やっぱりガーミン買わなきゃダメかな〜。しかし、みんな速いぞ。こんなんで立山まで持つのか。舞い上がらないことだけを意識した序盤、結果的には想定したタイムで大日橋のエイドに。待っていてくれたクラブのメンバーにヘッドランプを預かってもらい軽量化。さあ、あと54km(笑)ようやく目も覚めてきたし、ここからばんばん順位上げていくよ。

岩峅寺(20km)
16kmあたりの常願寺ハイツの近くでクラブのメンバーが待っていてくれているので、それを心の支えに河川敷の単調なコースに耐える。常願寺ハイツのすぐ横にあるごみ処理場の建物がずいぶん手前から見えているのだが、なかなかつかない。ようやく橋のたもとに応援部隊発見。選手を上回るすごいテンション(笑)での声援に元気をもらう。キロ6分で20km弱を走ってきたので、そこそこ疲労感もあったけど、ほぼ解消。まだフルマラソン以上の距離が残っているけど、絶対イケそう。
岩峅寺エイドでは、空腹感は感じていないが、パンとバナナと果物を補給。AM6:10。二度目の朝ごはん。

〜かすみ橋(31km)
大川寺の踏切を渡るとアップダウン区間のはじまり。3週間前に自転車で走ったばかりだし、この2年で何度も自転車やランで通ったコースなので、状況はほぼ把握できている。登りはそこそこ楽をしつつ、平坦な道ではきちんとスピードを上げることを意識。この10kmは意外に下りも多い区間。下っているときは心地よいのだが、貯金を取り崩している感が切ない(笑)。大会側が準備したエイドが11kmない区間。陽は出ていないものの気温はそこそこ上がってきており、私設エイドに助けられる。呉羽梨、旬だわ〜。自家製の虫よけスプレーまでかけていただき感謝、感謝。ようやくたどりついた31kmチェックポイントのエイドは水のみ(!?)。私設エイドで支えてくれたみなさん、本当にありがとうございます。

立山駅(39km)
常願寺川の右岸に渡った31kmチェックポイントからはずっと登り。急な登りは歩くという選択肢があるのだが、走れてしまう登りが続くたちの悪い区間(笑)。集中が切れそうになる一歩手前、雄山神社前でクラブのメンバーに励まされ、息を吹き返す。弘法の先まで応援に来てくれるTさん・Oさんは、完璧なランナースタイル。「いいペース、いいペース、絶対大丈夫」ここまで予定通りのペースで来れていることを再確認させてくれる。一緒に戦ってくれている感が半端ない。

雄山神社を通過した後、立山大橋を渡りふたたび左岸へ。ここも走れてしまう(笑)長〜い登り。でも、坂の向こうの立山国際ホテル前で応援部隊が2度目のスタンバイをしていてくれる。もう、なんだか走力とか体力とかより応援を自分の力に変換する能力だけで進んでいる感じだな。坂を登り切って、ようやく仲間の元へ。あいかわらずのテンション(笑)。明らかに選手より大会を楽しんでいる。そして、完璧なサポートぶりが有難い。「次は、称名の手前で待っているから」。はい、何があってもそこまでは行きます。いや、頂上まで行くんですが。

山麓スキー場からは長い下り。このレースでおそらく最後の下り区間。こんなスピードで走ることは、この先もうないんだろうな。立山エイドはアイテム豊富。ここまできたら好きなものを、ということでいまが旬の呉羽梨を集中的に(笑)。今年は猛暑の影響で実は小ぶりなんだけど甘いんだよね。
エイド通過は予定より若干早め。ある意味、完璧なレース運び。

〜称名(46km)
フルマラソンの距離を越えたこの頃からあちこちの痛みとか痺れの一歩手前の症状が出たりして、初めて消耗していることを意識する。でもそこに山ガールTさんとKさん登場。応援に来ると聞いてはいたけど、ここでしたかぁ。呉羽梨(どれだけ好きなんだ)とレモンとコーラで完全復活。
もしかしたら最大の難所かもしれないこの区間。関門まで余裕はあるので、適度に歩きを入れて足を温存することにする。桂台手前の比較的平坦な区間で応援部隊の車が次の場所に向かうため抜いていく。車窓越しに、どうしたらそんな大きな声が出せるんですか、というくらいの力いっぱいの応援をもらう。走っているときでよかった(笑)。
激坂区間の手前、桂台の私設エイドで取引先のランニング愛好家の担当者の方から事前にリクエストしておいたスペシャルドリンクをいただく。ちなみに今回の目標タイム設定は、この方が昨年完走したときの記録をベースにしている。「順調ですね」と言ってもらえて勇気百倍。距離は7kmだが、傾斜のきつい登りが続くこの区間で、あの場所での私設エイド設置は神対応だな。さすが経験者はよくわかっていらっしゃる(笑)

称名エイド前の駐車場で応援部隊の最後のサポート。何度も笑顔で支えてもらったおかげで、ここまで何事もなく辿りつけた。居心地が良すぎて去りがたいけど、ゴールを目指さないといけない。
最後にDNSだったUさんとがっちり握手。「山頂の景色、見てきます」

称名のチェックポイントでクラウドからクラウドベンチャーピークに履き替え、ネイサンのリュックを背負い、そうめんをおかわりして山に立ち向かう準備完了。トライアスロン日本代表のFさんのエールをいただき、山へ。待ってろ八郎坂。

〜弘法(50km)
八郎坂と呼ばれる、距離は4kmだけど、一気に600mを上がる区間。ひ弱な都会っ子には難関だが、先月一度登ったおかげで、負荷はそれほど感じない。むしろ全く走れないため、心肺が楽なので、だいぶ回復した気がする(その時はそう感じたけど、たぶん間違っていると思います)。
途中、すごい勢いで下ってくる取引先のNさんと遭遇。週末の朝、よく称名から雄山山頂を走って往復するという奇特な趣味を持つ人。この日も大会に参加しているわけではなく、単なる朝のトレーニング。「ゴールはたぶん室堂ですね。頂上は風がすごいです」と涼しい顔で重要なことを言う。むむむ。でも自分でコントロールできないことを考えても仕方ない。いまはとにかく前(上)に進むだけ。
登山経験があるわけでもなく、試走のときには置いて行かれたので、ぼんやり苦手意識を持っていたのだが、結局このパートで3名をパス。ここで順位を上げられるとは思ってもみなかった。

弘法エイドでゴール地点を確認するが、コース短縮の決定はされていないとのこと。いま思えば、知っていたけど言わない優しさだったのか。

〜弥陀ヶ原(53km)
弘法からは湿原の木道を淡々と進む。この辺りまで来ると前後のランナーもまばらになり、孤独感が増す。ガスでまったく景色が見えないロードを経て弥陀ヶ原エイドに。

そこにあったのは「本日のゴールは室堂(60km地点、標高2450m)」の表示。
正直に言えば、気力が萎えた。覚悟はしていたけど。
室堂の関門時間には2時間近くあり、全行程を歩いても時間内のゴールは可能。早く着いても待ち時間が長くなるだけ、と現実的なことを言っている人もいるし、係員の人も、ここからは勾配もそうきつくないですし、ここにいるみなさんならもう全部歩いても間に合いますよ、とにこやかに告げている。
たしかにそのほうが利口かもしれない。でも、うまく説明できないんだけど、何かが違うんだよな。いろいろな思いが交錯したが、結論は「残り7kmは、がんがん攻める」に決定。

〜室堂(60km)
攻めると言うのは簡単だが、2000mの高地でそれを実践するのはなかなか難しい(汗)。初めて試走したときほどの酸素不足感はないが、足はそれほど残っていない。でも勾配は「ここは歩かないといけないほどキツくはないよね」と語りかけてくる。
残り2km。天狗平にTさんとOさんの姿が。完走が見えて、感情が不安定になっているこのタイミングで現れるなんてズルいよな(笑)。甘いもの好きの私のために用意された(!?)チョコレート。うちのランニングクラブのサポート部隊は偉大だ。
ガスで視界がほとんどないなかを最後の力を振り絞って走る。距離感覚ゼロ。でも、早くゴールに着きたいとは思っていない。ゴールは、すなわちこの楽しかった時間の終りだから。
突然、霧の中から現れた人が「このカーブを曲がったところがゴールですよ。お疲れ様でした」と告げる。あぁ、終わるのか・・・

9時間かけてたどり着いたフィニッシュ地点。
想像していたのとはだいぶ違うけど、達成感は半端ない。
大人げないガッツポーズでゴール。
ゴールテープの向こうには、ゴール担当のボランティアをしている愛弟子が。人が頑張って笑顔を作っているのに、君もズルいだろ、ここにいるの(笑)
富山テレビのカメラが向けられ、これまたズルい質問が。適当に答えておけばいいのに、涙を流しながらアスリートの絆について熱弁をふるってしまう。いくらゴール直後で感動にひたっているとはいえ何をやっているんだ(汗)。あのVTRが特番で使われたらマスコミ嫌いになってやる。

頂上まで行けなかったことは残念ではあるけど、大した問題ではない。レースの1日は、そこまで頑張ってきたご褒美みたいなもので、そこまでの日常の輝きこそがいちばん重要。
このレースにエントリーしたのは、べつに何かを証明するためなんかではなく、ましてや記録や順位のためなんかでもなく、大会HPにあった「人はなぜ海から立山を目指すのか」の答えが知りたかったからだ。まぁ、その答えはレースが終ったいまでもよくわからないのだが(笑)。ただひとつ言えるのは、その答えをさがす旅は、ひと夏をかけて準備するに値する楽し過ぎる時間だったということだ。
一緒にゴールを目指した仲間がいて、コース上で何度も笑顔で応援してくれた仲間がいて、ゴールで待っていてくれた仲間がいて、約束を守ることが出来た。8月最後の週末、足りないものがひとつもない夏の日の午後。

今回の総括。
振り返ってみれば9時間の間、やってきたことはただひとつ「諦めなかったこと」だけ。

・・・

出来るかどうかわからないことに挑む楽しさを満喫したこの夏。エントリーしたのは勢いだったとはいえ、その一歩を踏み出して本当に良かった。この日まで積み重ねてきた少なくない時間が、目指していた結果につながったことが何より嬉しい。そして、もちろん自分では出来る限りの準備はしてきたけど、関わってくれたたくさんの人がいてくれたからこそ、ここにたどり着けた気がする。みなさんのおかげで今年の夏はとてもステキな季節でした。ありがとうございます。

それでも、伸びしろということを考えた時、まだ自分は坂道の途中にいる。
頂上に向かう通過点で、ひとつ確かな手応えを掴むことが出来たけど、坂の向こうにはいままで見たことのない景色が広がっているはず。

そう、いまはまだ夢の途中。
明日も、いいトレーニングが出来ますように。