別冊宝島「僕たちの好きな三国志」レビュー

●巻頭カラー:コーエーゲーム特集

 まずはコーエー開発陣へのインタビュー。大人気シリーズとなった「三國無双」シリーズの話が主だが、多岐にわたる「三国志」ファンを如何に取り込んでいくかというコーエーの戦略も垣間見えてそれなりに面白い。
 他に、無双能力ランキング、「三國志」シリーズレビュー、能力値で見る三国武将ナンバーワン決定戦など。
●メイン:新解釈でよみがえる「95人の人物」と「19の時代」
 この部分のほとんどを担当しているライターは三国志ファンにはおなじみかもしれない大澤良貴*1である。新解釈と銘打つ割には、基本的な内容が同氏の『真実の三国志*2とそんなに変わらない気がする(手元にに『真実の三国志』がないから何ともいえないが)。しかし、図版・人物イラストが入り人物伝が独立したため、『真実の三国志』よりも格段に読みやすく初心者向けによい構成となっている。
 肝心の内容は、まあ大体間違ったことは書いてないと思う。おそらく史実をベースに書いているのだが、ごくたまに演義の影響を受けた記述があったりしますね。あと、宗教に関する記述はやや弱く、個人的にはどうかと思う記述もちらほら。たとえば30ページの張角の欄に曰く、

実は張角の張姓は太平道ではなく、五斗米道で受け継がれる姓である。始祖張陵以来、代々張姓を名乗ってきた五斗米道は、自分の一族を太平道に送り込んだのではなかろうか。
これ、どこかで聞いたことがあるんだが誰の説だったか。アンリ・マスペロ*3か、陳舜臣*4かだったような。うーん、確かに太平道五斗米道の教義は似てるんだけど、それはおそらく源流となるものが同じだったからだと思うんだけどな、個人的に(「黄老道」という信仰が、漢の全土に広まっていたようだ)。このあたり、書いた本人に聞けばいいのだが、俺にはそんな勇気はない。あと、ベトナム孟獲が英雄ってのははじめて聞いた。陳興道*5と比べてどちらが人気あるのだろう。士燮ならベトナムの教科書に大きく取り上げられているらしいが。

●コラム類
 コラム類は数人のライターが書いているが、やはり安定感では神保龍太氏のものがよい。よく調べてあると思うし、三国志以外の知識がものすごく豊富である。
 他に特筆すべきは、志水アキ*6のコラムマンガ(という括りでいいのだろうか)。男女の「三国志観」の相違をたった4コマで表現してしまった傑作です。これだけでも購入の価値ありと個人的には思っています。こんなこというのは俺だけかとおもったけど、すでに先を越されていたり*7
 また、三国志関係のスポット紹介もなかなかよい。特に三国志*8紹介は行きたくなる気持ちを煽られる。
●総評
 三国志初心者には特にお薦めできる内容。中級者でもイケルと思います(中級者だと自負する俺は楽しめた。無論その楽しみ方は初心者と異なるのだろうけど)。この本読んで「ケッ」といえるようになったら三国志上級者、又はタダのひねくれ者です。特に、メイン部分を担当した大澤さん他のスタッフはかなりいい仕事したんでは。これだけ整理して読ませてくれる「三国志概説」はなかなかない。*9大澤さんもこれで名前を売ってマニアックな三国志本を書かせてもらえるようなビッグネームになると面白いのだけれど。これで「無双」から歴史のほうに人が流れてくれるといいなと願いつつ。
 あとは、巻頭のほうでコーエーゲーム特集していましたが、さらに宮城谷昌光などちょいと毛色の違う人のインタビュー持ってくるとかすると、また異なる層の三国志ファンが買ってくれるんじゃないかな。特に宮城谷ファン層は侮れないとみたが。

*1:昔、『ログイン』で「三国時代」という連載を担当し、いまの「正史」ブームにつながる動きの一翼を担った人、らしいのだがそのころはベーマガ読んでたのでよく知らない。私が大澤さんを知ったのは『ゲーム雑誌のカラクリ』という三国志と関係のない本でした。他の主な著書として『三国志新聞』(共著)『ゲーム雑誌〜2』『累卵の朱』など。サイト【OVER LOAD】http://overload-system.com/

*2:出版社:宝島社(宝島社新書)ISBN:4796617221 ありそうであんまりない三国志の概説書として有用だが、いかんながら図版一切なしだったので惜しいなあと思う。三戦板でこの本をお勧めしたら買ってくれた人がいましたが、感想はどうでしたか?

*3:フランスの学者。確か1945年没(確かめてから書けよ)。道教や仏教などの研究成果は1950年遺稿集にまとめられ、日本では川勝義雄訳で『道教』というタイトルで出版されている。多少の勘違いはあるけど(川勝氏に指摘されている)現代でも道教研究家がまず読むべき本。『道教ISBN:4582763219

*4:歴史家かつ小説家という立場のため、どこまでホントのことでどこからが陳舜臣ワールドなのか見分けのつきにくい文章を書く人。

*5:参考  http://www5d.biglobe.ne.jp/~s-m-r/history/tran_hung_dao.html ベトナム陳朝の英雄。

*6:漫画家。よく大澤氏の本のイラストとかを担当している。現在、コミックフラッパー誌上にて、後漢末を舞台にしたファンタジー『怪・力・乱・神クワン』ISBN:4840104824 を連載中。チビ曹操と張奐のヒゲに萌え。サイト【ヒゲズシ】:http://www.hige-system.com/

*7:http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1051326397/7

*8:http://www3.ocn.ne.jp/~sangoku/

*9:これを書いている途中で、大澤さん直々の反応があったので大変このあたりを書くのがやりにくい(リンクしようと思ったら削除されてしまったが)。うーん、確かにこの本はマニアックな人に向けてかかれたもんじゃないのだろうけど、だからこそ正確を期してほしいところがあるんです。俺の三国志関係の師匠が道教系の研究をやっているので、あえてそのあたりを突っ込ませていただきました。先の引用部は、それこそマニアックな三国志論方面向きじゃないのかな?でも、そういうこと書かないと張角の記事は難しいです。歴史上の重要人物なのに、ろくな事績がわからないから物書き泣かせかも。その分創作なら自由に妄想できるけど。