誤解しているのは誰か

 知人からメールがあり、幸田さんの遺体と確認とのこと。久しぶりにNHKでニュースを見る。本当に残念です。ニュースでは、ザルカウィがいかに残忍な「テロリスト」であるか、ということが強調されています*1。しかし、最後に一瞬触れられていますが、米軍は、ザルカウィファルージャに潜伏している、として、ファルージャ空爆を続けている。この米軍の「無差別テロ」によって、今なお多くのイラクの人々が虐殺され続けています。そしてその一人一人の死は、ニュースにすらならない。この圧倒的な非対称に思いをはせねばならない、と思います。
米軍、ファルージャとラマディで大規模な攻撃を準備
イラク駐留米軍がファルージャ空爆、3人死亡
米軍がファルージャ空爆、11人死亡・17人負傷
 官房長官が「イラクの友人として、自衛隊の人道復興支援を引き続き行っていきたい」というようなことを言っている。繰り返しますが、自衛隊が行っているのは、人道復興支援ではない。例えばイラクのRaed氏による日本人への公開書簡でも、自衛隊は「日本の軍隊(military Forces)」「あなたがたの国の武装集団(your military groups)」と呼ばれている。「それは誤解だ」と言う人もいるのでしょうが、誤解しているのは、いや騙されている、いや騙されてすらいない、体よく誤魔化されてしまっているのは、一体だれでしょうか。

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 イラク特措法には、自衛隊派遣の目的は「人道復興支援活動及び安全確保支援活動」であると定められています。ところが、「人道復興支援活動」に従事する自衛隊員はわずか120人(浄水・給水活動30人、「自衛隊員の治療と合わせて」現地の医療支援活動を行う衛生隊40人、「宿営設営後に」公共施設復旧活動にあたる施設隊50人)にすぎません。一方、イラク国内およびインド洋上で活動を行っている自衛隊員は1,600人以上。つまり、残りの約93%の隊員が行っているのは「安全確保支援活動」であるということができます。

 ここでいう「安全確保支援活動」とは、自衛隊自身の安全を確保する活動ではありません。(……)平たく言うと、「事実上イラクを占領している米英両国の軍隊の活動を支援する」ということです。

 93%が米英軍の支援を行っている活動を、「人道復興支援」と呼ぶ、というのは、t-b-sさんが言うように「梅干しの入ったおにぎりを「梅干しである」と強弁するようなもの」です。いや、しかしこれはt-b-sさん、間違っていますよ。おにぎりの重さは100gで、梅干しの重さは15gだとすると、梅干しは15%をもしめています。自衛隊の人道復興支援活動はその半分、たったの7%。ほとんど、メロンパンをメロンと強弁しているようなもので、そんなものをあっさり信じている、いや信じてすらいない、あっさりやりすごしてしまっている「われわれ」日本人とは、どうかしているのではないか、と思います。

*1:もちろん、犯行声明もないし、ザルカウィ一派による犯行かどうかだってわからないともいえる。とにかく、現在、ほとんどの報道が米軍の情報の垂れ流しである、ということも念頭に置かないとまずいと思います。

謝るべきなのは誰か+物見遊山と決めつけるな

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「自業自得だから」とか「自殺行為だから」という理由で,あたかも「当然の結論」であるかのように「ほっとけ」という意見があるけれど,「自業自得」であろうが「自殺行為」であろうが,それを理由に助けずに放置しておくことは,今の日本で生活しているわたしたちにとって当たり前の道徳,あるいは規範ではない.

id:amai_oyatsu:20041028#1098965671

たとえばアメリカは人質に取られ殺されても撤退させていないが,その結果「標的にしても無駄だ」とはならずに次々と殺されている.「毅然たる態度」,言い換えれば犯人の要求に応じず,イラク市民の虐殺(イラク市民から見れば「テロ」)を続ける行為によっては止める事はできない.

イラクは危険だ」と,まるで「イラクは暑い」と同じような感じで言われる.しかし,日本政府が支持した侵略戦争が始まる前のイラクは,外国の一般市民が命の危険を感じることなく入れるような場所だった.それまで保たれていた治安をメチャクチャに破壊し,ザルカウィなる人物を登場させたのはいったい誰だ?
(……)

日本国民(だけに限られないが)を危険と隣り合わせでなければイラクに滞在できないようにしてしまったこと,治安を破壊したことの責任こそが問われなければならない.「国民がイラクに安全に滞在できないようにメチャクチャにしてしまって申し訳ありませんでした」と,謝罪すべきは政府のほうだ(イラク国民に対してはもちろんだが).

 ほんとにそうだと思います。その上で、色々たどって見つけた以下の情報。

(……)
 たとえ、本人の不注意から人質になったのであったとしても、日本人であるがゆえに武装勢力に死刑宣告されるのであれば、日本政府にその責任の一端はあるはず。48時間以内の自衛隊撤退の要求に対し、即座にこれを拒否したコイズミこそ、その最高責任者。世論・マスコミはまたしても「自己責任」の大合唱で、日本政府の対イラク政策の誤りを糊塗しようとしているが、そんな情報操作に惑わされてはいけない。最初からボタンの掛け違いを認めようとせず、犠牲者を増やしている政府こそまず指弾されるべきだろう。
 今回の香田証生さんの名前は「生きるための証を求めるため」両親が付けたのだという。それからわかるように、両親は敬虔なキリスト教徒であり、日本聖公会系の直方教会に所属するらしい。日本聖公会キリスト者として、イラクへの米軍攻撃に反対しており、今年2月にはパレスチナを訪問。イスラエル政府のパレスチナ人弾圧に対しても、きわめて明確にこれを批判している。プロテスタントカソリックの中間に位置する「中道」の教会を自称しながらも、「正義と平和」への発信を続けている、いわば「行動する教会」といえるだろう。
 聖路加国際病院聖ルカ礼拝堂もその教区の一つ。
 マスコミにリークされている香田さんに関する情報では、「安易な物見遊山」「自分探しのお気楽旅行」と喧伝されているが、彼の母親が言うように、心の優しい若者であり、イラク問題への関心も人一倍あったはず。単に物見遊山でイラクに入ったわけではないだろう。
 政府は香田さんのバックグラウンドにある「聖公会」も十分に承知の上で、情報操作をしたといえる。
 仮に、拉致されたのが、政権与党の一員である巨大宗教団体の信者であったとしたら、政府はどう動いたか。コイズミは即座に要求を拒否しただろうか。読売新聞の記者が拉致されたら、香田さんへの罵詈雑言と同じ言葉を読売は自分の紙面に掲載したか。
 ネット上で氾濫する香田さんへのバッシングには吐き気がする。最低な人間たち。(……)

 最近ろくに新聞も読んでいないので(テレビは前から全然見ていない)、この情報は今のところ上記のサイトから得たのみですが、ちょっと注目しておきたい。
 もちろん、両親がイラク攻撃に反対する教会に所属する敬虔なキリスト教徒だからといって、その息子がイラク問題に関心が人一倍ある、とは限らない。またさらに言えば、イラク問題に関心があったからといって、不注意が許されるわけでもない*1。しかし、事柄のどの部分を報道するかによって、いくらでもイメージというのは作り出せるのだということは、改めて、肝に銘じておいた方がいいな、と思った次第。
 ※念のため、(……)は私の場合「引用者による略」です。

*1:伝え聞くことを信じるとすれば、今回の彼の場合、あまりに、現地の状況や歴史に関する知識が不足し、危機意識が欠如していた、というのは認めざるを得ないように思います。繰り返しになりますが、だから見殺しにしていいということにはなりませんが。