軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

ロシア機の「領空侵犯」

今朝の産経新聞に「ロシア機が7回領空侵犯」と出ていた。領空侵犯された空域は千歳基地から離れているため、私の現役時代にも警告を無視した「ソ連機」が良く侵犯した「礼文島周辺」であり、当時は切歯扼腕したものであった。
防衛庁は25日、同日午後7時過ぎから約30分間にわたり、北海道礼文島北方の日本領空をロシア機と思われる航空機が7回にわたって侵犯したと発表した」というのだが、よく読んでいくとこう解説されている。
海上保安庁によると、午後6時過ぎ、ロシア国境警備局(FPS)から「日本の領海に向かっているロシアの漁船の捕捉に協力して欲しい」と要請があり、第1管区海上保安本部が航空機などを派遣。午後9時過ぎ、礼文島沖の(日本)領海内でロシア漁船「GRODNO」号を発見。同船は同10時過ぎ、領海外に出たが、その後、FPSから「漁船を確保する」と連絡があったという。領空侵犯機は、同船を追跡していたFPSの航空機と見られる」
確かにこの経緯を見る限り「領空・領海侵犯事例」であることに間違いはない。しかし何か腑に落ちない。つまり「領空侵犯回数に7回加えること」は仕方ないにしても、仰々しく「領空侵犯!」と騒ぎ立てる性質の問題なのであろうか?
少なくとも今回は「FPS」から事前に通報があったのだから、日露共同して何らかの違反行為が推察される「GRODNO」号捕獲活動として捉えることは出来なかったのであろうか?
9・11以降、テロとの戦争が各国の緊要事になっている現在、連携して「捕捉する事態」は当然考えられる。双方の「主権」を尊重するのは当然だが、領海・領空が接する場所での航空・海上活動に関する何らかの取り決めが必要であろう。
ソ連の戦闘機が大韓航空機を撃墜したモネロン島周辺での小競り合いは凄まじいものがあったが、あの時は「冷戦」のさなかであった。わが国もその昔、沖縄本島上空を二度にわたって「堂々と」領空侵犯したTU-16電子偵察機に対して警告射撃をした。軍用機に対しては撃墜も辞さぬ対応が必要だが、今回はどうもしっくりしない。
わが国は四面環海、対馬海峡では韓国と、東シナ海では中国と、南西方面では台湾、中国と近接している。入り組んだ国境線や、防空識別ラインがある。
互いに連絡を密にしなければ、不測事態から「紛争事態」に発展しかねない。
昨年11月、中国での安保対話で、沖縄、台湾周辺での「衝突防止のための具体的提案」をしてきたのもそれである。陸上で国境を接する国の間にはこんな事態は起き得ないが、海を接する国家同志では避けられないことである。対馬海峡を巡る、同様な事例については、日韓間のホットラインが有効に機能している(と聞いている)。
ロシアについても、今回通報があったらしいから、海保と防衛庁間の連絡が不十分だったのだろうか?
少なくとも日露、日中、日台間でも、衝突防止協定を締結すべきだと思うのだが・・・
第一線で任務についているパイロット達や、海上保安官達は、命のままに行動するように訓練されているから問題は政府にある。
その昔、ソ連原子力潜水艦が火災を起こして浮上、沖縄と五島列島のわが領海を侵犯したとき、日本政府は大騒ぎした結果、「領海に侵入した時点では領海侵犯といえるが、その後通報によって無害航行である」と官房長官が公表した事があった。現役だった私は政府の弱腰にあきれたものだが・・・。その例に従えば、今回の場合も双方が了解しあった「無害航行事例」として、仰々しく「領空侵犯」とさわぐ必要はないのではないのか?
北朝鮮工作船が、能登半島沖から日本海を縦断して逃走を図ったとき、確かロシアの沿岸警備隊は、海自のP-3CADIZ内の飛行を許した?と記憶している。当然、現地司令部では「領空侵犯」は主権を侵されることになる以上許可できる問題ではなかったろう。
韓国による竹島領空侵犯事例には「無言?」を通し、通報してきたロシアには「領空侵犯!」というのはいかがなものかと感じた次第。勿論、相手国の主権を軽視する行為は絶対に賛成できないのは当然である。
とまれ、厳冬の北海道北端の、しかも夜間に厳正なスクランブル対処をしたF-15パイロット達には「ご苦労さん!」と労ってやりたい。