書店で平積みされていたこの本、表紙の文字「リベラルはなぜ勝てないのか」が目に飛び込んできた。アメリカ大統領選でトランプ氏が当選したことより、もっと身近な問題として丁度そんなことを考えていたからだろうか。
社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
- 作者: ジョナサン・ハイト,高橋洋
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2014/04/24
- メディア: 単行本
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『社会はなぜ左と右にわかれるのか』 神は細部に宿り給う
shorebird 書評「社会はなぜ左と右にわかれるのか」
ずっと抱えてきた問いに、多くの回答をくれる本だ。過去の研究者、その論文、多くの調査結果やエピソードを踏まえて持論を展開しているが、それがまさに自分にとって知りたかったことだ。漠然と経験値で持っていた判断基準について、多くの裏付けが得られる。繰り返し目を通すことになると思うが、こうしてまとめてくれた一冊に出逢えて非常にありがたい。
著者:ジョナサン・ハイト氏がTEDに登壇した動画(日本語字幕あり)を見つけて視聴したら、情報の密度に脳が覚醒したw 賛同できない点もある(後述)けれど、だからこそ考えさせられ、個人的に得られたものが多い。
TED日本語字幕「ジョナサン・ハイト リベラル派と保守派のモラルの根源を語る」
動画の内容まとめ The moral roots of liberals and consevatives 保守派とリベラル派の道徳的なルーツとは
【道徳基盤(モラル・ファンデーション)理論】
http://www.moralfoundations.org/
何よりも大きな収穫は、この理論?に関する知見が得られたことだ。
【A:個人の尊厳】
1.傷つけないこと(Care/harm)
2.公平性(Fairness/cheating)
【B:義務への拘束】
3.内集団への忠誠(Loyalty/betrayal)
4.権威への敬意(Authority/subversion)
5.神聖さ・純粋さ(Sanctity/degradation)
文献によって表現に違いがあるようだが、5項目のうち、1と2が「A:個人の尊厳」、3と4と5が「B:義務への拘束」にまとめられる。これをモラルのチェックリストとして、Aが高ければ「リベラル」、Bが高ければ「保守」、どちらも低いと「リバタリアン」、ABの双方が高いと「宗教的左派」ということらしい。(詳しくは、こちらのリンク先 「倫理的立場」で。また手抜き・・・)
「リベラルはなぜ勝てないのか」という問いには、どの集団の票が最もまとめやすいかを考えれば自明である気もするが、著者の主張は少し異なる。自分が賛同できないのは「保守のモラル意識はABの双方にある」として、Aのみを重視するリベラルを暗に「視野が狭い」ように格下扱いしている点だ。調査結果によるらしいが、日本の保守はAの意識が低いと感じるのだが認識が誤っているか?保守とリベラルの定義は国により大きく異なるらしいので、単純に日本に置き換えられないようだ。
これらの情報にひと通り触れてみて認識を改めたのは、自分が「リベラル」に極端に偏っておらず「保守でもあった」ことだ。日本では「宗教的左派」の良い事例がないらしいのでピンと来ないが、確かに「4.権威」以外は仕事でも私生活でも大切にしている。(権威には全く良いイメージがなく、むしろ憎んでおりw 手に入れることも拒絶してきたが、その理由も一度ちゃんと見つめ直した方が良さそうだ・・・)
また、異文化との協業、アウェーと言える転勤&駐在生活への適応についても、この観点から事前に向き/不向きの適性をチェックできそうだ。大きく捉えれば「変化や異なる習慣に対する姿勢」でもあり、モラルに欠ける?リバタリアンが適応力、個人としての生存能力が高いと言えるのはちょっと残念・・・但し、個人でのサバイバルと、チームで成果を出すことは全く別の目標設定になる。負の連鎖が起きるチームと、V字回復できるチームがどう違うかはここでも合理的に整合性がつく。
過去に自分の仕事のやり方や人格について、不本意な評価をされたことがあったが、リバタリアンから、保守から、リベラルから、それぞれどう見られていたか考えると残念ながら腑に落ちた・・・orz モラルの相対性理論か。。己の価値観を周囲に押しつけるのは自重しなければと改めて肝に命じてみたものの、一方で高い評価が得られた仕事がどのような性質のものだったか振り返ると、これ・・・自信を持っていいところでは???
社会心理学は全くの門外漢だが、最近の課題も自身の興味もこのあたりになりつつある。ビジネスを単純な生存競争と考えるとモラルは足枷にしかならないようでありながら、リバタリアンでは短期的には有利でも持続性に問題がある。「宗教的左派」について「ビジョンを持ったリベラル」と捉えると肚に落ちた気がした。
※追記:モラル・ファンデーション入門編としては、こちら↓の本がおススメ。
脳に刻まれたモラルの起源――人はなぜ善を求めるのか (岩波科学ライブラリー)
- 作者: 金井良太
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/06/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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