杜の都のSF研日記(アーカイブ)

旧「杜の都のSF研日記」http://d.hatena.ne.jp/sftonnpei/ 内容を保管しております

拍子に表紙で評した話 またはSFと表紙の奇妙な関係

「海外のヤングアダルト小説を、早川書房メディアファクトリーが日本で出すとこうなる」
http://d.hatena.ne.jp/Iron-9/20090202/japanize
を読んで。本人は日本版の表紙をたいそう喜んでいるらしい。
 ウェン・スペンサー作品はずっと前書いたが、ノリは完全にライトノベル。『ティンカー』は中国のワープ実験の失敗によりファンタジー世界につながってしまった田舎でスクラップ屋をする天才少女の話。悪くはないんだが日本人には中国とチャンポンの「オニヒダ」の描写がいまいちかも。女たちの王国は未読だが、なにやら異常にマッチョな女性ばかり出てくるらしい。日本の同様の作品とは違うようだ。
 最近読んだ『エイリアン・テイスト』は米国SFドラマ+ホームドラマ風味。狼に育てられ、相手の血を舐めただけで居場所を突き止める野生の能力を持つ青年がFBI女性捜査官と組んで事件に巻き込まれる。世話になってる家の様子とか走りや集団の抗争なんかがいかにもそれらしいあたりは楽しい。ただ、狼狼と強調しておいてタイトル通り宇宙人のほうに話が行くのはなんだか不満。太古より暮らしていた連中との邂逅云々という点で、SFよりむしろファンタジーで突っ走った方が面白くなかったか?と思う。まぁ自分が「ティンカー」読んだ影響もあるか。

エイリアン・テイスト (ハヤカワ文庫SF)

エイリアン・テイスト (ハヤカワ文庫SF)

「刀は消えてるな。”オタク”がいたのさ。きっと日本アニメ・ファンだ。」

犯人の遺留品であるカタナの鞘に対する主人公の考察。日本刀持ってる奴はすべからくアニオタかい!・・・日本文化ってこういう風に誤解されていく訳ですね。
(追記)
海外で言うところの日本刀とは日本のものとは全く異なるもののようです。しかも規制されないとか。なんてこった
>火薬と鋼:「日本と世界の日本刀概念のズレ」
http://d.hatena.ne.jp/machida77/20090916/p1


いや待て。日本生まれのファンタジーを海外に輸出すると同じ事が起こるのかもしれない。
「こいつケルトと北欧明らかに混ぜてやがる」「ドイツ語人名おかしいだろ ワタナベタナカ氏みたいになってんぞ」「日本刀一つで現代武器を持った人間が全滅とかどうよ」云々。海外で出版される日本のライト系作品でも表紙はそのままの場合もあればあっちで独自のという場合もあるようだ。ニコニコだと主題歌のアレンジなどで「空気の読める国ドイツ」などと言うようだがそればかりでもないらしい
>SSMGの人の日記 「海外版ライトノベル「PopFiction」は表紙がアニメ絵じゃない?」
http://d.hatena.ne.jp/megyumi/20060803/p3


 早川文庫の表紙に関して言えばここまで「狙って」きたのはごく最近。一番騒がれたのは『コラプシウム』かな?再販でも大幅に変わるのものがある。『ジョナサンと宇宙クジラ』は知っている限り3回変わっている。それぞれ特徴的。…一回目が独特なだけか?というか二回目の方がむしろ狙っている?なんせ「宇宙クジラ17歳」という話だけに。(オィオィオィ)

神林長平『今宵銀河を杯にして』は連載時&単行本の横山宏or文庫化直後の小林源文版が好きだったが最近変わってしまった。ちょっと悔しい。

一方で『戦闘妖精・雪風』は航空技術の発達もあるので変化は必然な気がする。この調子だと航空技術の発達で雪風の機動を全部再現できそうな気もするしなー。特にロシア機。フランカーで横軸回転はまだですか(無茶言うな)


早川文庫の表紙で大チョンボと言えば谷甲州『最後の戦闘航海』。内容は第一次外惑星動乱後の掃海処理を任された敗戦国側の部隊の話で非常に良いのだが…

誰が悪いとは言わないが何故にギャラクティカ
分からない人に説明しておくと、谷甲州「航空宇宙軍史」は敵との相対速度(たいてい秒速数十キロメートル)・太陽からの距離・背景にある星*1・撃破された機体の破片や噴射したガスの影響まで考慮に入れる宇宙戦闘が展開されるガチガチのハードSF。しかもシリーズでは初期〜中期にあたる話なので宇宙船と名のつくものはすべからく機体の半分以上が燃料タンク、そんな兵器ばかり登場する作品ゆえここまでスマートなフネは存在しないはず、ということ。ましてや流用。いつもなら横山宏の表紙絵なのだがこのときは木嶋俊。手一杯だったとか?

氏の代表作「惑星CB-8越冬隊」で比較。左端が初版(海外作品でお馴染み鶴田一郎)、中央がおそらく一番流通していた版(歴代と同じ横山宏)で右が最新版(ゲームのキャラデザが有名な山下しゅんや)。寒さがこっちにまで伝わってくる三種。甲乙つけがたいですな。


SF以外で自分が好きな系だとトム・クランシー『日米開戦』の下巻。作中にラプターコマンチ*2は出るがF-117は出てこねーぞ!!! ステルスらしい形状と言えばナイトホークなのは分からなくもないんだが。クレイグ・トーマス『ファイアフォックス・ダウン』の単行本も赤い星をつけたF-15のシルエットだった。「MIG-31」なんだからそこはちゃんとミグベースにしてくれ・・・ 文庫版では願いが通じたのかMig-29ベースのステルス機、というカッコいい仕上がりになっている。

そういや「ファイヤーフォックス」映画タイアップの表紙は見たこと無いですな。ポスターは結構カッコいいと思うんだが、内容の渋さとバランスが取れないかな。

ライトノベルでの描写と表紙の相違はよく言われる
>404 Blog Not Found:「それ以前に、作品ちゃんと嫁>イラストレーター」
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50862763.html
が、ミリタリー物は昔から非常に多い。全部読むのは無理にしても注文する側が「これこれ出てるのでまぁ組み合わせてねよろしく」、ぐらいは言っておいた方がよいのかも。最近は仮想戦記ものでもちゃんと内容に沿った濃ゆい超兵器が表紙のことが多くなったかな。内容とリンクした絵と言えばスタジオぬえ+ハードSF関連が非常に評価が高い。『バビロニア・ウェーブ』&『遺跡の声』の巻末には加藤直之が描く際に使った資料もあるので、あんなばかでかい建造物スケール感つかめねぇよ!という人はまず先に読んでおくのも手。


昔小学生の時図書室で読んだ推理小説では「表紙絵がミスリード*3」というものがあった。読み終わったときやられたー!!と思ったが最近はそういうのあるのだろうか。


話は大幅に変わるが「ハイペリオン」映画化の話が現実味を帯びてきたようで。
>見てから読む?映画の原作 【映画】「地球が静止する日」のスコット・デリクソンダン・シモンズの「ハイペリオン」を映画化?
http://hamchu.exblog.jp/7875900/
シリーズでは文庫化に合わせて新作まで書いてくれた生頼範義のイラストの力は偉大だと思うのでここは日本版ポスター*4もぜひぜひ。正式に制作も決まってないのにかっ!

*1:太陽などが背後にあると強烈な電磁波が来るのでセンサーを制限しないといけなくなる

*2:史上初の本格ステルスヘリだったが現実世界ではいらない子扱いされて量産計画は中止に ナム

*3:被害者を抱え上げている犯人のシルエットがとある無実の登場人物まんまだったり、被害者の襲撃シーンが実際のものと違っていたり

*4:氏が世界的に実力を認められたのは「スターウォーズ 帝国の逆襲」ポスターに採用されたため

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空飛ぶ実験室でワルツを

映画はあんまり評価されてないが小説の方は個人的に大傑作と思っている『2010年宇宙の旅』に、映画「2001年宇宙の旅」に関する興味深い記述がある。あのディスカバリー号の人工重力ブロックで飛行士がランニングしながらエアボクシングをしているところ。

これしか見つからなかったので音楽はご勘弁を(汗)

それから十年近くののち、大成功をおさめたスカイラブのクルーが、ステーション内部にこれと似た構造を発見した。壁面にぐるりと取り付けられた貯蔵用の箱が、うまい具合になめらかな円弧を描くのである。スカイラブは回転していないが、才気煥発の住人達はそれくらいのことではくじけなかった。やがてリスかごに入れられたハツカネズミ式に、トラックをただ走りさえすれば、『2001年』のあの場面とほとんど見分けのつかない情景になることがわかった。

昔からこの部分が気になっていたのだが、インターネットの発達がついに本映像の視聴を実現!ブツはディスカバリーチャンネルの公式動画。たしかにこれは映画ファンも宇宙開発マニアも必見。
http://www.youtube.com/watch?v=S_p7LiyOUx0 (どうやら、公式なので埋め込まれたくないらしい)
飛行士がカメラ持って走っているあたりは圧巻。ただ、ディスカバリー号ぐらいの半径だと遠心力の差が大きいので居心地の悪さを感じるらしいので実際に作るのは難しそう。
本当ならスペースシャトルで再利用する予定だったのだが現実はご存じのとおり。無人ドッキング技術を鍛えておけば何とかなったのに残念。
(ちゃあしう)