杜の都のSF研日記(アーカイブ)

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長谷敏司 「あなたのための物語」

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

<何かお役に立てますか?>

元は真空作業事故での脳損傷を補うために造られた疑似神経、そのさらなる市場応用を目指して開発されたのが利用者間で経験・感情やを直接伝達することができる脳内人工言語ITPだった。その能力証明のため、ITPで作った疑似人格で「創作」能力を示そうとする経営者兼研究者サマンサ。だがITPを移植した矢先に自分の余命があと半年であることが判明する。彼女は残りの生すべてをITPの抱える問題解決に注ぐことを決意する。そんな彼女に疑似人格<>は彼女のための物語を紡ぎ始める。


たしかにこれは凄い。凄過ぎて確かにどう表現すればいいか分からない。本当にロリキャラとか出てこないし(コラ)。人間の最期というものを包み隠さず見せるさまは壮絶。しかしそれだけではない。
人工物語というと円城塔『SRE』や法月綸太郎『ノックス・マシン』といった(ある種人を食った)作品が真っ先に思い浮かぶ。というかこれまでの人工知能による創作の取り組みがカオスな結果を生んでいるからではあるが。だが本作では疑似神経という「人間とほぼ同等の部品で組み立てた」人格が人間のような創作を目指し、やがて人間とは違う境地に達するとともに、「物語」の本質を見抜く。物語の終わり、テキストの終り、役割の終り、生命の終り。物事の一回性がこの世の本質なればフィクションの立ち位置とは何なのか。いったんはその役割を終える「物語」に感動し(やっぱりあのシーンが締めで、「自分」との対話はあくまで余韻な感じがする)、改めてエピローグを読むとやはりジンとくるものがある。


ちなみにこれを読む前〜最中に必要に駆られて読んだのが神林長平死して咲く花、実のある夢。」だったので、「死」のイメージが正反対過ぎて(お互いにだが)ちょっと面食らった*1。まぁ読書ではこういうこともある。

*1:順番考えて読みなさい俺

早川書房編集部「神林長平トリビュート」

「方程式は死なないだろう」地球から離れてここまでやってきておいて、同僚は言う。
「比喩だよ」
「出来が悪い」
「それは認める」

神林長平トリビュート

神林長平トリビュート

序文を読むとやはり氏もそろそろ先を考えてしまうお歳か…とちょっぴり不安もある。
猫出して登場人物に「フム」ではなく「フムン」と言わせれば神林長平、なんてことはなくちゃんと前者も後者も無い作品があるのでご心配なく(誰だよそんな心配をする奴)。『完璧な涙』や『敵は海賊*1みたいな繋がりを結構感じる作品と、『七胴落とし』『我語りて世界あり』のような独自方向の作品に走ってる作品と二種類ある。
ほとんどの作品で読んでると「神林感」を感じてしまうのはやはり刷り込みなのか。細かいネタも神林仕込み。個人的な好みはベタではあるが一番最初『狐と踊れ』と巻末『言葉使い師』。前者は本編と逆で「臓物」が主人公、後者は言葉の魔力をさらに突き詰めた方向に進んでいる。『魂の駆動体』もあんまりSFしてないが本編の老人たちの苦闘を思い出して微笑ましい。
Enjoe氏の『死して咲く花、実のある夢』は氏の中では分かりやすい作品になっているような気もする。原作で無理矢理3匹にしていてあまり意識されないアレを2匹に戻しているのはまぁ「元の方程式」に忠実ではあるか。
雪風火星三部作はちょっと題材がはっきりし過ぎているゆえに誰も挑戦しなかったか。最近書いてないアイツに後者を書かせてアニにアレが登場した責任を取らせるとか。いえ、何でもないです。伊藤計劃氏の『過負荷都市』は残念ですのぅ。
戦闘妖精・雪風解析マニュアル

戦闘妖精・雪風解析マニュアル

氏の作品全般についてはこれが詳しいかな。いまならほとんどの作品が(表紙はラノベ調)手に入る。

*1:主人公の正体は中盤ぐらいであっさり分かる。まぁ元の候補が少ない+シリーズ一作限りの敵は出せんか。

山本弘「MM9」

まあ、あんなあどけない顔で、質量保存則をあっさり破ってくれちゃって。

MM9

MM9

もっと早く読んどきゃよかった。
怪獣災害というものが実在する世界。怪獣対策は予測から、ということで日々怪獣に立ち向かうは我らが気象庁特異生物対策班「気特対」!ただし戦闘力はないのでそのへんは自衛隊にお任せ。彼らの仕事は果たして人々があこがれる正義のエリート公務員なのか??
いやぁ、軽いのに読ませる。二話にして氏の最大の趣味全開だったりするのは人によってはドン引きだが*1、「そういえばニューギニアから密輸されたオパールが怪獣の卵だったという話があったな」等のニクいネタセレクトはうれしい*2。その一方でSF方面とホラー方面、さらには諸星大二郎テイストの民俗学の方面で大量の設定を盛り込んでるのにバリエーションと持っていき方のため飽きさせない。怪獣の出現理由が「人間原理」の拡張版、ビッグバン宇宙と神話宇宙の二つの宇宙のぶつかり合いで説明されたり、各地に残る神話から怪獣と世界の関連を探ってみたり。そして本作もまた氏の他作品同様、登場人物たちの「選択」が光る作品でもある。山本弘は一時柳田理科雄にケンカを売ってまぁ色々やった挙句今は接点も何もないようだが、本作は柳田氏に対するSF作家なりの「回答」と言っていいんじゃなかろうか。
こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』

こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』

本書はちょっとケンカ腰過ぎるがね。
最終話は文字通りの「黙示録」最終決戦であり、怪獣ものとしてはお約束の怪獣対決ものでもある。ちゃんと「ふんぐるい〜」も唱える!と感動(?)もひとしお。かの小林泰三「AΩ(アルファ-オメガ)」も特撮+クトゥルーを目指してたわけだが、後者に重点が置かれていてちょっと前半とはアンバランスになっていた。本作は「本作世界の成立」にまでちゃんと繋がっているあたりは感心する。両作の人類の味方の競演とかどうでしょう(両方とも外観的な問題で無理無理無理ィ!)
ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

これだけで話は一応収拾はついているのだが、番外編短編ぐらいは(ネタも豊富だと思うので)作ってほしいものだ。…そうだ、宇宙怪獣が出てきてないではないか!もちろん登場シーンで宇宙ステーションを飲み込むのお約束だよね(ぇー

*1:あるいはア○ネス呼び出し

*2:でもやっぱり全てが理解できるわけではない。解説本が欲しいくらいだ。

その他もろもろ

・ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク全三巻で自分の望んだ短編はほぼ収録されたのがうれしい。あと自分の好きな「2010年宇宙の旅」も新版で出るとか。ちょうどエウロパからはいい結果が得られているそうで
木星の衛星エウロパに魚が生息?
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=58116451
次に行く時は熱源の位置に気をつけるんだぞ!奴ら魚だからって舐めるんじゃないぞ!
・もう追悼企画は結構です というか今年も多かったなまったく。でも御三家のうち一人はそろそろ危ないかな?心配。
(ちゃあしう)