日本とロシア

一条真也です。

今日は、早朝からバタバタしていて新聞をまったく読めませんでした。
夕食後に「朝日新聞」を手に取ると、トップの見出しが「国後支配 ロシア本腰」でした。
先日、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土国後島に足を踏み入れました。
旧ソ連以来の最高指導者としては初めてでした。
ロシアは、本格的に北方領土での発展計画を進めるようです。


                  12月5日付「朝日新聞」朝刊


また、新聞のテレビ欄を見ると、今夜からNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」の第2部が放映されることを知り、あわててテレビのスイッチを入れました。
20時になっており、すでに30分ほどが放映されていました。
朝日がNHKを意識したのかどうかは知りませんが、今夜の「坂の上の雲」はまさに日本とロシアの関係を描いていました。



形ばかりの日英同盟に期待せず、日露同盟を夢見た伊藤博文
その伊藤とともに、両国の戦争を回避しようとするウィッテ。
6年におよぶロシア赴任を終えて、日本に戻る広瀬武夫
その親友であり、後に日本海海戦で世界最強とされたロシアのバルチック艦隊を破る秋山真之。それぞれの活躍や心の動きが描かれており、興味深く鑑賞しました。



司馬遼太郎は、『坂の上の雲(7)』(文春文庫)で、「ロシアがアジアの覇者になることを怖れ、極東の弱小国にすぎない日本を支援し、これと日英同盟をむすぶという、外交上の放れわざをやってのけたのは、英国の伝統的思考法から出たものといってよく、その英国の伝統的外交政策を可能にするのは、情報であった」などと述べています。
また日露戦争については、『坂の上の雲(8)』において、「要するにロシアはみずからに敗けたところが多く、日本はそのすぐれた計画性と敵軍のそのような事情のためにきわどい勝利をひろいつづけたというのが、日露戦争であろう」と述べています。



わたしは、日露戦争には両国の軍人たちの心に「武士道」と「騎士道」の名残があったと思っています。両国間に心の交流があったエピソードも多く残されています。
しかし、日露戦争でのロシアの敗戦が原因となって誕生したソ連は卑怯きわまりない国でした。第二次世界大戦で日本の敗戦が決定的になったとき、日ソ不可侵条約を一歩的に破って奪った土地、それが北方領土です。
わたしは、ソ連を世界史上において最も「信」なき国であったと思っています。
ソ連崩壊後の新生ロシアに、果たして「信」はあるのでしょうか。



ところで、今夜のNHK「坂の上の雲」では、広瀬武夫とロシア婦人アリアドネの淡い恋が切なかったですね。ベルリンで森鴎外が出逢った舞姫のエピソードを連想しました。
考えてみれば、鴎外にしろ、広瀬にしろ、外国で現地の美女と恋に落ちるというのはすごいことですね。卓越した語学力と教養、マナー、さらには人間的魅力、すべてが備わっていなければ不可能なことではないでしょうか。しかも、彼らの時代は明治です。
本当に、現在からは想像もつかないほど、すごいことだと思います。



明け方の湖で、広瀬がアリアドネに日本語を教えてあげる場面がありました。
「朝日」「朝霧」「曙」「村雨」などの自然にまつわる日本語を教えた後、広瀬は「これらの言葉は軍艦の名前にもなっている」と言います。すると、アリアドネは「詩のようで美しいけど、強そうではありませんね」と感想を述べます。広瀬は彼女に優しく、「日本人は、力の強さだけでなく、優しい心を持ちたいと思うのです」と説明し、さらにはロシア語で“思いやり”を意味する「グマナスティ」という言葉に通じるのだと説きます。
それでアリアドネは納得するのですが、なかなかジンとくる名場面でした。
新生ロシアの人々の心にも、グマナスティが存在することを願っています。


2010年12月5日 一条真也