「The Most Perfect Thing」

The Most Perfect Thing: Inside (and Outside) a Bird’s Egg

The Most Perfect Thing: Inside (and Outside) a Bird’s Egg


本書は行動生態学者で鳥類が専門のティム・バークヘッドによる鳥の卵についての本である.バークヘッドの本としてはこれまで精子競争を描いた「乱交の生物学」,カナリアと鳥の羽根の色を題材にした「赤いカナリアの秘密」,鳥類の知覚についての「鳥たちの驚異的な感覚世界」などの一般向けの本が翻訳されている.実はバークヘッドの著書にはこのほかにも本格的なリサーチのモノグラフとして「Great Auk Islands; a field biologist in the Arctic」「The Magpies: The Ecology and Behaviour of Black-Billed and Yellow-Billed Magpies」,さらに鳥類学説史の2大著「The Wisdom of Birds: An Illustrated History of Ornithology」「Ten Thousand Birds: Ornithology since Darwin」などがあり,しかもほとんどは最近次々に書かれたものだ.
その中での最新刊が本書ということになる.つい数十年前までの英国では野鳥の卵収集は昆虫採集のようなごく普通の趣味だった.それは違法化されて久しいわけだが,その伝統は巨大なコレクションやバークヘッドたちの情熱の中になお脈々と受け継がれていて,本書に結実しているのだ.


冒頭は2012年のBBCのテレビドキュメンタリーをバークヘッドが見ている場面から始まる.その著名なプレゼンター*1は卵のコレクションが収納された博物館のキャビネットから先の尖ったひとつの卵を取り出して説明を始める.これはウミガラスの卵であって,この先の尖った特異な形はウミガラスが営巣する崖から転がり落ちにくくする適応なのだと.ウミガラスを40年以上も研究してきたバークヘッドは愕然とする.「こんなにも自然史に詳しいプレゼンターがこんな間違いを言うなんて.この『崖から転がりにくい仮説』はすでに1世紀も前に否定されているのに,それはまた何百万人もの視聴者に信じられて新しい命を持つことになってしまう.」
バークヘッドは早速プレゼンターに間違いを指摘し,不機嫌そうなプレゼンターに該当論文を送ることを申し出る.そしてまさに郵送しようとする直前に,もう一度自身でも論文を再読することにする.読んでみたところ,そのデータと結論は自分の記憶にあるものよりもはるかに曖昧だった.要するになぜウミガラスの卵が先の尖った形になっているかはまだ解明されていない(そして「崖から転がりにくい仮説」も全く怪しい)状態だったのだ.バークヘッドはこの問題を調べ直す決心をする.卵については未解決の問題の宝庫なのだ.そしてその旅に読者も招待されることになる.

Uria aalge MHNT Box Rouzic
ウミガラスの卵(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Uria_aalge_MHNT_Box_Rouzic.jpg

第1章 崖登りと蒐集家

探索の旅を彩る背景として,最初は英国の営巣地で前世紀に繰り広げられたウミガラスの卵蒐集家の熱狂が描写される.ウミガラスの卵は先が尖っているという特異な形(西洋ナシ型)をしているだけでなく色彩も模様も非常に多様でいかにも集め甲斐のあるものなのだ.そして同じメスは同じ崖に毎年営巣し,同じような卵を産む.
地元民はもともと食用のために卵をとっていた.一旦簡単に卵がとれるとなるとすべて取り尽くすためにすぐに局地個体群は絶滅し,ほとんど人が近づけないような場所の個体群のみ残ったようだ.19世紀に鉄道が開通し都会の金持ち蒐集家相手の商売になるようになると,採集人はそれぞれナワバリを持って崖に登り,蒐集家に高値で売りつけるようになった.


趣味としての卵蒐集自体は17世紀に始まり,19世紀初めには博物館による蒐集も熱心に行われるようになる.バークヘッドはその歴史を紹介しながら,科学的な意義がないわけではないが,それを推し進めたのは卵のエロチックな魅力にあるだろうとコメントしている.そして1930年代が卵蒐集のピークであり(英国の法で野鳥の卵の採集が禁止されるのは1954年),そこでのウミガラスの卵の蒐集家のチャンピオンはジョージ・ルプトンだった.バークヘッドはそのコレクションの一部が収蔵されているトリング自然史博物館を訪れた時の感慨を語っている.ラベルがないという科学的には悲惨な状態だったが,その美しさと多様性はすばらしかったそうだ.

第2章 殻を作る

第2章は卵殻について.まず実際に卵がメスの体内でどのように作られるかの至近メカニズムが紹介される.卵殻は卵が生みだされる直前20時間程度で形成され,呼吸のために穴だらけでありいわば網のような構造になっている.模様や色は最後の2〜3時間でつけられる.卵殻を形成するためにはカルシウムが必要で,これに関連したトピック*2も詳しく解説がある.
ここから2013年にネットに流れた*3ウミガラスの卵はハスの葉のようなセルフクリーニング機構を持つ」というトピックに移る.実際にウミガラスの卵の表面には微細なポイントがびっしり並んでいて水をはじくのだ.しかもこの構造は近縁種のオオハシウミガラスには見られない.バークヘッドはこれは密度高く集団営巣するために親鳥の糞便が付着するのを防ぐ適応ではないかと考える(オオハシウミガラスは単独営巣し糞便を巣内にまき散らさない).だとすると絶滅したオオウミガラスの卵を調べれば彼等の営巣行動パターンがわかるかもしれない.バークヘッドによる謎解きのための各地の博物館への探訪物語はその意外な成り行きも含めてなかなか楽しい.
この章では,このほか卵殻の孔と呼吸ガス交換・水分の蒸散なトピックも扱われている*4

第3章 卵の形

第3章で問題の卵の形の話になる.バークヘッドは,1992年にカナダのウミガラスのコロニーにキツネが侵入して大パニックを引き起こした際に卵が大量に巣外に転がり出て崖から落ちた跡を見た経験を語り,そのときにウミガラスの卵の西洋ナシ型の形が崖からの転落を防ぐための適応であるという話に疑問を持つようになったのだという.
バークヘッドはまず鳥類の卵の形を決める至近メカニズムを解説してから*5,この卵の形の究極因の謎に進む.そもそも卵の形はどのような淘汰圧を受けるのだろうか.涉禽類は円錐形の卵を産む.この円錐形は一腹卵を抱卵する際に最も効率よくカバーできる配置になるためだと考えられている.
ではウミガラスの西洋ナシ型はどうなのか.バークヘッドは17世紀以来の様々な説明を振り返る.転落予防説は19世紀初めに唱えられているが,19世紀半ばにはその効果がないと批判が出され論争が始まる.様々なリサーチャーが様々なリサーチを行い,様々な結論を主張する様はまさに混迷というにふさわしい.そしてバークヘッドの論争を俯瞰した結論は,西洋ナシ型の卵は回転半径が小さいから転落予防効果があるというのは誤りであり,何らかの別の機能があるのだろうというものだ.この謎の探求は最終章に持ち越される.
ではそもそもニワトリの卵のような「卵形」にはどのような機能があるのだろうか?バークヘッドは,抱卵効率と表面積/体積比率の問題,胚のパッケージ効率の問題,殻の物理的強度の問題のトレードオフで決まっているのだろうとコメントしている.

第4〜5章 卵の色と模様

鳥の卵は様々な色彩や模様を持つ.バークヘッドはこれらについてコレクションをデータ化することの難しさに触れ,美しい卵の代表としてシギダチョウの卵を紹介する.その卵は艶のある陶器のようなテクスチャーを持ち,色も青,緑,紫,ピンクと様々だ.なぜこの卵はこんなに美しいのだろうか,バークヘッドは警告色以外の仮説を思いつけないほどだとコメントしている.

Eggs with glossy, blue-green shells

シギダチョウの卵(https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64914

ここからまず至近的メカニズムについての解説がある.卵に見られる色は,基本的にプロトポルフィリン(赤〜茶)とビリベルジン(青〜緑)の2色素からなる.バークヘッドはこの色素がいつどのように卵殻のどの部分に沈着するかを詳しく説明している.また卵の色が遺伝することも明らかになっている*6.ここからいくつかの謎が取り上げられている.

  • カモメの一腹卵は後から産まれる卵ほど白くなる.これはなぜか.メスの色素が枯渇するためか.もしそうならそもそも卵の色自体副産物ということになる.あるいは最後に産まれる卵は重要性が低いので捕食者へのデコイ機能を持つのか,逆に最初に産まれる卵は抱卵まで数日放っておかれるのでより入念なカモフラージュが必要なのか,あるいは最後の卵の色を変えて托卵者に一腹卵が完成していること(托卵成功率が低くなったこと)を宣伝しているのか.それとも透過光量を最適に調節しているのか.最後の仮説がありそうだが,検証が必要だ.
  • ツグミのようなオープンカップ型の巣を作る多くの鳥の卵が青色なのはなぜか.これは透過光のスペクトラムを最適に調節しているのか
  • ウミガラスの卵の色や模様はなぜ種内であれほど多様であり,その組み合わせはランダムなのか.(ここでは模様がいかに複雑な仕組みで作られるかも詳説されている)


ここで生物の色と模様について,ダーウィンとウォレスの間の性淘汰論争が紹介され,その中では鳥の卵の色もメイントピックだったことが解説される.ダーウィンはそれについて考えたことがなかったが,ウォレスは卵の色の祖先形質は白色で,カモフラージュの必要がある場合には隠蔽色が進化する(外から見えないところに産卵する場合,常に抱卵する場合には白色のままになる)と説明した.ではウミガラスの多様な卵の色はどう説明するのか.ウォレスは崖の上なのでカモフラージュの必要性がなく,彼等の生命力(vigor)の副産物として多彩になるのだと主張した.
今日ではこのウォレスの最後の主張は誤っているとされている.そもそも彼は淘汰圧がないときに祖先形質になるのか多彩になるのかについて矛盾している.ではカモフラージュ仮説はどうか.比較リサーチと実験リサーチによるとこの仮説も支持されない*7.そしてカモフラージュ説はウタツグミやコマツグミの美しい青い卵を説明できない.
現在では卵の色や模様の適応仮説は大きく分けると3つ提唱されている.カモフラージュ仮説,派手さ自体が適応であるという仮説,そして托卵鳥を避けるための個体識別マーク仮説だ.そして様々な鳥で様々な適応として色や模様が進化しているのだ.バークヘッドは順番に解説している.

  • 河原で営巣するチドリ類の卵のように明らかにカモフラージュである卵がある.しかしなぜ樹洞で営巣するような鳥の卵にも同じような模様があるのかは説明できていない.
  • 派手な卵についてはまず警告色が疑われ,徹底的に調べられたが,卵の可食性と派手さの間には相関が得られなかった.
  • 次に派手さについての異なる適応仮説がいくつか議論された.(1)オスの子育て努力を促すための脅迫(抱卵あるいはメスが抱卵を継続するための給餌をしないと捕食者に卵が食べられてしまう)説.(2)メスが自分の質を宣伝しているという説.これはビリベルジンが抗酸化特性を持つハンディキャップ形質であることから唱えられた*8.(3)太陽のUV光からの保護仮説*9
  • そして托卵への適応仮説がある.自分の卵を種内のほかの卵と区別して見分けられれば,托卵を効率的に排除できる.カッコウハタオリとマミハウチワドリの托卵系では実際に卵の色と模様をめぐってのアームレースがあるようだ.(ここでは没収を恐れるアフリカの卵蒐集家とそのコレクションをめぐるリサーチャーの苦労話が詳しく紹介されていて面白い)
  • マミハウチワドリの卵の多様性はウミガラスのそれとよく似ている.するとウミガラスの卵の多様性は集団営巣の中で自分の卵を見分けるための適応の結果なのだろうか.そしてリサーチの結果はウミガラスが実際の自分の卵を見分けていることを明らかにしている.同様に集団営巣を行たり種内托卵があるアジサシ類,アメリオオバン,ダチョウにも同じような卵の多様性と自分の卵の識別習性が生じている.

第6章 白身

卵の白身は単なるタンパク源ではない.これは非常に洗練された微生物感染防御用のファイヤーウォールの中核を形成しているのだ.卵自体は免疫システムを持たない栄養のかたまりなので微生物感染への対応は重要であり,特に問題になるのがサルモネラ菌への防衛だ.バークヘッドは鶏卵業界の苦闘を紹介してから野鳥の卵の適応について語り始める.
実際に卵の対微生物防衛が完全に理解され始めるのは21世紀に入ってからになる.卵殻の最外層はキューティクルかカルシウム塩で構成され,防衛の第一陣として防水性(微生物感染防衛においては重要)を持つ.第二陣は卵殻の内膜で超微細に網状の構造を持ちバクテリアのトラップとして機能する.そして本命の白身がある.白身には,リゾチームをはじめとするバクテリアを破壊するタンパク質(酵素)が100種類以上含まれている.そして白身は微生物が利用できるタンパク質をほとんど含まず,わずかに残る利用可能物質は別のタンパクでロックアップされている.さらに白身は弱アルカリ性に保たれ,微生物破壊酵素はやや温かい環境で効率的に働くようにデザインされているのだ.
ではそもそもなぜ白身はあんなに美味しいのか,毒を入れて不味くしておけば感染や捕食をより回避できるではないのだろうか.バークヘッドはおそらくそれは胚の成長を阻害するデメリットの方が大きくなるためだろうと答えている.卵を捕食者から毒で防衛していることで知られている唯一の鳥はヤツガシラで,卵殻は表面の防水層を欠き,親鳥は尾脂腺から毒物を分泌して卵に塗りつけるのだそうだ.バークヘッドは最後にウミガラスの卵に戻り,そのビリベルジンや表面構造が追加的な微生物感染防御機能を持つかどうかを議論している.

第7章 黄身

ここも黄身を作る至近メカニズムから記述が始まる.ここではメスの産む卵の数に比べてなぜ卵母細胞から作られる卵子の総数がこれほど大きいのかという問題にかなりこだわっている.黄身は(鳥の種によって)5〜30日かけて卵子に栄養分が蓄積されてできる.このどの卵子が選ばれて蓄積が始まりどのようにストップさせるのかなどの蓄積のメカニズムの詳細は知られていない.その後適応的な観点からの問題がいくつか取り上げられている.

  • 親鳥は(ちょうどトリヴァース=ウィラード的性比調整のように)それぞれの子の将来的な可能性に従って黄身の量を調整するか.実例としてはマガモのメスがオスを自分で選んだかレイプされたかによって黄身の量を調整していることが報告されている.
  • 種によって白身と黄身の比率が異なるのはなぜか.基本的には生活史戦略に沿って最適化を図っているからで,晩成性の種でより黄身の比率が高くなる.
  • メスは一腹卵の中で産んだ順序により黄身の中のホルモン量を変化させ,成長速度や餌のねだり方を調節している可能性がある.黄身の中に含めるカロチノイドや抗酸化物質で同じような調整が可能だが,まだよく調べられていない.

ここから受精をめぐる至近メカニズム,適応的な問題もいろいろと考察されている.鳥の場合には大きな卵子に向かって大量の精子が殺到するために,メスの隠れた選択などいろいろと面白い問題があるようだ,ただ実際にはまだよくわかっていないことが多いとされている.

第8章 産卵,抱卵,孵化

ニワトリの卵が丸い方から産まれるのか尖っている方から産まれるのかについてはアリストテレス以来の論争があったのだそうだ.少し観察すればすぐわかりそうなものだが,古代の議論というのはそういうものかもしれない.実際には卵は卵管の中では尖った方を先に進み,最後に水平方向に180°回転して丸い方から先に生まれてくる.何故このように回転するのかはわかっていないそうだ.多くのほかの鳥も同じように卵を産むが,ウミガラスは例外で尖った方を先に産む.ほかにもカモ類やウミツバメやアホウドリも尖った方から産むが,彼等の卵は比較的丸い.尖った形の卵を産む鳥で尖った方から産むのはウミガラスだけなのだ.そしてこの謎はウミガラムの卵の形の謎とともに最終章で扱われる.
多くの鳥の産卵は明け方だ.バークヘッドは,小さな鳥の場合,成熟した卵を体内に持って動くことを避ける観点からベストな時点だろうと説明し,これを上回る適応的利点があるケースとしてカッコウのような托卵鳥のケースを挙げている.大形の鳥についてはこのような制限は小さい.ウミガラスは集団営巣の混迷を避けて産卵直前数日間コロニーを離れ,戻ってきてすぐに産卵するそうだ.
次は抱卵.鳥は抱卵パッチで卵を温める.卵は36〜38°で発生を進める.また卵は1週間程度は低温に耐えられ,その間発生は進まない.これにより鳥は数日かけて産んだ一腹卵をほぼ同時に孵化させることが可能になる.抱卵において巣の保温,卵の回転なども重要な問題になる.抱卵期間は鳥により異なる.
最後は孵化.孵化はヒナにとって想像より複雑な作業になる.卵殻に穴を空け,空気呼吸に切り替え,そして黄身の残りを飲み込む.給餌に関して親子のそれぞれの個体識別も重要なポイントになる.それぞれの詳細は種によって異なり様々な適応が見られる.

第9章 エピローグ

バークヘッドは最終章でジョージ・ルプトンのウミガラスの卵コレクションのその後の歴史を振り返っている.それは別の収集家に売り渡され,様々な経緯の後,最終的に博物館に収まる.ここはバークヘッドのある種の感慨ということだろう.
そして本書冒頭の謎に戻る.ウミガラスの卵はなぜあのような西洋ナシ型をしているのだろうか.それは回転半径を小さくするわけではなく,どのみち回転半径は平均的な崖幅より大きく,崖から転がり落ちるのを防ぐ機能では説明できない.バークヘッドの最終結論は,それはいくつかの要因のトレードオフから決まっているのだが,ウミガラスの場合には巣が汚いことから卵の感染予防要因が大きく効いているだろうというものだ.西洋ナシ型は,胚の頭部が収まる卵の丸まった方の汚染を避けるために,尖った方を先に産み(巣の底部の汚れに強く触れる面積が最も小さくなる),その後そっと横たえる(これにより丸まった方はクリーンに保たれる)ための適応なのだ.
そしてバークヘッドは,卵の研究は一種の耽溺ではあるが保全にも役立つのだとコメントし,その例をいくつか紹介し,さらにこの本を通じてテーマになった著者自身のウミガラスのコロニーの長期研究プログラムが予算カットで終了の危機を迎えたが,クラウドファンディングで継続できそうだというエピソードを示して本書を終えている.

本書は様々な鳥の本を書いてきたバークヘッドが,残された珠玉のトピック「卵」についてじっくり語った本だ.解決していようがまだ未解決だろうが,興味深いトピックは逃さずに取り上げようという姿勢で書かれていて,ある意味完結していないのだが,より探求をめぐる実際がわかる記述になっている.そして何より本書には永年鳥類学者をやってきた著者の鳥類愛と同好の士としての卵コレクターへの温かい思いがあふれている.ウミガラスの卵の形の謎という軸もあり,じっくり読んで楽しめる充実の一冊だ.


関連書籍

バークヘッドの本

ダーウィン以降の鳥類学説史を扱った大作.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20140418

Ten Thousand Birds: Ornithology since Darwin

Ten Thousand Birds: Ornithology since Darwin



これはその直前に書かれたアリストテレスまでさかのぼる鳥類学の歴史.ハードカバーで購入後未読.美麗なカラー図版満載で眺めているだけで幸せな気分になる.なぜかKindle化されていない.

The Wisdom of Birds: An Illustrated History of Ornithology

The Wisdom of Birds: An Illustrated History of Ornithology


鳥の感覚を扱った本,私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20130409

鳥たちの驚異的な感覚世界

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同原書

Bird Sense: What It's Like to Be a Bird

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これは性淘汰と性的コンフリクトについてのなかなか良い本だった.なぜかKindle化未了.

Promiscuity: An Evolutionary History of Sperm Competition

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同邦訳

乱交の生物学―精子競争と性的葛藤の進化史

乱交の生物学―精子競争と性的葛藤の進化史



赤いカナリアを求めた人々の探求の歴史.カナリアの赤さを競うコンテストに勝つ秘訣はカロチノイドのたっぷり入った餌を与えることだということが秘技として封印されていたあたりの話はちょっと面白い.

The Red Canary: The Story of the First Genetically Engineered Animal

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同邦訳

赤いカナリアの探求―史上初の遺伝子操作秘話

赤いカナリアの探求―史上初の遺伝子操作秘話


カササギの研究を書いたモノグラフ


同じく北極圏のウミガラス類についてのモノグラフ.内容的には本書と最も関連がある本だ.

Great Auk Islands; a field biologist in the Arctic (Poyser Monographs)

Great Auk Islands; a field biologist in the Arctic (Poyser Monographs)



なお所用あり,10日ほどブログの更新を停止する予定です.

*1:誰かは明らかにされていない.デイヴィッド・アッテンボローなのだろうか?

*2:メスはどのようにカルシウムを摂取するのかなど:直接的なカルシウム探知メカニズムはわかっていない.小鳥にとってはカタツムリが重要らしい.マダラヒタキはカタツムリが少なくてもヤスデやワラジムシからカルシウム摂取できるが,シジュウカラはこれをしない.なぜしないのかはわかっていない.酸性雨DDTによる影響も詳しく解説されている.

*3:元ネタはスペインの学会での研究者の発表だった

*4:緯度や高度が異なると最適な孔密度は異なってくる.これをメスはどのようにして調整するのかなどが扱われている.

*5:詳細はなかなか面白い.

*6:この遺伝的リサーチは,鶏卵の色について主婦の好み(英国では茶色が,米国では白色が好まれる)があることから商業的な重要性があったために詳しく行われたそうだ.

*7:ただしこれらの実験においては臭いがコントロールされていない可能性があり,また鳥の色覚についての調整もなされていないので結論は出せないと留保している

*8:マダラヒタキなどでこれの実証リサーチもあるが,バークヘッドはなお検証例が少なすぎるとして結論を留保している.

*9:実験によるとUVの透過効率に対して卵の色が影響を与えるのは確からし