ラノベ作家に花束を

明日はSFセミナーなのでSF関連ネタを。ちょっと古いネタへの反応ですが。

ARTIFACT@ハテナ系 - SF小説で新人発掘能力が下がっていった理由
http://d.hatena.ne.jp/kanose/20070312/sfnovelnewfigure
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/kanose/20070312/sfnovelnewfigure

ハヤカワSFコンテストが終わった理由、もしくは同様のコンテストを再開できなかった理由について、SFの冬の時代ばなしが華やかなりし頃に、SFな方がこう言っていたと記憶しています。――仮にコンテストを行い、新人を発掘したところで、早川ではその新人に書く場を提供し続けるのが難しいから、と。当時はJコレがなく、SFマガジンでは海外作品や既存の国内作家の作品を載せなければならない。毎年新人をぱかすか出したとしても、ちゃんとフォローできないから……という主旨だったと思います。

一方で、ラノベはばかすか新人を発掘しました。そして、新人に本を出させました。もちろん最初の数冊はいいでしょう。しかし、ある程度売れないと、次の本が出なくなります。いったんはそれなりに売れた作家も、継続的に売れ続けるかどうかというと別の話です。5年たっても、まだ新刊が出せる作家は、ほんの一握りです。

結局のところ、どんなジャンルにせよ、新人に提供できる場は限られています。ブームが大きくなれば、それなりに場も大きくできるかもしれませんが、それ以上に新人が投入されてしまえば、その場もすぐにいっぱいになります。そして、ブームがクラッシュしたときには。多くの作家が消えることになるでしょう。

もちろん、出すだけ出したんだから、それで十分フォローした、という意見もあるでしょう。ましてや、読者がそんな心配してどうするの? というのも正論です。実際何もできないわけですし。

それでも。

ラノベをそれなりに好きな人なら、大好きだったけれどもう新刊が出なくなってしまった作家さんは、一人や二人ではきかないでしょう。――売れてなさそうな新刊。なにか引っかかる悪い感じ。大きく時間が開いた上ででてきた本は、ちょっとピントがずれているような気がする。おそらく、作家さんだってそのくらい自分で気づいているでしょう。そうして聞こえてくるネガティブな評価。あるいは、評価すら聞こえてこなくなり。やがて、その作家の本が、書店から消えていきます。

あんなに面白い作品を、あんなに素晴らしい作品を書いていた人なのに。

ライトノベルは、そのような多くの作家さんたちの屍の上に成り立っています。ライトノベルというジャンルを本当に愛しているのであれば、そのようにして消えていく作家さんたちの痛みと悲しみを、わずかながらでも想像し、それに向き合う覚悟をした上で、今生きている作家さんたちの作品を楽しむのがいいんじゃないかと思います。

ついしん。どーかついでがあったらうらにわのラノベ作家のおはかに花束をそなえてやてください。

……というネタはSF読みじゃないラノベなひとには通じないのか。ううむ。じゃあ、桜庭一樹で。

だけどここにいて周りには同じようなへっぽこ筆力でぽこぽこへんな小説を書きながら
戦っている作家たちがほかにもいて、生き残った作家と死んじゃった作家がいたことは
けして忘れないと思う。

忘れない。

遠い日の戦死者名簿の中に、知らないレーベルの知らない作家たちの名前とともに、
ひっそりと、自分の好きだった作家の名前も漂っている。彼女は読者に殺されたんだ。
愛して、慕って、愛情が返ってくるのを期待していた、ほんとの読者に。

この世界ではときどきそういうことが起きる。砂糖でできた弾丸【ライトノベル】では
作家は世界と戦えない。

あたしの魂は、それを知っている。

最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

素晴らしかった。傑作。星新一の名前を知っている人はもちろん、あまり知らない人でもぜひ読んでほしい一冊。

以下、個人的な感想を。

星新一と言えば、私にとってはショートショートの書き手であり、自分が中学生の頃に小説を読むことの入り口となってくれた人でもあります。が、それ以上に「17歳の新井素子をSF作家として世に出した」という、私にとっては何よりも重要なことを成した方です。そういう私にとっては、440ページからの数ページは(デビュー当時のエピソードはほぼ既知のことだったとしても)やっぱり読んでて泣きそうになりました。

それと、星新一が賞をとれなかったことを不満に思っていたエピソードが書いてありますが、素子さんが日本SF大賞を受賞した作品『チグリスとユーフラテス』は、星新一に読んでもらおうと思いながら、星新一を意識して書いた小説だ、と素子さん自身が書いています。『チグリスとユーフラテス』単行本版あとがきでも、そして受賞の言葉「肩書きはSF作家」(『SF JAPAN MILLENNIUM:00』31ページ)でも。星新一自身は受賞できなくとも(第19回(1998年)の特別賞を死後受賞しているとはいえ)、星新一に読んでもらおうと書かれた作品が受賞できたことには、意味深いものを感じます。

あとは、星新一の作品論が読みたいですねえ。今日お会いした林さんに聞いてみたら、まとまったものはまだ出ていない、とのこと。今後に期待。

追記:GWに行われた「SFセミナー」というイベントの合宿企画「おーい、星新一」で、この本について突っ込んだ発言がありました。そのうちのいくつかをかいつまんで書きました(id:takahashim:20070430#p1)ので、参考まで。