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大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

かけ算の順序問題のための文献・情報源

wikipedia:かけ算の順序問題の冒頭に,「この記事の内容の信頼性について検証が求められています」が追加されました.
貢献できるかどうかはさておき,これまで読んできた論文・書籍・Webの情報を見直してみました.

1. 「かけ算の順序」

算数教育の論文や実践では,たいてい「かけ算の意味」や「乗法の意味」と書かれますが,「かけ算の順序」や「順序」も少ないながら見かけるので,最初に取り上げることにします.

1.1 数学教育協力における文化的な側面の基礎的研究

馬場卓也は,数学教育の国際協力に関する報告書の中で,日本では5×4=20で表される場面が,英語では4×5=20となることを挙げた上で,

タイでは自然な語順が日本語式であるにもかかわらず、教科書は英語式の順番に従っている。
(p.38)

単にかけ算の順序が逆になっただけで小さなことのようであるが、初めての学習者にとってはかなりの認知的な負担が強いられるだろう。
(同)

と述べた.これは,「かけ算の順序」が国によって異なっていること(「文化的認識の差異」, p.37)を前提としている.

1.2 数とは何か?

数学教育協議会委員長の小林道正は,著書『数とは何か?』に「かけ算の順序」の項目を設け,「どのお皿にもミカンが3個のっています。お皿は全部で4皿あります。ミカンを集めて大きな袋に入れると、全部でいくつになるか?」の答えは「3個/皿×4皿=12個」だけでなく「4皿×3個/皿=12個」でもよいことを解説している(pp.46-47).

1.3 新式算術講義

高木貞治は,初等数学の学習者向けに著し,1904年に刊行された『新式算術講義』の中で,かけ算を含む演算の「順序」について次のように記している.

加法及乗法は組み合はせの法則*1及交換の法則に遵ふが故に,多くの数を加へ又は乗ずるに当りて,其順序を如何様に変更するとも結果は常に同一なり.
(p.31*2

2. 出題例(低学年)

学校で「乗法の意味」を学習後に,それが定着しているかをみるための出題のうち,解答数または解答率が記載されているものを示します.

2.1 計算力調査

総合初等教育研究所は平成16年度末(2005年)に,北海道から沖縄までの小中学校から11,382人の児童・生徒の協力を得て,計算技能および計算を支える力について調査を実施した.学年間で比較できるよう,同一の問題を与えているところがあること,また文章題では式と答えで別々に正答率を算出していることが特徴である.
2・3年生を対象として「6つのはこに,ケーキが8こずつはいっています。ケーキはぜんぶでなんこあるでしょう。」を出題している.正答率は,2年生は式:50.8%,答:81.3%,3年生は式:23.8%,答:87.4%となっており,式の正答率は答のそれよりも低く,その差は3年生のほうが大きい.
調査概要,問題文および正答率はWebより取得できるほか,『小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』でも読むことができる.この本では,上の文章題をはじめ,誤答の目立った出題を取り上げ,「計算の力」をつけるための指導案を記している.

2.2 東京都算数教育研究会の学力実態調査

東京都算数教育研究会(都算研)は平成22年度末(2011年)に,都内314,710人の児童(都内の国立・公立・私立小学校に通う児童の約半数)の協力を得て,「数と計算」「数量関係」領域の学力実態調査を実施した.問題文,正解(例)のほか,解答類型を過去の調査と比較できる形にして公表している.
第2学年 大問3は,以下の内容の文章題である.

子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。

これは「乗数、被乗数の関係を考えて立式できるかをみる問題」であり,4×3(54%が解答)を正答,3×4(38%)を誤答としている.

2.3 小学2年生の乗法場面に関する理解

金田茂裕は,小学2年生180名および国立大学生21名を対象として,作問と文章題を2問ずつ解かせ,分析を行った.文章題の一つは,以下のとおりである.

文章題b おかしの はこが 3つあります 1つの はこには、おかしが 5こずつ はいっています みんなで なんこに なりますか
(p.41)

正解判定には,「被乗数と乗数の位置を問わず正答」という基準Aと,「そういった場合を正答として認めなかった」基準Bを設けている.
文章題bにおける基準Aの正答状況は,小学生に1名*3の誤答があったのみで,大学生は全員正解であった.しかし基準Bの正答率では,小学生は80%強,大学生は30%台であった.
このことから著者は,

被乗数と乗数の区別に関する理解は、交換法則を学習していない小学2年の時点で不十分である可能性が示唆される。
(p.46)

と述べるとともに,

大学生は被乗数と乗数のちがいをほとんど意識していないか、または、乗法の計算式が「被乗数×乗数」で表されることを理解していないと推測される。
(同)

と考察している.

2.4 算数科の教育心理
  • 中野佐三(編集)『算数科の教育心理』, 金子書房〈児童心理選書 8〉 (1957年). asin:B000JBN9M6

1957年に出版された『算数科の教育心理』によると,教室の3年生42名に,

問題1 おかあさんが,びわをおぼんにのせて,ぼくたち7人に下さいました。1人が6つずつたべたら,ちょうどなくなりました。はじめに,びわはいくつあったのでしょう。
(p.137)

を解答させたところ,6×7=42が22名で7×6=42が18名であった.また

問題2 はこづめのいちごがならべてあります。1つのはこには5こずつ,4れつにはいっています。いちごのかずはどれだけでしょう。
(同)

に対しては,「ほとんどの子ども」が5×4=20で,4×5=20は2名であった.
この結果から著者ら*4

乗法の問題では,文章中の初めに出て来た数を被乗数に,後から出て来た数を乗数にしたらよいのだというふうになっているからではないか
(p.138)

と分析し,答えの名数・かけられる数・かける数を記入しながら立式するという活動により,正解率の向上を確認した.
この本では,4年生の指導例として,

4年1組45名で,こう堂にいすをはこんでいます。1人が1こずつ4かい運ぶと,みんなでいすは,なんこ運ぶことになるか。
(p.151)

という出題には,45×4=180も正しいとする授業が書かれている.このころからすでに,低学年では被乗数・乗数の意味を重視しており,「かけ算の順序はどちらでもよい」を採用していなかったことが示唆される.

3. 出題例(高学年)

小学校高学年になったら,かけ算の式については間違いにはしない傾向にあります.しかし「小数の乗法」「分数の乗法」では,2年のかけ算と同様に間違いとしている事例もあります.出題例と合わせ,いくつか示します.

3.1 特定の課題に関する調査

2005年に実施された「特定の課題に関する調査(算数・数学)」において,5年向けに次の出題がある.

水そうに8Lの水が入っています。この中に0.5Lの水を2はい入れました。水そうに入っている水は,全部で何Lでしょう。
(p.99)

という問題文のあと,「答えを求める式はどれでしょう」として,4つの式の中から1つを選ばせている.同ページの調査結果の表によると,「8+0.5×2」と「8+2×0.5」の2つを正答としている.

3.2 全国学力・学習状況調査

全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の解説資料では,「乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する。」という注意書きが平成22年度以降,付けられている.年度ごとの,この注意書きが確認できたページは,次のとおりである.

3.3 乗法の意味に関する児童の理解の実態調査

浅田真一は,「児童が小数の乗法における意味の拡張の必要性を感じているかどうか,また拡張された意味をどのように理解しているのか」について,実態調査を行った.調査時期は平成16年11月下旬〜平成17年2月初旬で,東京都・埼玉県の6校319名の児童が解答した.
このうち問4は,「7×2.4の式で求められる問題を1つ作りましょう.」という作問課題である.解答は13の解答類型に分かれており,正答率(おおよそ正しく問題をつくれたと判断するものを含めたもの)は21.0%であった.誤答の中で最も多かったのは,「2.4mのリボンが7本ありました.それをぜんぶつなげると何mになりますか.」など,「2.4×7」の式になる解答で,その割合は23.5%と正答よりも高かった.

3.4 東京都算数教育研究会の学力実態調査
  • 書誌情報は「2.4 東京都算数教育研究会の学力実態調査」を参照のこと

第6学年 大問2(2)では,

1mの重さが4kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう\frac{3}{4}mの重さはどれだけでしょう。

という文章題で,分数の乗法に関する出題をしている.正解となる式は4\times\frac{3}{4}のみで,\frac{3}{4}\times4は間違いとなっている.

3.5 子どものつまずきと授業づくり

小学校教師の主人公が,教室の児童,同僚や大学教員とコミュニケーションをとりながら成長していくフィクション『子どものつまずきと授業づくり』では,実際になされた調査をもとに,「4×8の計算で答えを出す問題(お話)を作って下さいっていう問題」を取り上げている.
正しく問題を作れたのは、50%弱で,学年の違いはない.そして,「式を逆にして問題を作った子どもが、どの学年でも15%くらいいるでしょ。かたいことを言わなければ、これもまあ正解だよね。そこまで正解とすると、三年生から六年生までどの学年でも、65%くらい」と大学教員が話している.
「実際になされた調査」の出典は以下のとおり.

4. かけ算の分類

「かけ算の意味」に関連して,「かけ算の分類」が,様々な人によってなされてきました.一つ一つ紹介したいところですが,都合により,書誌情報のみのところが多いです.

4.1 小学校 算数科の指導
  • 志水廣(編著)『小学校 算数科の指導』, 建帛社 (2009). isbn:9784767920931

『小学校 算数科の指導』では,「四則演算のそれぞれの演算には単項演算と二項演算の意味がある」と述べ,次のような表を載せている.

演算 単項演算 二項演算
加法 増加 合併
減法 求残 求差
乗法
除法 等分除 包含除

(p.54)

「実存する四則演算の全てが単項演算と二項演算だけで分類整理できるの(原文ママ)ものではないか」と断りを入れている.また他書にも同様の表があり,それらのルーツとなるような文献があると予想される.

4.2 算数・数学科重要用語300の基礎知識

『算数・数学科重要用語300の基礎知識』では「乗法の意味」という項目を設け(p.187.執筆者は崎谷眞也),Vergnaud (1983)の考え方と図式に基づき,x=a×bの意味について次の3通りを挙げている.

  • (1)スカラー関係に基づく乗法:(求める全体量:x)=(基準量:a)×(倍量:b)
  • (2)関数関係に基づく乗法:(求める全体量:x)=(単位あたり量:a)×(単位のべ量:b)
  • (3)量の積に基づく乗法:長方形の面積(x)=縦の長さ(a)×横の長さ(b)
4.3 数の科学,量の世界
  • 銀林浩『数の科学―水道方式の基礎』, 麦書房〈教育文庫 7〉(1975). asin:B000JA277K
  • 銀林浩『量の世界―構造主義的分析』, 麦書房〈教育文庫 8〉(1975). asin:B000JA2798
4.4 Multiplicative Structures (1983, 1988)
  • Vergnaud, G. (1983). Multiplicative Structures, In Lesh, R. and Landau, M. (Eds.), Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174. isbn:012444220X
  • Vergnaud, G. (1988). Multiplicative Structures. In Hiebert, J. and Behr, M. (Eds.), Number Concepts and Operations in the Middle Grades, Vol.2, pp.141-161. isbn:0873532651
4.5 Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division
  • Anghileri, J. and Johnson, D.C. (1988). Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division. In Post, T.R. (Ed.), Teaching Mathematics in Grades K-8, Longman Higher Education, Allyn and Bacon, pp.146-189. asin:0205110762

AnghileriおよびJohnsonは,1988年に刊行された算数教育解説書の1章を担当し,整数を対象とした乗法・除法が用いられる場合の分類や,その指導法について執筆した.乗法の用いられる多様な文脈として,Equal Grouping(同数のグルーピング),Allocation(配分),Number Line(数直線),Array(アレイ),Scale(拡大),Cartesian product(デカルト積)を例示している.
幼い子どもにとっては,「2個ずつのキャンディが3つある」よりも「3匹の猫の人形に2個ずつのキャンディをあげる」ほうが,状況が分かりやすいと述べている.これは,猫という配られる対象の存在が,場面の理解を容易にしているためである.「2個ずつのキャンディが3つある」は同数のグルーピング,「3匹の猫の人形に2個ずつのキャンディをあげる」は配分の例である.ただし,この場面に対応するかけ算の式は明記されていない(日本のかけ算の指導では,それらは同等と見なされ,式はともに2×3である).
その一方で,被乗数と乗数の区別を重視している.例えば,子どもたちにとって,「4が3つ」と「3が4つ」は基本的に別物であることを,「4つずつキャンディを持っている3人の子ども」と「3つずつキャンディを持っている4人の子ども」という比較により(キャンディの総数は同じことと合わせて)示している.また乗法の交換法則は,数の性質に限られ,3×4が4×3と等しいのは事実だが,日常生活においてそれらが同じであるというわけではないという注意も与えている.

4.6 Multiplication and Division as Models of Situations
  • Greer, B. (1992). Multiplication and Division as Models of Situations. In Grouws D.A. (Ed.), Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, National Council of Teachers of Mathematics, pp.276-295. isbn:1593115989

Greerは,様々な文献・事例をもとに,乗法および除法の使われる場面についてモデルを示した.〈乗数と被乗数が区別される文脈〉と〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉に大別し,前者については7種類(同等のグループ,同等の量,割合,単位の変換,乗法的な比較,全体と部分の関係,乗法的な変化),後者については3種類(デカルト積,長方形の面積,量の積)の場面を与えている.
〈乗数と被乗数が区別される文脈〉においては,除法は2種類(等分除,包含除)あるのに対して,〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉における除法は1種類のみとなっている.
パー書きによる単位表記,1より小さい数をかける場面に対する理解の困難さ(乗数効果),はじき(速さ・時間・距離)の図解などへの言及もあり,日本の算数の中で考案された指導法や,指摘されている学習上の課題については,外国でも同様であるのを知ることができる.

4.7 新編算数科教育研究
  • 算数科教育学研究会『新編算数科教育研究』, 学芸図書 (2010). isbn:9784761604233

5. 算数教育に携わる人々の見解

初めの3件は,かけ算には本来,順序がないの後半に示した日本・フランス・中国の「問題点」*5を,出典と要点で表しています.
後半は,算数・数学教育に携わっている教授または名誉教授が記した,乗法の意味や式の意味を含む論文や書籍です.

5.1 内包量・外延量と微分積分

遠山啓は1979年に行った講演の中で,「タイル×タイル」は子どもにはわかりにくく,「外延量×外延量」は非常に特殊であり,かけ算のシェーマを「総量=内包量×容量」に変えるに至ったと話している.
2×3のシェーマとしては,「1箱に何かが2つずつ入っているものの3箱分」を挙げ,2のほうはタイルで,3のほうは箱で表される.これは,かけられる数とかける数の区別を強調するものとなる.

5.2 Multiplicative Structures (1983)
  • 書誌情報は「4.4 Multiplicative Structures」を参照のこと

Vergnaudは,フランスではかけ算の導入で直積を用いているが,それにより多くの子どもたちがかけ算の理解に失敗していることを指摘し,単純な比例(割合)の場面から先に学習すべきであると述べている.*6

5.3 理数教科書に関する国際比較調査結果報告

秋田大学教授の森威は,理数教科書に関する国際比較の報告書で中国を担当した.中国では乗法の学習において,被乗数と乗数の区別をなくし,最初から因数として扱うこととしていると述べたのち,授業を観察した経験に基づき,数計算では特に支障はないが,量の扱いでは不具合があり,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えていることを報告している(p.181).

5.4 かけ算の導入

布川和彦は2010年,わが国の算数におけるかけ算の導入について和文および英文で解説し,「被乗数と乗数を明確に区別して扱っている」点を特色の一つに挙げている.

5.5 小学校指導法 算数

守屋誠司は『小学校指導法 算数』の中で乗法の意味や指導法について,3匹ずつのさんまの入っているパックや,「16X」と書かれたDVDパッケージの写真を載せ,指導法の留意点を解説している.その中で

第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。しかし、高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。
(p.92)

と述べており,低学年と高学年とで指導が異なることを支持している.

5.6 5円の品3個の代金の立式は「3×5」ではダメなのか

佐藤俊太郎は『算数・数学教育つれづれ草』の中で「5円の品3個の代金の立式は「3×5」ではダメなのか」という標題を設け,学習指導要領の立場からすると,昭和53年の小学校指導書以降現在まで,5×3と3×5の両方が正答である(pp.46-47)と述べている.
問題の起こりとしては,1972年の朝日新聞の記事ではなく,1965年ごろ,「海外で教育を受けた子どもが日本に帰国して授業に臨むと…3×5はダメという指導に遭遇した」点を挙げている.

6. 教材開発・指導例

学年・単元・授業の関連や,国内外の式の表し方への配慮のもと,特色のある教材開発が行われています.これまで読んできた中で,印象に残っているものを取り上げます.

6.1 Is Multiplication Just Repeated Addition?

ウィリアム・パターソン大学の吉田誠*7は2009年のNCTM(全米数学教師協議会)の年会で,"Is Multiplication Just Repeated Addition?" と題して口頭発表を行った.
英訳した東京書籍の小学校算数教科書を用いて,4×3=12の式の意味や,3×2と2×3の違い(それぞれの式に対応するおはじきの並べ方を答える問題),4×6の答えを忘れた子どものための3種類の答えの出し方,等分除と包含除の違いなどを紹介している.

6.2 La Enseñanza de la Multiplicación

筑波大とメキシコ教育省の共同事業により2009年,スペイン語で書かれた "La Enseñanza de la Multiplicación: el estudio de clases y las demandas curriculares" が刊行された.学校図書の算数教科書をもとにした,かけ算の意味の学習指導案も収録されており,

"2 en cada plato" y "5 platos" da "10 en total"
(p.84)

"Cantidad en cada grupo" x "Número de grupos" = "Número total"
(同)

Multiplicando x Multiplicador = Producto
(p.88)

と書かれている.これらは,日本の「1つ分の数×いくつ分=全部の数」および「被乗数×乗数=積」に対応する.
かけ算の意味についての解説(pp.46-53)では,日本式のかけ算を,xにjを下付きで添えて乗算記号で表し,スペイン語による式の表し方と区別している.

6.3 算数科問題解決授業スタンダード

筑波大学の礒田正美が監修し2013年に刊行された『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』では,「どっちの式でもいいのかな」の標題を設け,「3まいのおさらにりんごが6こずつのっています。りんごはぜんぶで何こですか。」に対する正しい式は6×3であることを導くよう,授業計画および授業案を述べている(pp.52-55).
その際,「意味が欠落した手続き」では,「(最初に出てきた数)×(後から出てきた数)」として考え,3×6という式を立てる,と展開している.板書例を含む授業では,「もし3×6だと…」と進め,「もし 3×6だとしたら 6まいのおさらに りんごが3こずつ のっています。 になる!」(p.55)と黒板に書いている.
「どっちの式でもいいのかな」の項目には,「順序」が2回,「順番」が10回,それぞれ出現する(ひらがな表記を含む).「順序」「順番」の前には,「お話の」「数の」「数字の」が書かれ,「かけ算の」は見当たらない.「順序にこだわる子どもには」(p.53)ともあり,こだわるのは,教師や教え方ではなく,子どもの側としている.

6.4 どの子も伸びる算数力

岸本裕史は著書『どの子も伸びる算数力』の中で,かけ算を学習した子どもに,

小さな子が、公園の砂場で遊んでいます。何人いるかなと数えてみると、6人いました。どの子も三輪車に乗ってきています。じゃあ、車輪の数は、みんなでいくつあるでしょう。
(p.172)

と言い,式を書かせたら,

子どもはきっと「6×3=18」という式を書いているはず
(同)

と述べている.
これと同種の出題の仕方が『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』に見られる.そこでは(p.62),「船が5そうあります。1そうに4人ずつ乗ることにします。」という場面に対して「子どもは必ず式を間違えますよね。「5×4」と書きます。」と述べている.

6.5 365日の算数学習指導案 1・2年編

『活用力・思考力・表現力を育てる! 365日の算数学習指導案 1・2年編』には,「具体物をまとめて数える」という標題による1年向けの授業例がある.

子どもが3人います。みかんを1人に2こずつあげます。みんなでなんこいりますか
(p.66)

を出題し,ブロックを使って「1個ずつ置く」と「2個ずつ置く」を児童の反応として挙げているが,指導上の留意点として

1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる。
(同)

を述べており,式は2+2+2=6のみとなっている.
かけ算の学習における「基準量が後に示された適用問題」の授業例も収録されている.

おかしのはこが4つあります。
1つのはこには,おかしが5こずつはいっています。
みんなで何こになりますか。
(p.104)

に対し,「「何の幾つ分」と正しく考えている」のは,「5この4つ分」「5×4=20」であると述べている.

改訂情報

(最終更新:2013-05-23 晩)

*1:結合法則のことであり,累加に基づく乗法の定義および「分配の法則」の証明の直後に,証明している.

*2:ページおよび表記は,2008年刊行のちくま学芸文庫版による.

*3:正答率は,棒グラフで表されており,人数や割合はtakehikomが読み取った.

*4:執筆者は中野佐三および淵上孝.

*5:これは,かけられる数・かける数の意味を大事にし,導入時には区別するという,いまの日本の算数の主流となっている指導における問題点ではなく,その反対,すなわち「かけ算には順序がない」に基づく教育を採用した場合の課題です.

*6:1983年および1988年の"Multiplicative Structures"を読む限り,Vergnaudは乗法に関して,複比例あるいは2つ(以上)に比例する場面まで学習者が理解できるようになることを,望んでいるように見える.

*7:漢字表記はhttp://kaken.nii.ac.jp/d/p/18300266.en.htmlによる.