武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第3週に手にした本(14〜20)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。

皆川博子著/岡田嘉夫絵『朱鱗の家―絵双紙綺譚』(角川書店1991/9)*皆川博子の短編綺譚に岡田嘉夫の挿絵を組み合わせた絵双紙、テクストと絵を巧みに組み合わせた大人の絵本、一冊の本が美術品のような動かしがたい仕上がりとなっていて、読んでも楽しいが眺めているだけでも愉しい。海野幸裕の本文レイアウトが素晴らしい。究極のタイポグラフィと言ったら褒め過ぎか。
◎原田泰治著『鳥の眼、虫の眼 日本の旅』(トランスアート1999/7)*1982から2年半朝日新聞日曜版を飾ったイラストレーター原田泰治さんの127枚の全画像を大判で収録した豪華な画集、原田さんの絵を通して再発見する日本の風土性が、あのころ日曜日の愉しみだった。シリーズ全体をまとめてみると、僅か30年前の風景なのにとてもノスタルジック、画像に添えられた原田さんの文章から既に失われつつある風景なのだと言うことは分かっていたが、今見ると遙かに遠い。
スーザン・ジョージ著/佐々木建・毛利良一訳『債務ブーメラン―第三世界債務は世界を脅かす』(朝日選書1995/11)*先進資本主義国による第三世界に対する垂直的な収奪・搾取の結果が、廻り巡って最終的に、先進国自体の危機を招くという現状分析の書。かなり古い本だが古さを感じさせない説得力がある。
平野啓一郎著『決壊・上』(新潮社2008/6)*現代を舞台にした著者にとって初の現代小説ではないか、この国の日常生活への克明な書き込みに、才能を感じた。愉しみにして読み進めている。力作である。
エヴァ・フェダー・キテイ著/岡野八代・牟田和恵訳『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』(白澤社2010/9)*人間存在が不可避的に抱え込んでいる幼児期と最晩年の依存を含め病気や障害により依存状態に陥った時に生じるケア労働を、フェミニズムの視点から捉え返し、依存とケアの倫理に説き及ぼうとする哲学的論考。難解だが重要な問題提起が感じられる。精読の要あり。
石田徹也著『石田徹也全作品集』(求龍堂2010/5)*故石田徹也の生涯の全作品217点を隈無く収録した全画集、石田作品の表現力は画集には納まりきらないことは、原画を見るとよく分かるが、すべての作品を画集でみることにも意義はある。短い生涯をひたすら描いていたということは、痛いほどに伝わって来る。
小村雪岱著『小村雪岱画集』(国書刊行会1987/3)*小村雪岱の生誕100年を記念して復刻された豪華画集、文芸作品につけられた挿絵が素晴らしい。大胆な省略から生まれる抒情性豊かな絵柄から、音もなく透明な情感が溢れ出てくるよう。舞台美術と新聞小説挿絵という依頼仕事で才能が開花した異色の日本画家だった。