武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第4週に手にした本(20〜26)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎藤正巌著『科学協奏曲/ファラデー講話会』(中山書店1995/11)*日本人の科学者として初めて、イギリスのファラデー講話会に招かれて講演した時のノンフィクション、人工心臓の最先端技術の一端と、イギリスの格式と伝統を誇る王立科学研究所との出会いと協奏のドラマを、滑らかな達意の文章が興味深く伝えてくれる。特記したいのは、この本で著者は、日本語の句読点を一切使わずに、1行空きの段落表示と、全角、半角、4分の一画のスペースを駆使して、伝統的な日本語表記の再現を意図したこと、私はこうした表記についての実験は大歓迎、文章がスッキリしてなかなか良かった。多くの人に手にとってもらいたい実験的な科学読み物の良書。
松本健一著『谷川雁/革命伝説/一度きりの夢』(辺境社2010)*これは詩人谷川雁の評伝ではない。谷川雁が見ていた夢についての、昭和史をからめたエッセイ集である。谷川雁を巡っては、いかに多様な捉え方があるか、改めて気付かされた。95年に亡くなった時点で、私も思わず「詩は滅んだ」と言うあの名台詞を思い出した。滅んだはずの谷川雁の余韻が行間から聴こえて面白かった。ノスタルジック染め上げられた60〜70年代の薫りがする。
大森望/豊崎由美著『文学賞メッタ斬り! 』(PARCO出版2004/3)*いったい幾つあるのか、数ある文学賞をまな板にのせて、著者二人の言いたい放題の対談集。文学賞をめぐるエピソードのエンターテイメント性を掘り起こした、目からウロコの力作。誰もが薄々気付いていたことを、まとめてズバリと言い当ててくれて痛快。こういう文学の愉しみ方もあるということを教わった。
川本三郎/齋藤愼爾編『久世光彦の世界/昭和の幻景 』(柏書房2007/3)*久世光彦の個人特集ムックスタイル本、追悼文、対談、文庫作品の解説集、アルバム、作品集、年譜、著作目録など、400ページを越える大冊のどこを開いてもまさに久世光彦の世界、久世ファンなら暇な時のために是非手元に置いておきたい一冊。
高峰秀子編『おいしいはなし/台所のエッセイ集』(光文社文庫1998/11)*高峰秀子の料理エッセイ集たと勘違いして手にした本だったが、20数名の料理エッセイ集だった。だがしかし、食べ物をネタにした時の名文家の文章の冴えはどうだろう、美味しい文章に目を瞠ることしばしば、思わぬ収穫だった。食を語ることは、ほどんど直接に人生を語ることに近い。珠玉のアンソロジーだ。
榎本秋著『時代小説最強ブックガイド』(NTT出版2009/12)*このところ書店の文庫本コーナーの一区画を占拠している<文庫書き下ろし時代小説>の繁栄振りをガイドしてくれる、時代小説好きのためのブックガイド。厳選しても140タイトルもシリーズがあるとは吃驚、読んだことのある話のほとんどがやや古典扱いの<おさえたい名作30作>に含まれてしまっていた(笑)。