KOEI The Best 信長の野望・天下創世 with パワーアップキット

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週末にこの信長の野望を一日(まさにその通りの意味で)プレイしていたら風邪をこじらせてしまったという説はただの一解釈に過ぎません。信長の野望となると僕は中学の頃から平気で生活を壊してしまうから、この年になってまで、まったくアホですよねぇ。
とはいえ、本作はそんなに面白くありませんでしたけれど。初回プレイでは定番の伊達輝宗−正宗を駆使して米沢城から天下統一。初級でのクリアでしたが、難易度が上ったところで楽しみが増えるようなこともなさそうなので、これで完了。すぐ売りに行きますわ。
どれだけ離れている敵国でも直接攻め込める「本拠地」という概念や、大勢力・城主同士が一堂に会して戦う「決戦」も、使いようによっては面白い新機軸ではありますが、いかんせん使い勝手が悪い。騎馬鉄砲隊が編成できたり、狩場・茶会が常時開催できる国を本拠地にすれば何かと便利だけど、攻め取った領地に敵が反撃してきたら、迎撃するのは隣国周辺の自勢力のみ。離れている本拠地からは迎撃にいけないので、結局配下の精鋭部隊を敵国と接する領地に移動させながら侵攻していく、これまでの戦略のほうが効率が良かったりするワケで。
また、「決戦」にしたところで、概念的には関ヶ原の合戦クリエイターといったところで血沸き肉躍るテイストではあるんですが、僕のやり方だと城主は残念ながら城代といった位置づけなんですよね。本拠地に政治能力の高い文官と、戦闘力の高い武官を集結させて、文官をもって本拠地や主要な領国を速成で優秀な兵站とし、物資・兵士を増やしながら武官を3軍団程度編成し、1時節に3回出兵していく。だからもぎ取った領国の城には、文官にも武官にもなり損ねる平均以下の武将が城代家老程度に割り当てられていくのですよ。
この決戦システムを生かすのなら、優秀な武将を領国に縛り付けておくような配慮が必要だったと思うんですよね。以前の信長の野望シリーズであったような、武将への俸禄を領国の石高と直結させて、その国の石高分だけ武将に俸禄を与えることができるという(あれは好きなシステムだったなぁ)ように。家臣にたくさんの俸禄を持たせるために開墾に勤しむなんて、大名の姿として惚れ惚れするじゃありませんか。ねえ?
その領地のうちで最も石高の高い武将が城主になって、それ以下の石高の武将は城主と陪臣(侍大将)のような関係になる。その上で城主を束ね地域ごとに軍団を編成し、各軍団長が家老になるといった、石高と身分、役割と任務が関連しているようなシステムであったなら、この決戦システムは大化けしたと思うんですよねえ。
能力があるから報いが大きい、俸禄が高いから城主になり、さらに能力が高ければ軍団長に抜擢されるという、道理と選択が巧みに合わさった家臣団統制システムであったならば、決戦とは軍団と軍団の戦いであるべきで、それこそ関ヶ原の合戦はたった一戦場の戦いではなくて、徳川秀忠が真田に足止めされたり、富山、九州、東北に至るまで全国同時多発の決戦集合体であったわけですよ。まさに「かくあるべし」でしょう。
各軍団が各地で雌雄を決し、その結果生き残った部隊を束ねて、大名同士が最終決戦に及ぶというようなスケール、どうせ新しいことをやるならとことんやっちゃって欲しいわけですよ。どうにもこのシリーズは、新作ごとの新しい取り組み、「とりあえず取り組んで見ました」とでも形容されるチャレンジ精神の表層的な発露、見た目騙しに終わってしまうのが毎度残念でなりません。
「これはいい!」というシステムはこれまでいくらでもあったわけですよ。だけど取り組みが浅いばっかりに上手く生かしきれていなくて、次回作では別の新しい取り組みに隠れて廃止されてしまっていたりする。僕がこのシリーズで本当に好きなシステムは、「烈風伝」(だったかな)。衛星写真を取り込んだ全国1枚つづりのマップに、自分の好きな場所に田畑や商業施設、街道から支城まで自由に設計できるシステムです。
あれは本当素晴らしかった、大好きでした、大抵1回クリアすればプレイ自体を封印してしまうものを、これは3回プレイしましたから(伊達家と足利義輝と羽柴(豊臣)秀長←これは無理矢理大名化、もちろん役者は高嶋政伸)。本当に好きでしたね。何より自分の領地と他国の領地が地続きであることを体感できるのがいいのです。塀のない箱庭というか。
自分が「ここに欲しい」と思った場所にお城を築けるなんてとっても素敵なことじゃないですか。箱庭作りの楽しみに戦略性を持ち込んだそのピントは冴えていたのに。次回作はきっと自分の好きな名前の城で種類も選べたりするのかなあと思っていたら、あっさり廃止。なんでやねん。
箱庭遊びをしていて、狭くなってきて、隣の遊び場が欲しくなったから攻め込むという天下御免の動機付けは、この全国1枚マップでこそ最大限開放されます。「あそこの平野に水田をいっぱい作りたい」「あの山間部に山城を築城したい」、領国を広げ街道を繋げる楽しみはまるで鉄道敷設ゲームのようで。箱庭の夢はまさに天下統一の夢と重なるわけです。序盤はせっせと内政に従事していても、後半になって物資や兵士に困らなくなると内政は自然疎かになってしまうけれど、箱庭遊びがそれ自体目的となれば、そういうことはなくなると思うし。
あと、戦闘シーンを3Dにしたりして、ビジュアル面で"魅せる"というのもゲームとしては重要だとは思うけれど、純粋に戦術を楽しむという意味では、以前のシリーズでは当然だった"凸"表示のヘックス戦がやっぱりベストだと思うんですよね。歴史群像シリーズを何冊持っているかで青春の価値が決まるご時勢を生きてきた自分史的に、部隊とはあくまで"凸"でありまして、凸と凸のぶつかり合いに血が滾り魂を揺さぶられるものですよ。だから僕なぞは、リアルタイムにするならこのヘックス戦をリアルタイムにしろよ、凸をリアルタイムで動かさせろよと思わずにはいられません。
側面攻撃や挟撃作戦、中央突破など、部隊同士の戦術に志向を凝らすにはコマの表示をシンプルにすることが欠かせないのに、それとは逆に兵隊さんたちのキメの微細さばかりにこだわっているシリーズの最近は、本質的に間違っているんじゃないかなあ。少なくとも、僕がシリーズに求めているものとは違います。信長の野望のグラフィックでこだわっていいのは、武将の顔と城郭だけだというのに。
部隊の上位概念である陣形についても、気がつけばばっさりなくなってしまったのも残念。そもそも陣形というのは(以前のシリーズであったような)システムとして組み込むべきものではなくて、プレイヤー個人が「敵に良く勝とう」という目的意識が作り出すクリエイティブ(コツ)であるべきだと思うんですよね。多対多で戦う場合、いかに敵を自軍の包囲網に持ち込めるかという点にかかってくるわけで、背中の取り合いや各個撃破といった戦術上の常套手段を総合的に成功させるためには、陣形を固めて当たるのが一番手っ取り早いのですよ。
「天下創世」のような、1部隊だけでノコノコ出張ってきた敵さんに味方全部隊をぶつけて楽ショー、みたいなバカ丸出し推奨の本作はまず間違っても、戦術シミュレーションとは呼べないシロモノ。内政の箱庭遊びにも言える、地味な面白みこそが「信長の野望」の長所であったものを、中途半端に派手にして、地味さを取っ払って、いったい何が残るというのでしょう。シンプルであるべき部分に嗜好を凝らし、複雑であるべき部分を簡易にしてしまう。水軍はどうした、諸勢力はどうした、支城はどこいった、取り壊したはずの小天守に入って休息するとはなにごとた、死んだはずの兵士が増えるとはなにごとだ!
不思議はいっぱいだけど、残るものは何もない。僕にとって何も残らない「信長の野望・天下創世」なのでした。これじゃあ風邪のこじらせ損ですぅ。