出版記念パーティ(2)

 小黒さんは、ヤァヤァと言うような気軽さでマイクの前に立って、このパーティが開かれる事になった経緯から話し出した。

 姉貴からの遺言で、葬式の進行を頼まれた事。「葬式は普通にやるもんだ」と言って断り、お別れ会を引受けた事。2冊の本の出版記念パーティとなり、サッカーの国際試合の影響が有りながらも沢山の人(トータル2〜300人か)にいらしていただけて、華やかになった事。とは言え、絶対に「あいつが来てない」って怒ってるだろう事。そう言うのも含めて、今日は明るく、そして、皆で本を宣伝しましょう。と、言うような内容だった。

 そうそう、会場にロス疑惑の、三浦和義さんが居て、小黒さんは、安部譲二似の顔でサラッと、「今日は三浦さんを始め、前科者の悪い奴らが沢山来てる。そういうのを見てると、やっぱり、良い人は早くに逝ってしまうんだろうな」と言った。毒がきいていて、いい話しだった。


 司会が、「良い人とか悪い人とか言うと、次から話す人が困るじゃないですか」と、言って、信州知事田中康夫さんを紹介した。

 「今日のパーティで出されて居る白ワインは、インソリアと言うイタリアはシシリーのワインですが、私も昨年、現地へ出掛けた際、大変に感動して、箱で買い求めました。さすが中尊寺さん。常に、先を歩いていらっしゃる方だなぁと思いました」と、褒めてんだか自慢してんだか、よく分からない、またもや康夫ちゃん節でスピーチを始めた。

 その後、「中尊寺さんは、僕と食事に行っても、浅田彰と電話ばっかりしちゃって」とかやきもちを妬くふりをしたり、「やっぱり強いのは女性だ」と言う話をしたのだけど、私は冒頭のワインの話が一番面白かった(面白い為にしてる訳じゃないと思うけど)。


 そして、乾杯の音頭を外務省アトランタの総領事、久枝さんがした。A4の紙を4〜5枚持って出て来たので、私は少し不思議に思った。イメージ的に、こう言ったスピーチは、沢山してきている筈なのに、って。

 久枝さんは、昨年夏、中尊寺アトランタの外務省に呼ばれる経緯を簡単に話し、その頃から1月末までの往復書簡(メールか)を、自分の心境をおりまぜて読み上げてくれた。

 姉貴がアトランタに行く前、私は何度も自慢された。「外務省だよ! 本物の晩餐会付きだよ!」確か私は、その時軽く、「凄いねぇ」と言って、あまり信じていなく、帰って来てから本当になったんだね!」と物凄く驚いた。その時、カーター元大統領にお会いした話を聞いて、更に驚いた。良いネタになって、書き捲るんだろうな、楽しみだな、と思った。

 久枝さんは、「やっぱり英語が」の解説も書いてくれているのだけど、それを読んだ時、しなやかで繊細な心を持った人の書く文章だ、と思ったが、実際は文章だけじゃなく、声や態度も素晴らしい人だった。

 そんな感じだったので、久枝さんのお話の間、殆どの人が待ちきれず、手にしたグラスに口を付けた(笑)。


 次にスピーチをしたのは、マイクロソフトの○さん(AIUTO! 名前が出ない人が多すぎる!)アフリカのボランティア寺子屋活動についての話をしてくれた。

アフリカンネイバーズ

アフリカンネイバーズ

 アフリカと言えば、姉貴の本に「アフリカン・ネイバーズ」というのがあって、そのオープニングパーティで、当時、鈴木宗男さんの秘書だったムルアカさんにスピーチをして貰ったんだけど、この日も来てくれていた。背が高いので目立つ。


 そして、次の方の名前もメモし忘れたのですが、「やっぱり英語をしゃべりたい! 英語負け組からの華麗なる脱出法」祥伝社の担当の方から、本の依頼をしてから、本が出来上がる日までの話がされた。

 入退院の合間の執筆。この本に対する、姉貴の思い入れやエピソードを、時々流れ落ちる涙を拭いながらも力強く話してくれた。最終の原稿(ゲラチェックか)は亡くなる2日前で、彼女が一日も早く見本を作ろうと土日を潰して頑張ってくれた話は、本当にリアルで、有り難かった。

 私も泣いてしまったが、隣で聞いていた大橋さんも泣いていて、でも、ちょっと笑って、「彼女が泣くから、つられちゃったよ。困るよね」と言った。私もちょっと笑った。

 次は、もう一冊の「新ニューヨークネイバーズ」担当の方の話。彼女は、姉貴と遊びに行った話、世話になったなぁって言うような話をした。本当に面倒見の良い人だったなぁって。


 ここで一旦ご歓談となった。(携帯で書いてると一苦労だ。みなさんの話が長かった様な気さえしてきたが、実際に聞いていると、あっと言う間だった)

 いつの間にか、ビュッフェに沢山の料理が並んで居て、みんなが食べていた。私も並ぼうと思ったが、物凄い列が長くて、並んでいる間、若山さんと話していたんだけど断念せざるを得なくなった。次の方のスピーチが始まったのだ。スピーチは最前列で聴くと決めていた。次は、デヴィ・スカルノ夫人だった。

 こんな事を言ったら失礼かも知れないが、間近で見るデヴィ夫人は本当にチャーミングで可愛らしい印象だった。飾らない言葉で、思い出話をし、このパーティを素晴らしいと誉め、最後に「合掌」と言って締めた。姉貴はデヴィ夫人が好きだったから、本当に喜んでくれてると思う。


 次は、姉貴の結婚式でもスピーチをしてくれた中谷彰宏さん。余計なお世話だが、なんだか凄く疲れていた。悲しくて、と言う雰囲気ではなく、言葉に力が無かった。

 年末に、「直接電話に出ろ」なんて言って電話が掛って来て、出たら何て事無い話だった。変だなぁって思った。と言う話をした。確かに今思うと、年末にかけて変さが際立つ言動があった。

 11月の末、私は鶴見から三鷹に越した。引越しの前日に姉貴からメールが来た。「横浜から出て行くのはやめなさい。寂しいよ。」私は心の中でこう叫んで、返信を出さなかった。「何言ってんの? アメリカでもアフリカでもヨーロッパ、何処でもじゃんじゃん行く癖に! 日本にばかり住んでられないって言ってた癖に!」。

 12月にパーティで会った時だったと思う。やっぱり今までの姉貴だったら言わない様な事を言った。

 「最近思ったんだけど、子供が居ない生活も、それはそれでアリだと思うよ」。なんだか寂し気な物言いだった。私は子供に関して常にノーコメントを貫いて来て、それを姉貴は知ってる筈だから、余計返答に困った。「何? 急に」と聞き返したら、ぱっといつもの表情に戻って、「だってさー、ちょっと出掛けるのも大変じゃん」って心底は思って無いだろう事をヘラヘラした調子で言った。本当の意味は他のあると思ったが、私は自ら話したいと思ってする話以外を聞くのは好きじゃないので止めた。


 2回目のご歓談の時間になった。この頃には、ビュッフェの前の列はだいぶ短くなっていて、私はちょっと並んだだけで皿に料理を盛る事が……、実際はもぞもぞやっている間に、見知らぬご婦人やウェイター達に盛って貰い、料理にありつく事が出来た。

 「親族」と言うプレートを、ジャケットのポケットから下げているので、知らない人からも、知っている人の友達の友達という人からも、沢山酔って陽気に声を掛けられた。パーティは盛り上がっていた。

 大橋さんが高城剛さんと話していたので、何となく話の輪に交ざった。私は、「一昨年、高城さん企画のMac Powerのパーティに行きましたよ。そんで、その後、みんなでAgeHaに流れたりして……」と言ったら、「また、遊びに来て下さいよ」と言った。うーん。姉貴なしじゃ行かないと思う。社交辞令でも、悲しいなと思った。

 余談だが、高城さんはその時に比べてもの凄く痩せて見えた。足に張り付く様に細く穴だらけのジーンズがビシッと決まっていて、「凄く痩せましたよねぇ」と訊いたら、「えー。3kgしか痩せてないんだよ。でも、ジムにはまってて、今、体脂肪8%!」と言った。3kgでも肉の質が変わると、やっぱり違うな、と思った。


 お開きという時間になり、まずは兄さんのスピーチになった。お集まりいただいた方々への御礼を言い、あくまでも本の出版記念パーティだという事をシンプルに伝えた。

 そして、七生さんのスピーチになったのだが、会場が暗くなってスポット、カメラ寄る、みたいな演出はちょっと暗いよなぁーと思った。ドドド素人なので、その演出を生かし切れていなかったし。家で何となく練習はしたんだろうなぁ、という感じの堅苦しい、でも辿々しいスピーチだった。尻切れトンボの終わり方で、会場がシーンとしてしまった。「ありがとうございました」でも最後に付け加えれば、拍手して貰えて終わる事が出来ただろうに。まぁ、トリだから気負って飛んでしまったのかな?

 少しずつ人が居なくなり、写真が撮りやすくなったので、ふらふらしながら写真を撮った。NY旅行(http://homepage2.nifty.com/yasno/ny/index.html)の11/12に食事をした長峰さんとカードを交換した。長峰さんは、「そういやぁ、坂本さんの所で康乃ちゃんが撮った写真がみんなぶれていて、中尊寺さんが凄い怒っていたよね」って、恥ずかしい事を覚えていて言われてしまった。何度も書くし言うけど、「だって、緊張し過ぎていたんだもの!」。

 桜沢エリカさんと大橋さん、川西が真剣な顔で話をしていたので、私は、青木さんと高津君と下らない話をしていた。終わったなぁって頃、もう、お客さんは殆ど居なくなったので、K DUB SHINEさんと話していた兄さんと話をし、会場を出た。

 受付でお土産を貰っていると、会社生活の友(http://www.kaishaseikatsu.jp/)のイトウさんが来て、「みんなで写真を撮りましょう! みんなでみんなで!」と言って、集まって写真撮った。パーティのお開きというのは、いつでも物悲しい。みんなその雰囲気をかき消す様、口々に「笑って笑って! 出版記念パーティなんだから!」と言った。

 みんなみんな、本当に暖かかった。私が言っても良いだろうか。パーティに来ていただいた皆様、本当に有難う。