『Theatrum Insectorum』の「蝶蛾」を読む。(5) 蝶蛾の名称について。

 さて,これで,ようやくモフェットに入ることができる。
 正式な本のタイトルは

『昆虫すなわち,より少さな動物の劇場。かつて,エドワード=ウォットン,コンラード=ゲスナー,トマス=ペニーから始められ,最終的にロンドンのトマス=モフェットの尽力によって,最大限にまとめ上げられ,付け加えられ,完成させられた。生きているかのような表現の図版500以上』
(…)
1634年。

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 Wotton,Gesner,Penny についてはいつかどこかで。彼らについて述べ出すと例によって際限がなくなる。
 底本は http://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/60501#/summary を用いる。

  • なお,英訳がただちに出版されている。Topsel, 1658, Four-footed Beads SERPENTS の付録として,tr. Jhon Roland, The Theater of Insects; or, Lesser living Creatures; As Bees, Flies, Caterpillars, Spiders, Worms, &c. A most Elaborate Work: By T. Mouffet, Dr. of Physick.(http://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/79388#/summary)。この翻訳は,訳者に昆虫学的専門性はなさそうだが,訳としてはまあまあのものだという評価が一般である。(Topsel についても切りがなくなるのでいつか。いろいろと当時の状況について下準備をやりすぎて収拾がつかなくなっているのである)
  • もう1つ。簡単な解説と,個々の蝶蛾の部分のフランス語訳がネットにあがっている。 Jean-yves Cordier, 2016, Les papillons decrits dans le Theatrum insectorum de Thomas Moffet (1634)

 この2つは随時参照していくつもりである。
 
 
 さて,やっと本文。でも今回は前置きの前置き的な部分。

 第13章
 蝶蛾について

 「蝶蛾」は“Papilio”。Rolandの英訳では“Butterflies”であるが,ラテン語では「蝶」と「蛾」とを区別しないので,以下「蝶蛾」と訳していく。

ギリシア語では,psychê,paphos,psalyges と言われる。
sêtodokides,pemphides,pomphaloges,skênes も同じ。
しかし,一般的な名前は psychê である。
ラテン語では,papilio。アルドイヌス(1)は.campilo と名付けている。
イシドールス(2)は,Auicula。
イタリア語では,Farfalla。
ガリア語では,Papillon,Papilion。
ヒスパニア語では,Mariposa。
ポロニア語では,Motil。
ハンガリー語では,Lovoldek。
イリュリア語では,Pupiela,meteyl,motyl。
ドイツ語では,Pifnet,Mulk,Pfyfholter,Summervuegel,Zweifalter。
フランドル語では,Vleghebronfus,Botershyte。
ブラバント語では,Capelleken,Vlindere,pellerin,Boter vlieghe。
英語では,Butterflies。

※幾つかの単語で「小文字」から始まっているが,原文ママ。英訳ではすべて語頭は大文字である。

  1. アルドイヌス:Santes de Ardoynis(Santes Ardoini) +2世紀イタリアの医師,著述家。主著『De Venenis』。(参照:http://data.bnf.fr/12537372/sante_ardoini/#author.other_forms)
  2. イシドールス:Isidorus Hispalensis。6世紀セビリア神学者。中世最初の百科事典に位置づけられる『語源 Etymologiae』の著者。(参照:イシドールス - Wikipedia

 
 冒頭は各国語での名称の一覧から始まる。
 本質的な知識とは思えないが,「名義を正す」とか「ペダントリー」ということではなく,「あらゆる知識を網羅していく」のが当時の博物学的な知のあり方であるのだろう。

 (この項続く)