プルーストは『失われた時を求めて』を書くに当たって、作中にいくつかの山場を設定した。大変長い物語を読むのは読者にとって苦痛であることを彼はよく承知していたので、彼らが最後まで興味を失わずに読み進められるよう、エンターテイナーとして盛り上がるところを作っておいたのである。 最初のクライマックスは2巻の『スワンの恋』の終盤にやって来る。今回はそれについて解説する。 まず確認しておきたいのは、小説における基本的なテクニックである。以前別の記事で解説した内容を再び引用する。 それは次のようなものだ。ある一つのことを執拗に何度でも繰り返す。文章は長く、長くなっていく。その中で最初に提示された一つの物事は…