近ごろ隠れて通っている人の家が途中にあるのを思い出して、 その門をたたかせたが内へは聞こえないらしい。 しかたがなくて供の中から声のいい男を選んで歌わせた。 『朝ぼらけ 霧立つ空の 迷ひにも 行き過ぎがたき 妹《いも》が門かな』 二度繰り返させたのである。 気のきいたふうをした下仕《しもづか》えの女中を出して、 『立ちとまり 霧の籬《まがき》の過ぎうくば 草の戸ざしに 障《さは》りしもせじ』 と言わせた。 女はすぐに門へはいってしまった。 それきりだれも出て来ないので、 帰ってしまうのも冷淡な気がしたが、 夜がどんどん明けてきそうで、 きまりの悪さに二条の院へ車を進めさせた。 かわいかった小女…