「暮しの手帖」2022 6−7月号 71ページ 『ふたつの中心』 「軽さと重さ」 写真・文 茂木綾子 安泰寺という禅寺で修行していたときのこと。 庭の大きな木の下に置かれていた 車のシートの上に 読みかけの本がポツンと残されていた。 『存在の耐えられない軽さ』だった。 座禅では 重い肉体を 石ころのようにじっとさせ 自ら無意味な世界へと分入ることで そこらに転がる石や草や虫と等しく 軽くささやかな存在であることが楽しくなる。 その本も ただそこで風に吹かれているようだった。 図書館で数冊の雑誌を定期購読している。 それは好きな連載の文を読む為だ。 「住む。」長田弘の詩が長い間続いた。 ある日 …