老舗との出会い多し 私が祖父と暮らしていたころは、二世帯というやつで台所は基本的に祖母の領域であった。祖父は職人であり、若いころの時間の多くを京都での修行に使ったようで、そのせいか、我が家は基本的に淡い味付けのものが多かった。 祖父は「男子はしっかり厨房に入るべし」という考えの人で、お茶、料理は実に美味しいものを食べさせてくれた。自分でてくてく買い物に遠くまで行き、魚屋、八百屋、菓子屋、果物屋、米屋、お茶屋、豆腐屋、酒屋とそれぞれに寄るルートをもっていた。 スーパーもあったが、そこにはあまり寄らない。なかなかに不便であるし面倒くさいのだが、丁寧な暮らしとかそういうものではなく、それが祖父の価値…