【平家物語80 第4巻 還御〈かんぎょ〉】 高倉上皇が厳島にお着きになったのは、 三月二十六日、 清盛入道相国が最も寵愛した内侍の家が仮御所となり、 なか二日の滞在中には、 読経の会と舞楽がにぎやかに行なわれた。 満願の日、 導師三井寺の公顕《こうげん》僧正は高座にのぼり、 鐘を鳴らして表白を声高らかに読みあげていわく、 「九重の都を出でられ、八重の潮路をかきわけて、 ここまでお出でになられた陛下の御心は かたじけない極みである」 この神前に捧げられた言葉には、 上皇を始め諸臣みな感激した。 そのあとで上皇は 末社にいたるまで隈なく御幸になり、 また厳島の座主尊永を 法眼《ほうげん》の位に上ら…