幼稚園の帰り道、社宅の窓の格子を木の枝でなぞりながら、僕は「青い鳥」を口ずさんでいた。ザ・タイガースのメロディーは、まだ子どもだった僕の心に、そっと大人の影を落としていたような気がする。 何を歌っているのか、正確には分からなかった。けれど、その歌には“遠くを見つめるまなざし”のようなものがあって、幼い僕を少しだけ背伸びさせた。 やがて、小学5年生になると、音楽はもっと身近なものになっていった。初めて買ったレコードはアグネス・チャンの「草原の輝き」。 その頃は天地真理――真理ちゃんが時代のアイドルだった。けれど僕は、アグネスのどこか遠くを見つめるような透明な歌声に惹かれていた。 新曲がテレビで流…