山の動物のことを思うとき、いつも少しの動揺を覚える。その理由は分かっている。小さいときに度々聞かされた狐や貉 (むじな) に化かされた話、山犬に追われた話などを思い出すからだ。小さな子どもたちが集まる場で、父はいつもそんな話をして面白がっているようだった。 やや長じて5~6年生になったころか、この目で貉を見る機会があった。近所の家でその死骸を見せてもらったのだが、初めて見る貉は想像より小さな動物だと感じた。山は深く、大人たちも山中で生きた獣を直接目にすることは少なかったに違いない。「狐狸妖怪」話が生まれるのは、めったに姿を見せない動物だったからだ。 この目で直接見てからは、憑き物が落ちたように…