私がものごころつくずっとまえに、その世界はすでに失われていた。それは、本や映画やその世界を生きた少数のひとのはなしを通じてのみ、かろうじてのこされていた。私はそれを夢中になってあつめた。その世界がまぼろしであると理解したのは、不幸にしてずっとあとのことだった。 *** 好いものはいい。やはりいいものをつかうのがいい。よくないものがもつ最大の欠点は、つかうひとをよくしないことだ。 まにあわせのものばかりつかっていたら、場あたり的な人間ができあがるし、手抜きの品ばかり唯々としてつかっていたら、ちがいがわからなくなってしまう。なんにでも慣れてしまうものだ。 好いものがわからなければ「高い」とおもう品…