『コスモポリタンズ』/サマセット・モーム/龍口直太郎 訳/ちくま文庫/1994年刊 お世話になっていた先生の自宅からサマセット・モームの文庫本を十冊くらい引きとった経緯については、以前書いた。代表作とされる長編小説と、晩年に書かれたエッセイ集と、いくつかの短編集と。先生の書架には学術本も稀覯本の類もあっただろうに、それなりに長く弟子でいたはずの私の手元には世界的ベストセラー作家の文庫本ばかり残ったことを「我ながら欲もなければ学もない」と、そのときは書いたけれども。 最近になってふと、それはそれでもっともなことだったかもしれないという気がしてきた。モームという作家が繰り返し描いてきたのは、矛盾し…