シンガポールの中国系ミュージシャン。
90年、中国の伝統芸能「京劇」のくまどりをした男がジャケットに描かれているアルバムが、日本の大型レコード店を中心にヒットした。シンガポールのシンガー・ソングライター、ディック・リーのアルバム『マッド・チャイナマン』は「アジアのポピュラー・ミュージックは日本で売れない」という定説をくつがえす作品となったのだ。
シンガポールは64年にマレーシアから独立したばかりの小国だが、その地理的環境からアジアの金融センターとして発展してきた。全人口のほとんどを華僑が占めるが、先住のマレー/インド系住民との共存を進めてきた国である。中国語/マレー語/タミル語を公用語とし、各民族を統合する言語として英語が用いられている。ディック・リーは、リチャード・リーという英語名とともに、李炳文(リー・ペンブン)という中国名をもつ中華系シンガポール人である。
「マッド・チャイナマン」では、東洋と西洋、両方の文化を併せもつ微妙な心情を、オリエンタルなメロディと現代的なアメリカン・ポップスのアレンジでもって歌っている。
彼の楽曲が日本人の心を捉えたのは、「東洋と西洋」「トラッドとポップ」といった二律背反の葛藤を歌っているからだろう。自身の作品のみならず、香港の林憶蓮(サンディ・ラム)や日本のサンディーなどのプロデュース・ワークでもその才能を発揮している。
現在はレコード会社の役員としても活躍中。アジアのポピュラー・ミュージック・シーンの最重要人物の一人である。
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